「電力フェイクに騙されるな」は正しいか ~ドイツが「電力輸出国」なのには理由がある

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ジャーナリストの佐々木俊尚が5月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後の日本の電力の在り方について解説した。

「電力フェイクに騙されるな」は正しいか ~ドイツが「電力輸出国」なのには理由がある

※画像はイメージです(原子力発電所 イメージCG)

大手電力7社、6月使用分から電気料金値上げの見通し

政府は5月16日に物価問題に関する閣僚会議を開き、大手電力7社が国に申請している電気料金の値上げを了承した。各社の平均で15%~39%あまりの値上げ幅となり、6月の使用分から値上げが実施される見通し。

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西村経済産業大臣)大手電力7社より電気の規制料金値上げに対する査定方針が了承されました。7社から約3割~5割の値上げ申請がございましたけれども、直近の燃料価格などを踏まえて原価などの再算定を行い、また修繕費などの固定的な費用について、最大で23%の費用削減を求める経営効率化など、前例にとらわれず極めて厳格な査定を行ったところであります。

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飯田)今朝(5月17日)は、この話題が4紙1面トップとなっています。

佐々木)これだけエネルギーが高騰していれば当然、電力料金が上がるのも仕方ないですね。岸田政権は原発の新設も含めて、再稼働を進めると言っていますから、それを早く実行してもらうしかないと思います。

飯田)そうですね。

佐々木)ただ、どうやって再稼働させるのかということです。原子力規制委員会の調整など、政治的に解決しなければいけないところがあるので、難しい感じがします。

欧米含めてインターナショナルな情勢は「原発も再生可能エネルギーも両方やる」

佐々木)世の趨勢としては欧米も含めて、再生可能エネルギーももちろん大事ですが、それだけだとエネルギー危機を乗り越えられないので、「原発も再生可能エネルギーも両方やっていきましょう」という方向に徐々に切り替わりつつある。それがインターナショナルな情勢なのかなと思います。

飯田)原発と再生可能エネルギーの両方で賄う。

佐々木)日本では、相変わらず「原発けしからん」と言っている人がたくさんいます。確かに3.11から10年余りで、まだ記憶に新しいところもありますが、この状況では、原発容認の声に世論が耳を傾けなければならないと思います。

「電力フェイクに騙されるな」は正しいか

飯田)「原発のメーカーなどから利権が」などという話になりがちですけれど。

佐々木)ウェブを見ていたら、元経産官僚の古賀茂明さんが週刊朝日に『電力フェイクに騙されるな』という記事を書いているのです。

飯田)古賀茂明さんが。

佐々木)ドイツは電力の輸出国だけれど、脱原発をしているのにドイツは十分電力が足りているから問題ないだろう、ということを書いていらっしゃいます。でも、古賀さんは経産省にいた割に、あまり電力に詳しくないなと思いました。私は門外漢であり、専門家の人たちの発信を読んでいるだけですけれど、電力には「同時同量」という重要な原則があるのです。

飯田)同時同量。

佐々木)常に需要と供給のバランスが取れていなければならない。なぜかと言うと、石油などと違って貯めておくわけにはいかないので、100の需要があるときには100の供給、90に減ったら90の供給に減らす必要があります。再生可能エネルギーだけでは、常に同じ電力量は保てないのです。風が吹かなかったりするので。

飯田)日が翳ったり。

佐々木)そういうときに電力が足りなくなったら、需要に合わせるために供給をどこかから回さなければいけない。フランスなどの原発大国からも回してきているのが現状です。ただし、年間でトータル的に見ると、純輸出国になっている。

飯田)ドイツは。

ドイツが電力輸出国なのは、電力が足りないときにフランスなどの原発大国から電力を回しているから

佐々木)輸出国だから、他の国から供給を回してもらわなくても済むかと言うと、「そうではない」ということです。そこを理解せず、「脱原発のドイツは電力が足りているし、輸出している国だから、再生可能エネルギーだけで大丈夫なのだ」と言うのは、論理として無理があり過ぎるのではないでしょうか。専門家が読んだら一蹴されるような議論が、相変わらず大手メディアにたくさん載っている。

飯田)そうですよね。ドイツはヨーロッパ大陸のなかにあって、フランスや他の国々と送電線がつながっているからいいけれど。

佐々木)日本はどこかから回すとしても、韓国ぐらいしかありません。韓国に頼るのも危ないかなと思いますが、まさかロシアや中国から融通してもらうわけにもいかない。

飯田)できませんね。

佐々木)そんなことをして首ねっこを押さえられたら、何が起きるかわからないことは、ウクライナの問題を見ていればわかります。

自然条件的に日本では再生可能エネルギーだけで電力を賄うのは無理 ~再生可能エネルギー・化石燃料・原子力の三つ巴のなかで「どうパワーバランスを取るのか」が重要な政治判断

佐々木)日本は自国内で何とかするしかないのですが、北欧のように水力が豊富にあるわけでもなく、風が常に一定量吹き続けるわけでもない。気象条件など、いろいろ考えると、再生可能エネルギーだけで賄うのはほぼ不可能です。

飯田)日本の場合は。

佐々木)ベースロードで産業用に一定の電力を供給し続ける必要があるわけですから。そうすると、「原子力以外の選択肢はない」という話になるのですが、そのバランスですよね。再生可能エネルギーによる脱炭素。また、原子力はいいのですが、一方で事故の危険がある。

飯田)使用済み燃料の話もあります。

佐々木)化石燃料はセキュリティの問題や安全保障の問題もあります。運んでこなければならないし、脱炭素にならない。その三つ巴のなかで、「どうパワーバランスを取るのか」が重要な政治判断なのですが、そこで「原子力けしからん。原子力村が勝手に利益誘導している」と言ってしまったら、それ以上何の話も進まないと思うのです。

テクノロジーの進化と安全保障などいろいろな要素を組み立てながら、その都度バランスを取る

飯田)いまは電力を貯められないという話がありましたが、革新的な蓄電池が出てきて、「貯められない」と言っていた電気が貯められるようになると、またフェーズが変わってきますね。

佐々木)そうなれば、再生可能エネルギーで貯められるだけ貯めておけという話になると思います。テクノロジーの進化や安全保障など、いろいろな要素を組み立てながら、その都度バランスを取っていくことが大事です。

飯田)一足飛びに大理想に向かえるかと言うと、そうではないわけですよね。

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