クルマだけではない「100年に一度の大変革」 保険の世界では?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第368回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。日本の自動車保険の「100年に一度の大変革」について---
大型連休、今年は前半3連休、後半4連休と……いかがお過ごしでしょうか? 連休中の移動手段はクルマという方も多いと思います。
自動車業界は「100年に一度の大変革」というフレーズがすっかり定着しました。中でもその象徴とされているのはCASEの四文字です。すなわち、C=Connected(コネクテッド)、A=Autonomous(自動運転)、S=Shared&Services(シェアリング&サービス)、E=Electric(電動化)です。これまでも小欄ではクルマの世界、このCASEについても多面的にお伝えしてきましたが、今回は少し視点を変えて「保険」という角度から掘り下げます。
世の中には保険と言われるものは数多くありますが、このうち、自動車保険が日本で誕生したのはいまから110年前の1914年、東京海上保険(現・東京海上日動火災保険)が始めたといわれています。その公式サイトによりますと、当時、日本には1000台ほどしかクルマはなく、ほとんどが欧米のもの。ちなみに国産のクルマが初めて製造されたのは1904年、当時の世相が理解いただけると思います。
クルマが超ぜいたく品だった時代、東京海上は1914年に海上保険に加えて、自動車保険・運送保険・火災保険の分野に進出しました。これらは海上保険=船の保険ではないという意味で「ノンマリン保険」と呼ばれていたそうです。
戦後、経済成長に伴い、クルマも普及してきました。それとともに交通事故も増えてきました。事故で亡くなる方も多く、「交通戦争」という言葉もありました。こうした中で1955年には自動車損害賠償保障法が制定され、現在の自動車損害賠償責任保険=自賠責保険ができたわけです。交通事故の被害者、遺族が最低限の補償を得られるという目的で設けられ、公道=公共の道路を運転する時、加入が義務付けられています。ちなみに1955年はトヨタ自動車から初代クラウンが発売された年です。
ただ、自賠責保険では物損事故や加害者への補償はありません。また、被害者への補償額が自賠責保険の上限を超えることもあり得ます。これらを補完する形で設けられているのが任意保険です。クルマを運転する時は、強制加入の自賠責保険に、任意保険への加入がほぼ常識になっています。モータリゼーションが発達しても、交通事故は起きますし、いつ自らの身に降りかかってくるかわかりません。まさに「転ばぬ先の杖」というわけです。
損害保険業界、去年はビッグモーターの不正などで大きく揺れた一年でしたが、そんな中でも、保険の進化は続いています。
「急加速が増えています。ご注意ください」
「テレマティクス保険(以下 テレマ保険)」では、クルマの運転で急加速や急減速が目立つとこのような警告のメッセージが流れます。このテレマ保険、従来の保険に通信機能を持たせることで新たな可能性を広げていこうというものです。急加速、急減速など走行データによって運転傾向を分析、「安全運転スコア」をつくり、保険料の割引につなげていきます。
クルマにもパッシプ・セーフティ(衝突安全)とアクティブ・セーフティ(予防安全)という概念があります。衝撃安全ボディ、シートベルト、エアバッグのような衝突後に被害を最小限にするのがパッシブ・セーフティ、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱防止支援システムのような、事故を未然に防ぐものがアクティブ・セーフティです。スコアによって、安全運転を促し、事故を未然に防ぐ…テレマ保険は通常の保険にアクティブ・セーフティの要素が加わったものと言えるでしょう。
ちなみに、テレマティクスとはテレコミュニケーション(遠距離電気通信)とインフォマティクス(情報システム分野)の造語です。開発したあいおいニッセイ同和損害保険自動車保険部の鈴木厚裕テレマティクス開発グループ長は「走行データに基づいて安全・安心に役立つサービスを提供して、安全運転を促進する。それによって事故を未然に防止する。“事故を起こさせない保険”だ」と語ります。
「見守るクルマの保険」と名付けられたテレマ保険、その原型は2004年に始めた実走行距離連動型保険「PAYD(ペイド)」にさかのぼります。2015年にはイギリスのテレマ保険最大手のITB社を買収。開発の知見を積み重ねていきます。
「テスト用の車両で何度もテスト走行したり、運転感覚と実際のスコアが合っているの検証しながら開発した。世界中の走行データを取得した」(鈴木グループ長)
走行データは昨年(2023年)末の時点で、実に地球414万周に上ります。当初は車載用の専用通信機を使っていましたが、現在はドライブレコーダー、そして今年に入ってスマートフォンでナビゲーション機能と連動して対応できるようになりました。
スマホには「加速度センサー」というものがついています。スマホの動き……机の上にあるのか?手に持っているのか? ポケットにいれて歩いているのか?……これらを検知できるのは、加速度センサーのなせる業です。例えば、スマホについている歩数計は、これを応用したものです。同様にスマホホルダーでテレマ保険のスマホをクルマに取り付けておけば、急加速や急減速の動きも検出できるというわけです。
このテレマ保険、あいおいニッセイ同和損保によれば、昨年末までの保険保有台数は約190万台に上ります。そこで得られる膨大な走行データ、いわゆる「ビッグデータ」は保険としての利用にとどまりません。そこにはまさに自動車のCASEの世界を広げる可能性があります。例えばこんな取り組みです。
・急ブレーキなどの発生頻度を地図にプロット、保育園児の散歩コースの危険度を示すデータとする
・警察が公開している交通事故の発生場所とデータを連動させた「交通安全マップ」作成
・運転中の上下の振動データを異常個所と推定し、道路整備に役立てる
さらに、先月(3月)からはトヨタと共同で、燃費のデータから安全運転による二酸化炭素の排出量を計算して、温室効果ガス削減にもつなげる取り組みも始まっています。
そして、自動運転への期待も高まっています。自動運転走行中の運転の保険料を無料化するなどの対応です。それは将来、保険の形をも変えていく……そんな可能性も秘めていると言えます。
「クルマはこれから必ず自動化に進んでいく。自動車保険のあるべき姿も大きく変わるかもしれないということも論議している。人がクルマを運転しなくなるとどこにリスクがある?これは自動車保険なのか?大きな論議になっていくだろう」(鈴木グループ長)
日本の損害保険業界は、かつては外資の新規参入が厳しく制限され、国から手厚く保護されていました。いわゆる「護送船団方式」です。これにより、自動車の保険料も各社ほぼ一律の時代が長らく続いていましたが、1996年に保険業法が改正されて保険の自由化が実現し、その後、外資を巻き込み様々な保険商品が生まれました。その世界はまさに様変わりしています。
今回お伝えした「テレマティクス保険」。海外ではハイブリッドカーで電気モーターのみで走っている割合が高いほど保険料の割引がある、そんな商品も出ています。コネクテッド、自動運転、シェアリングにも大きく関わってくるテレマ保険ですが、大きな視点で見た発展のカギは、やはり、土台となるビッグデータをどれだけ集め、活用できるかにかかっていると思います。
自動車保険誕生から110年、「100年に一度の大変革」といわれる自動車本体に勝るとも劣らない地殻変動が起こっています。
(了)