ビッグモーターの不正は1社だけの問題ではなく、保険をめぐる車販売業界全体の「構造的な問題」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が8月2日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ビッグモーターの保険金不正請求問題について解説した。

ビッグモーターの不正は1社だけの問題ではなく、保険をめぐる車販売業界全体の「構造的な問題」

ビッグモーター 外観=2023年7月20日午後 写真提供:産経新聞社

ビッグモーター不正問題、政府が「損保ジャパン」を重点調査

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鈴木金融担当大臣)損害保険ジャパン株式会社については、当社が昨日公表した通り、顧客の被害回復に向けた適切な対応に加え、本件に関する事実認識やビッグモーター社への出向者にかかる事実関係、1社だけ顧客紹介を再開した際の経緯などについても確認を行うこととしております。

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飯田)鈴木大臣は、ビッグモーターで不正が横行した期間に出向者を出していた「損害保険ジャパン」について重点的に調査し、契約者保護に関わる問題が発覚すれば「厳正に対処する」と明らかにしています。損保ジャパンは出向者が30人以上とかなりたくさんいて、他の損保大手も出していたけれど、突出して多いということです。

佐々木)街路樹を枯らすなどの内向き論理の会社が、令和の世になっても存続していたことが驚きです。

損保ジャパンは修理会社としてビッグモーターを紹介し、ビッグモーターは中古車を売る際、保険会社として損保ジャパンを紹介 ~Win-Winの関係に

佐々木)そこに損保ジャパンのような損害保険大手の企業が絡んでいたのは「一体どういうことだ?」と思うのですが、各社の報道を見て、だんだんわかってきました。ビッグモーターは中古車会社であると同時に自動車修理業も行っており、この二面性が肝です。事故が起きたとき、我々は保険会社に必ず連絡しますよね。

飯田)まずは保険会社に連絡しますね。

佐々木)連絡すると、「こちらで修理してください」と会社を指定されますが、指定される修理会社が実はビッグモーターなのです。ビッグモーターとしては、損保から修理の仕事がやってくるので嬉しいですよね。

飯田)仕事が増えますからね。

佐々木)では損保側のメリットは何かと言うと、ビッグモーターは中古車も販売しています。中古車の自動車保険は任意保険と、自賠責の強制保険の両方あり、買ったときにどこの保険会社を使うのかは通常、ディーラーから紹介されます。

飯田)ビッグモーターで買えば、ビッグモーターが。

佐々木)そのときにビッグモーター側は、事故修理の件数、例えば損保ジャパンから何件、他の会社から何件と、その件数に応じて紹介する保険会社を割り振っていたようです。

飯田)修理を回してくれた件数が多い保険会社を優先的に。

佐々木)修理の紹介と保険の紹介、この2つでWin-Winになるので、損保会社とビッグモーターがガチガチに付き合いを深めていたということのようです。

ビッグモーターが代理店として販売する自賠責と任意保険の保険料は年間約200億円 ~損保側にとっては上得意のお客さん

佐々木)読売新聞の報道によると、

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『ビッグモーターが販売する自賠責と任意保険の保険料は年間で計約200億円に上るとみられる』

~『読売新聞オンライン』2023年8月1日配信記事 より

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佐々木)……と書かれており、かなりの規模です。

飯田)規模が大きい。

佐々木)もちろん損害保険の市場規模は大きいので、そのなかの約200億円は微々たるものかも知れないけれど、1社で、しかも自動車メーカーではなく中古車屋さんがそれだけはじき出しているのです。損保会社から見ると、約200億円の市場は無視できない巨大な規模です。

飯田)そうですよね。それだけ上得意のお客さんということですから。

佐々木)ズブズブの関係になるのもわかる気がしますよね。

ビッグモーター1社だけの問題ではなく、保険をめぐる車の販売業界全体の構造的な問題も

飯田)上得意のお客さんが、保険において「もしかすると不正請求しているかも知れない」となったとします。しかし、現場の人たちが把握したとしても、上から「200億円の上客だぞ。それをふいにして責任を取れるのか?」と言われたらどうするのか。サラリーマンとしては、いろいろ想像できてしまいますね。

佐々木)お客さんの車をわざと傷つけ、保険料を上乗せしていることに関して、誰が損しているのかもよくわからない。本当は保険会社が損をしているはずだけれども、保険会社としては「それで売り上げが上がるなら構わない」という不思議な構図になっているのです。

飯田)売り上げは上がりますからね。

佐々木)確かに車に乗り、たまにぶつけたりして修理に出すと「保険を使いますか?」と聞かれて、「使います」と言うと、保険を使わないときの修理とは全然違うお金のかけ方をしますよね。代車も出してくれるし。

飯田)出してくれますね。

佐々木)普通、自己負担で修理すると「代車などありません。レンタカーを出しますか?」とお金を出して借りますが、保険だと代車を出してくれる。しかもその車が大きな高級車の場合もあります。

飯田)「こんなにいい車で?」と言うと、「すみません、いまこれしか空きがないので」などと言われますね。

佐々木)その費用もきちんと保険会社に請求されているから、「湯水のように」と言うと少し言い過ぎですが、かなり使い放題な感じで使っているというのが現実ですね。ディーラー側も。

保険をめぐる車の販売業界全体の構造的な問題 ~同じような不正がまた起きる可能性も

佐々木)保険会社としては、もちろんそれで負担が増えるのだけれど、一方で売り上げが増えれば、そこをカバーできるという発想なのでしょう。そう考えると、単にビッグモーター1社だけの問題ではなく、保険をめぐる車の販売業界全体の構造的な問題なのだと思います。

飯田)全体をまとめるような組織があるのかなど。

佐々木)こういうものを是正すると言っても、売り上げを伸ばさなければいけないという至上命題がある以上、そう簡単に構造は変わらないでしょう。ここまで極端なことをやったからビッグモーターは目立ったけれども。

飯田)今回の場合は。

佐々木)「小さく少しずつ水増し」というようなことは、どこでも行われているのではないかという気もしなくはない。構造的な問題なので、仮にビッグモーターが退場させられたとしても、同じような不正がまた起きる可能性もあります。

車の事故修理市場は縮小していて、ここ20年で3分の2に ~自動運転が実現すれば事故修理の市場が消滅する可能性も

飯田)内燃機関を使っていると、専門的な知識がなければわからないところが多いので、ユーザにとっては車全体がブラックボックス化してしまうところもあるのかも知れません。

佐々木)そうですね。

飯田)これが電気自動車(EV)の社会に変わってきたとき、どうなっていくのか。

佐々木)車の事故修理の市場自体が縮小していて、ここ20年くらいで3分の2になったと言われます。事故が減っているからです。いまは安全装置が山ほどついているではないですか。車間距離が狭くなるとセンサーが鳴ったり。

飯田)自動ブレーキなど。

佐々木)自動運転化が進むと、さらに事故が減ります。そもそも事故修理で儲けるという構造自体が減ってきている。

飯田)安全装置などの影響で。

佐々木)逆に言うと、そんな状況もあってビッグモーターは、無理やり拡大路線を狙ってしまい、歪な構造になってしまったのではないでしょうか。

飯田)無理やりに。

佐々木)ただ、完全自動運転が実現してきて、逆に人間の運転そのものが減ってくると、事故修理の市場そのものが消滅する可能性もあります。

飯田)センサーの不具合があれば、そこだけをメンテナンスするなど。もしかすると「そのくらいはメーカーで全部できます」ということになるかも知れない。

町の修理工場が減ってきている

佐々木)逆にいま、町の小さな自動車修理工場は経営が難しいと言われています。車の中心部が完全にマイクロチップになりつつあるので、修理できないという。

飯田)なるほど。

佐々木)ブラックボックス化しているのです。ポルシェも昔から、ポルシェのディーラーでなければ修理できないと言われています。町の修理工場にポルシェを持っていっても、修理するのは難しい。そういう構図に変わってきています。

飯田)町の修理工場では修理できない。

佐々木)もはやディーラーとドライバーのみがいて、間にたくさんいた町の自動車修理工場がどんどん減っている。実際、いま東京ではあまり見ないですよね?

飯田)確かにそうですね。

佐々木)昔はどこに行っても、小さい修理工場がたくさんあったではないですか。

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