ビッグモーター「保険金不正請求問題」の背景にある「業界の悪しき慣習」

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ジャーナリストの須田慎一郎が7月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ビッグモーターの保険金不正請求問題について解説した。

ビッグモーター「保険金不正請求問題」の背景にある「業界の悪しき慣習」

【ビッグモーターに一斉立ち入り検査】ビッグモーター浦和美園店に立ち入り検査に入る国交省の職員=2023年7月28日午前、さいたま市緑区 写真提供:産経新聞社

国土交通省が「ビッグモーター」全国34事業所に一斉立ち入り検査

中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題をめぐり、国土交通省は7月28日、全国34の事業所で一斉に立ち入り検査を行った。また整備工場があるすべての事業所について、法律に違反する点がないか会社に調査を指示した。

飯田)記者会見も行われました。

須田)「不正請求」というマイルドな言い方をしていますが、保険金詐欺的な問題ですから、いずれは刑事事件になっていくのではないでしょうか。あらゆる法令に違反していそうな可能性が濃厚になってきたと思います。

飯田)靴下にゴルフボールを入れてわざと壊した、あるいは店舗前の街路樹に除草剤を撒いて枯らしたというような話も出ています。事実であれば、いずれも法令違反になりますよね?

須田)私が独自に取材したなかでは、ビッグモーターから車を購入し、タイヤをアルミホイールに替えたところ、最初に付いていたタイヤの売却代金を払ってくれない。そのため話を聞くと、「いまやっていますから」という返事だったそうです。

飯田)最初に付いていたタイヤは売ったのに。

須田)しかし、しばらく時間を置いて連絡したところ、クレーム扱いされて「以後会社に対する要求は弁護士を通してくれ」と言われ、お金が返ってこない状況になっているそうです。そんな話をユーザーから聞きました。恒常的にそのようなことが行われていたのだと思います。

保険会社から指定工場に事故車を回す「DRP」という仕組み ~整備工場は仕事を回してくれる保険会社からの難しい要求にも応えなければならない

飯田)一方で、保険会社から出向者をかなり入れていたようですが、行われていた不正請求を把握できなかった。

須田)今回のような不正請求問題はビッグモーター固有の問題なのか、それとも「整備業界はこういった問題を大なり小なり抱えているのかどうか」というところが、今後の注目点になるのではないでしょうか。

飯田)整備業界全体の問題として。

須田)実はビッグモーター固有の問題でもなさそうな可能性が出てきたのですよ。

飯田)そうなのですか?

須田)整備業界のなかでは、損害保険会社の役割が大きいのです。事故が起きたとき、ユーザーは整備工場や整備会社に直接連絡しないですよね。

飯田)自分からは連絡しませんね。

須田)普通は損害保険会社に連絡を取り、損保会社から指定工場・指定企業を明示されます。それから指定工場・企業に回収してもらうという手続きになると思います。

飯田)そうですね。

須田)損害保険会社は整備工場に対して、「こういう事故車が来る」と連絡する。そういった包括的な契約のことを「DRP(ダイレクト・リペア・プログラム)」と言います。

飯田)DRP。

須田)事故車を保険会社経由で整備工場に持っていくシステムです。そうなると、保険会社と整備工場は対等な関係ではなくなります。保険会社は整備工場・企業に仕事を回してくれる。言ってみれば「言うことを聞く必要のある相手先」という状況になってしまうのです。

飯田)よく町場の自動車整備工場などに各保険会社の看板が出ているのは、「ここの会社の特約店である」ということなのですね。

須田)「指定工場」ということですね。保険会社と関係を結んでいると、「自動的に事故車を回してもらえる」という状況になるわけです。そのため、損害保険会社からの少々難しい要求にも応えなければならなくなる。

DRPの仕組みによって保険会社からは割引や事故車の回収・納車費用なども無料にするよう求められる ~要求を吞まなければ事故車を回してくれなくなる

須田)そして、整備業界特有の「レバーレート(標準工賃)」があります。業界一律ではなく、それぞれの整備工場・整備会社によってばらつきがあるのですが、業界団体が概ねの基準値を決めています。

飯田)基準のレバーレートを。

須田)それぞれの工場・企業で設定していたレバーレートに基準を掛け合わせて出てくるのが、1時間あたりの工賃なのです。

飯田)なるほど。

須田)私と飯田さんが同じ工場に同じような故障箇所・損傷箇所の車を持ち込んだとして、バラバラの料金が出てきたらおかしいですよね?

飯田)確かにそうですね。

須田)要するに、同一の工賃が出てくるような仕組みになっているのです。ところがDRPにおいては保険会社から「何割下げろ」と、レバーレートの割引が一方的に求められるのです。

飯田)そうなのですか。

須田)「お宅のレバーレートをこれだけ下げろ」と要求される。それを吞まないと事故車が回ってきません。他にも車の回収や納車に掛かる費用は基本的に無料になります。

飯田)整備工場が費用を持つ。

須田)「その費用を損害保険会社に請求するな」と。あとは代車のコストについても「請求するな」と言われるようです。その上、最終的な出来上がりの請求金額から一定の割引も強制される。そうすると仕事を請け負ったはいいものの、利益が出てこないのですよ。

利益を出すためにプラスアルファの修理箇所をつくり修理費用を上げる

須田)利益を出すために何をやるかと言うと、「ここもやっておいた方がいいのではないか」「こういったところも必要だ」と、プラスアルファの話になっていく。

飯田)事故で損傷したところだけではなく。

須田)もちろん、ビッグモーターのようにゴルフボールで傷つけるなど論外であり、やりすぎなのだけれど、どの整備工場でも大なり小なりのプラスアルファはあるのです。

今後の焦点はDRPという悪しき慣例に問題はなかったのかどうか ~業界全体に波及する可能性も

須田)DRPという仕組みそのものに問題があるのではないか。今後、焦点になってくるのは、業界の悪しき慣習的なところで何があったのかです。損害保険会社は不当な要求をしていなかったのかどうか。

飯田)焦点は。

須田)今後、金融庁が損害保険会社を一斉調査しますけれど、その辺りが1つの大きな焦点になるのではないかと思います。

飯田)ビッグモーターだけでなく、業界全体に波及する可能性がある。

保険費用などが上がり、最終的には保険加入者に負担が掛かる

飯田)全体の構造ですが、DRPという仕組みはいつごろから始まったのですか?

須田)いくつか整備工場などで聞いてみたのですが、以前からこういった状況はあったということです。

飯田)お客さんからすれば、目立った損傷部分は把握していても、それ以外にどこを修理したかなどはわからないですよね。

須田)わかりません。「ここもそうだったのか」というようなことになりますからね。

飯田)「保険で直しておきましたから」と言われれば、「ありがとう」と言ってしまう。

須田)結果的に保険会社も整備工場もお客さんの方も、保険でカバーされますから、その時点でストレートな痛みはない。しかし、最終的には保険加入者に負担が掛かってくるのです。

飯田)そうですよね。保険金の月額費用が上がるなどして、最終的にはすべての加入者に負担が掛かることになります。

金融庁は業界全体に起きている悪しき慣例をどこまで把握していたか

飯田)全体の体質について、金融庁もかなり懸念を持っているのですか?

須田)金融庁サイドもさすがに「なぜこんなことが起こったのか」は見ていけばわかると思いますが、悪しき慣例があったことは把握していないのではないかと思います。

今後、ビッグモーターは存続できるのか ~会社売却という選択肢も

飯田)ビッグモーターに関しては、これだけのことが起こってしまうと、全国展開している規模を維持できるのでしょうか?

須田)非上場企業ですからね。そういった意味で言うと、もはやビッグモーターの看板ではお客さんが寄り付かないのではないかと思います。

飯田)ビッグモーターの看板では。

須田)これだけの従業員がいて、これだけの整備工場があるのですから、会社を存続するのであれば、会社売却の選択肢もあると思います。

飯田)ただ、これだけの規模になると、なかなか同業では引き受け手を探すのが難しいかも知れませんね。

須田)そうですね。相当な安値で「のれん代程度」にはなるのかなと思います。

業界全体の問題に対してすべての膿を出すのか、ビッグモーター固有の問題で収めるのか

飯田)業界全体の話になると、信頼回復しないことには中古車市場全体にまで影響が出てしまいますね。

須田)保険制度も信頼を欠くような状態になるのではないでしょうか。確かにビッグモーターはやり過ぎてしまったけれど、どこに着地させるのかも今後の注目点です。全部の膿を出すのか。それとも程よいところで、つまりビッグモーターだけの固有の問題で収めてしまうのか。

飯田)そうですね。

須田)ただ、業界の仕組みが明らかになってきている以上、行政サイドとしても悩ましいところだと思います。その上、冒頭で申し上げたように刑事事件化する可能性が高いですから。

ビッグモーターの「企業体質の問題」と「業界の悪しき慣習の問題」の二重構造

飯田)刑事事件化するとなると、やはり経営者がある意味、責任を負うような形になるのですか?

須田)その辺りに先手を打つ形で、組織ぐるみであることを否定しているのだと思います。「現場が勝手にやったことだ」と社長は繰り返し言っていましたよね。

飯田)現場がやったことだと。

須田)今後の展開を考えて、この問題が組織ぐるみで行われたとなると、自らの責任問題にも及んでくる。それを懸念し、先手を打っているのでしょう。それもいかがなものかと思いますけれどね。現場が勝手に1人でやるわけがないのだから。

飯田)ノルマなど、いろいろなことで追い詰められてのことですから。のちほど否定しましたが、兼重前社長は会見のなかで「そういうことを行った従業員に損害賠償を請求する」というようなことまで言っていました。確かにそういう布石に見えますね。

須田)企業体質の問題と、業界の悪しき慣習の問題。これが二重構造になっているのではないかと思います。

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