中国にとって「ワン・オブ・ゼム」の1つにすぎない「中国・中央アジアサミット」

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戦略科学者の中川コージが5月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「中国・中央アジアサミット」について解説した。

中国にとって「ワン・オブ・ゼム」の1つにすぎない「中国・中央アジアサミット」

XI‘AN, May 17, 2023 (Xinhua) -- Chinese President Xi Jinping holds talks with President Kassym-Jomart Tokayev of Kazakhstan, who is in China for the China-Central Asia Summit and a state visit, in Xi‘an, northwest China‘s Shaanxi Province, May 17, 2023. After the talks, the two heads of state signed a joint statement and witnessed the signing of a raft of bilateral documents on cooperation in areas including economy, trade, energy, transport, agriculture, connectivity, culture, and local affairs. (Xinhua/Huang Jingwen)= 新華社/共同通信イメージズ

「中国版サミット」で中国と中央アジア5ヵ国が結束

中国の習近平国家主席は5月19日、西安で中央アジア5ヵ国と「中国・中央アジアサミット」を開き、連携強化に向けた共同文書「西安宣言」に署名、会議は閉幕した。宣言では「国際秩序を公正で合理的な方向に発展させる」と明記し、G7主導の秩序に対抗する姿勢を鮮明にした。

G7への対抗

飯田)参加した中央アジアの5ヵ国は、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンです。G7へ対抗する意図があるのでしょうか?

中川)当然あります。中国は大国として、国際的な面で捉えていく意識があるので、その意味では、G7に対抗するということです。

飯田)G7に対抗して。

中川)ただ、中国は「国連憲章を遵守した形で」ということを常に言っているので、当然、集団安全保障体制を維持しながら進めるでしょう。

「中国・中央アジアサミット」は中国にとって「ワン・オブ・ゼム」の1つ

中川)G7に対抗するというのは、どういう意味かと言うと、「中国・中央アジアサミット」で対抗するのではなく、これはあくまでもワン・オブ・ゼムなのです。では、どのような面で捉えているのかと言うと、まず1つはアフリカです。

飯田)アフリカ。

中川)2000年から開催されている中国・アフリカ協力フォーラムには、53ヵ国が参加しています。その意味では「中国対多」、「1対多」の関係としては長く続いていますし、数としても多い。

対アフリカ、対中東、対ラテンアメリカなどのなかの、もう1つの構成として中央アジアもつくっていこうという「中国・中央アジアサミット」

中川)中東に関しては、いままでは行っていなかったけれども、ウクライナ戦争が起こり、ロシアのプレゼンスも落ちてきたので行き始めたのです。これがプラスと出るかマイナスと出るかはわかりませんが、ついに中東へ向かい出した。その結果がイランとサウジアラビアの話につながっていきます。

飯田)中国が仲介し、外交関係を正常化することで合意しました。

中川)ラテンアメリカにも手を伸ばし始めています。アルゼンチンなどでは、貿易関係でも人民元に切り替える方針です。「一帯一路」の声明を出している国は、ラテンアメリカには20ヵ国くらいあります。

飯田)一帯一路に。

中川)我々としては、一帯一路はシルクロードのイメージなので、「なぜ南米が」と思うのですが、もはやその概念を突き抜けてしまって……。

飯田)大西洋も越えてしまった。

中川)いずれにしても中国・中央アジアサミットは、ワン・オブ・ゼムの考え方です。対アフリカ、対中東、対ラテンアメリカなどのなかの、もう1つの構成として中央アジアでもつくっていこうということです。

ウクライナ戦争でロシアのプレゼンスが落ち、中東や中央アジアに出てきた中国

飯田)あの辺りの地域は、もともと旧ソ連の構成国だったこともあり、ロシアの影響力が強かった。ロシアに取って代わろうとしている感じなのですか?

中川)中東とほぼ同じ文脈で、ロシアのプレゼンスが強かったところに関しては、アメリカがいた場合には出られませんが、アメリカが退いた場合には出られます。中東や中央アジアには、アメリカ・ファクターとロシア・ファクターがあったのですが、これに関してはウクライナ戦争が引き金になりました。

飯田)ウクライナでの戦争が。

中川)ある意味では、ロシアのプレゼンスが落ちた部分があります。中国としては、ロシアとは「ボスと子分」の関係になったので、「ここでいけるぞ」という感じなのでしょう。

第2回「中国・中央アジアサミット」の開催も決定 ~ロシアの力が落ち、中国に頼るしかない参加5ヵ国

中川)彼らはインテリジェンス能力を高めるために、中央アジアや中東へついに出張ったのです。中東は中央アジアと異なり、いろいろなリスク案件を抱えています。あの内部は複雑なので、その辺りはわかりませんが、中央アジアに関しては比較的磐石な体制を取っています。今回、第1回目の中国・中央アジアサミットが開催されましたが、第2回目についても開催を決めています。

飯田)もう開催が決まっているのですね。

中川)次は2025年にカザフスタンで開催されるようです。彼らのなかではロシアが退いたことで、引き続き安定して中央アジアとのコミュニケーションを取れるような体制になったのです。

飯田)なるほど。

中川)あの5ヵ国も大変ですが、後ろ盾という意味では、もはや「ロシアでは無理だろう」という見切りもあるのだと思います。

飯田)5ヵ国にすれば。

中川)苦肉の策とまでは言いませんが、他に頼れるところがなく中国を頼った側面もあります。我々としては「そちらの陣営に行くのか」という感じがしますが、彼らにはそんなことを言ってもいられない国の事情があるのです。中国はラテンアメリカや中央アジア、中東、アフリカなどへ積極的に出張ってきたなという印象です。

不安定化している国には介入しない中国 ~「君子危うきに近寄らず」という戦略

飯田)ロシアが退くに当たって、東ヨーロッパ諸国もロシアには近いところがありました。中国はその辺りにも出ていくのですか?

中川)あの地域はヨーロッパ圏、ロシア圏の影響力が強いこともありますが、中国の戦略には「君子危うきに近寄らず」というところがあるのです。先日、タイの選挙がありました。いまのタイは不安定化しています。面白い逆説があって、不安定化していると中国の介入が減るのです。

飯田)減るのですか?

中川)「君子危うきに近寄らず」なので。

飯田)イメージとしては、そのような国にこそ積極的に手を突っ込んでいきそうですが。

中川)そうですよね。ミャンマーのときもそうですが、混乱しているときには手を突っ込まない。いまミャンマーは軍事政権が盤石になりましたが、中国は先日、武器供与をするという感じで介入してきました。

飯田)軍事政権が盤石になったので。

中川)タイにも来そうなときはあったのですが、いまは内政が複雑なので手を引いたのです。逆説的ではあるのですが、情勢不安になると中国の影響力工作を避けられる。いいかどうかはわかりませんが、そのような側面はあります。

ミャンマーやタイなど混乱しているところには手を出さない

中川)中国は一貫しています。危ないところには手を出さない。アフガンなども、危ないときには手を出しませんでした。

飯田)タリバンが完全に落として、政府をつくったような感じになってからですね。

中川)この間のミャンマーやタイなどもそうです。

飯田)タイにも華人のネットワークがあって、経済などを牛耳っている部分があります。タクシンさんも「中国に近い」と言われていたではないですか。今回の選挙でタクシン派も伸びたところがあって、「これはやはり」と、そこをつなげてしまいがちになるのですが……。

日本は安定しているが、アメリカ・ファクターがあるので介入しない

中川)そうですよね。韓国に対しても、揉めていると中国は介入しにくいのです。その意味では、日本は安定しているところがあるので、中国としては介入しやすい。ただ中国からすると、日本はアメリカの属国のように見られているので、「アメリカがいるから日本には介入しにくい」という部分があります。

飯田)アメリカ・ファクターの部分がある。

中川)その部分が若干あり、避けています。彼らはアメリカ・ファクターがなく、不安定化していないところに行くというトリガーがあります。

飯田)いままでのオーストラリアへの影響力工作も、アメリカ・ファクターがさほど大きくなかったから可能だったけれど、いまはアメリカが出てきて、AUKUSやクアッドなどの枠組みができてやりづらくなった。

中川)そうですね。政権や政治に安定性のあるところは「気をつけてください」という感じです。

飯田)向こうの手の内を知らないとわかりませんね。

中川)一見すると、混乱しているところに中国が手を突っ込んでいくような認識があって、ミャンマーのときも「中国が介入しているのではないか」と言われました。ところが蓋を開けてみると、「そうではない」というエビデンスが出てきているので、その辺りを我々は見るべきです。

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