ジャーナリストの佐々木俊尚が2月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「社会正義派」からリベラリズムを取り戻すために必要なことについて解説した。
「リベラル」と名乗っている人が自分たちの意見に反する人を排除する傾向が起きている
飯田)佐々木さんはメディアプラットフォーム「note」に、「リベラリズム」というテーマでお書きになっています。最新のエントリーは『「社会正義派」からリベラリズムを取り戻すために必要なこととは』というタイトルです。
佐々木)私は「社会正義派」と名付けたのですが、「リベラル」と名乗っている人が最近、リベラルと言っている割に多様性を大事にせず、自分たちの意見に反する人たちを排除しようとしたり、やけに攻撃的だったりする。「変だな」とみんな思っているのではないでしょうか。
エコノミスト誌が「リベラル左派は、中世カトリック教会のような宗教国家へ復帰している」と警告
佐々木)実は日本だけでなく、アメリカやイギリスでも同様のことが起きています。一昨年(2021年)に「エコノミスト」という雑誌が特集していますが、リベラル左派はリベラリズムから離れて、中世のカトリック教会のように魔女裁判をしたり……。
飯田)規範から逸脱した人間は叩きのめしてしまう。
佐々木)「異端は叩きのめす」というような方向に進んでいて、おかしいということを書いています。
noteに公開された書籍『「社会正義」はいつも正しい』の解説文が猛批判を受ける
佐々木)イギリス、アメリカでも同じような状況が起きている。翻訳家の山形浩生さんが翻訳した『「社会正義」はいつも正しい 人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて』という書籍が2022年に刊行されました。アメリカの本なのですが、アメリカでも大学の先生が「生物学的に見れば女性と男性は違うものだ」ということを発言すると、それだけで大学の職を追われることがある。
飯田)それがポリティカルコレクトネス違反になってしまう。
佐々木)かなり過剰に、おかしな方向に進んでしまっている。「なぜそんなことが起きているのか」を現代思想の潮流から分析している本が、『「社会正義」はいつも正しい』です。この本の翻訳者である山形さんの解説が、刊行時に「note」のプラットフォームで公開されたのです。そうしたら猛批判を受けて、版元の早川書房がその記事を取り消す事態になりました。
飯田)この本で指摘されている「マイナスの部分の騒ぎ」が実際に起きたのは皮肉ですよね。
リベラルではなく「社会正義派」である ~自分たちの社会正義に合わない人たちを排除する
佐々木)もはやリベラリズムでも何でもない。リベラリズムとは「我々が幸せに平和に暮らすために、みんなで議論して物事を進めていきましょう」と。「そのためには多様性が大事」というのがリベラリズムの根幹なのです。
飯田)基本的にリベラルは自由という意味なのだから、「持って生まれた自由がある」というところが立脚点ですよね。
佐々木)ところが、いまリベラルと名乗っている人たちは、議論せず、排除することで世の中をよくしようと考えているのです。
飯田)リベラルと名乗っている人たちは。
佐々木)まさに昔のカトリック教会ですよね。魔女裁判で魔女を排除すれば大丈夫だという。それはリベラリズムでも何でもありません。ですので、私は社会正義をやたらと言う人たち、「自分たちの社会正義に合わない人間は排除する」という方向性の人たちを、「社会正義派」とでも名付けた方がいいのではないかと思います。
飯田)リベラルという名前で呼んではいけないだろうと。
佐々木)そうなのですよ。
「社会正義派」にはきちんと議論していくことが大切 ~相反するイデオロギーの人と議論することを嫌がる
佐々木)ただ、向こうが排除の論理を言ってくるのに、こちらも排除の論理で対抗してしまうと、同じ穴の狢になってしまいます。そこは排除せず、きちんと議論していくことが大切です。
飯田)こちらは排除せずに議論しましょうと。
佐々木)しかし、彼らは意外に議論したがらないのです。お仲間同士で盛り上がるのは好きなのだけれど、自分たちと相反するイデオロギーの人たちと議論するのは嫌がるという、不思議な風潮がある。
相手をキャンセルせず、「いつでも議論に応じます」と言い続けるしかない
佐々木)その代わりに排除するという方向なのですが、きちんと議論していくことが大事なのかなと思います。決して相手をキャンセルせずに、「いつでも議論に応じますよ」と言い続けるしかないのでしょう。
飯田)頭から否定するのではなく、まず受け止めた上で「でもね」と議論していく。
社会正義ではなく、「リベラリズムに基づいた多様性の議論をしましょう」というところに持っていく
飯田)「人の話をまず聞きなさい」というのは、子どものころから言われていたことですよね。
佐々木)小学生でもわかると思うのですが、本当にこの人たちはツイッターでブロックするのも好きだし、議論したがらないので、何とか対話の芽があるのだということを伝えていくしかない。そこから少しずつ解きほぐしていって、社会正義ではなく、「リベラリズムに基づいた多様性の議論をしましょう」というところに持っていくしかないと思います。
良識的な中道派の人達が黙ってしまうのはよくない
飯田)それをメディアなど、オープンな場に並べて「みんなはどう思う?」と、穏健な人たちを巻き込んでいく形ですか?
佐々木)リベラルな人たちは、「自分たちに反対するのは右翼だ、ネトウヨだ」と言っているのですが、右翼もネトウヨももちろんいますけれど、大半の人は良識的な中道の人たちです。その人たちが黙ってしまうのは、社会としてよくないと思います。
飯田)大声で喚き散らしている人たちがいると、引いてしまったり黙ってしまう。確かにみんなの心理としてはありますね。
佐々木)ちょっと口を挟むと急に「ワー」と攻撃されるので、みんな怖いから口を出さなくなり、サイレントマジョリティになってしまう。
飯田)それは不健全だという話ですね。
佐々木)もちろん。
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