数量政策学者の高橋洋一と防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が6月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後のウクライナ情勢について解説した。
ウクライナの反転攻勢は始まっている
飯田)ウクライナ情勢に関して、ダム決壊から1週間が経過しました。「反転攻勢が本格化か」などと言われていますが、反転攻勢はもう始まっているのですか?
高橋杉雄)ありとあらゆる情報が、「始まっている」ことを指し示しています。相当激しい戦いが展開しているようです。
第二次世界大戦の際もナチスの進軍を止めるためにダムを破壊した旧ソ連
飯田)ダムの破壊については、どちらがやったのかもまだ定かではないと言われています。
高橋洋一)第二次世界大戦のときも似たような話がありました。戦争の際には起きることなのです。あってはいけませんが。
飯田)当然ながら国際法違反ですものね。
洋一)第二次世界大戦のときも旧ソ連がやりました。歴史は繰り返すというような感じもします。
飯田)これも焦土作戦のようなものでしょうか?
洋一)当時もソ連は「ナチスの進軍を止めるため」に行ったのです。今回もロシアはウクライナをナチスに見立てていますからね。「なるほど」と思ってしまいました。
さまざまな物的証拠からもロシアが仕掛けたと考えるべき
飯田)いまのところ、どちらがやったのか明確ではありませんが、状況証拠を見て「どちらが得したか」を考えると、「ロシアなのでは?」とも思いますが。
杉雄)そうですね。また、ノルウェーの地震計でも大規模な爆発が検出されていますし、アメリカの早期警戒衛星も赤外線で爆発を捉えています。
飯田)爆発をそれぞれ検出している。
杉雄)大きな爆発を起こすためには、多数の爆薬を仕掛ける必要があります。多数の爆薬を仕掛けられるのは管理している方ですから、いまとなっては、やはりロシアが仕掛けたと考えるべきでしょうね。
ウクライナ軍がドニエプル川を渡る作戦を用意していたのであれば、進軍に影響が ~水は引くので一時的なことにすぎない
飯田)ドニエプル川の下流では浸水被害が広がっています。ダム破壊による反転攻勢への影響は大きいですか?
杉雄)ドニエプル川を渡れなくなったことがポイントです。ウクライナ軍が川を渡る作戦を準備したとすれば、それができなくなっているので、大きな影響があるのではないでしょうか。
飯田)ウクライナ軍が川を渡る作戦を準備していたのならば。
杉雄)ただ、準備していなければ、実はウクライナ側に大きな変化はないのです。
飯田)川を渡る作戦でなければ。
杉雄)ロシア側からすると、ウクライナ軍が川を渡る可能性を考えないわけにはいかない。この洪水によって可能性がなくなれば、「洪水の間は攻めてこられない」と考えられ、ロシア側の作戦が単純になるというメリットがあります。
飯田)ロシア側には。
杉雄)しかし、洪水はもう引き始めています。決壊から約2週間後の6月21日ぐらいになれば、川は渡れるようになる。もしウクライナ軍が川を渡る作戦をあらかじめ準備していたのであれば、その時期には作戦を実行できるでしょう。
飯田)一時的なものにすぎない。
杉雄)水はいずれ引きますから。
ロシア支配地域の東部ドンバスから南部クリミアの真ん中を断ち切り、東部と南部に分断させるのがウクライナの狙い
飯田)ウクライナ軍が「上流域を渡る形で攻めていこうとしている」という報道が新聞各紙に載っていますが、うまくいっているのですか?
杉雄)いまの戦いは、お互いがお互いを攻め合っているのではなく、ロシア側は陣地をつくって待ち受け、ウクライナ側がそこに向かって攻め込んでいるような形です。最前線の陣地では、激しい戦いになっているのではないでしょうか。
飯田)最前線が。
杉雄)最初の陣地だけですが、一部ではウクライナが突破しつつあり、一部ではロシア側が意図的に撤退したという形なので、まだどうなるかはわかりません。
飯田)ウクライナの狙いとしては、南に攻めていき、占領地域の分断を狙っているのですか?
杉雄)そうですね。地図を見ると、東部ドンバスから南部クリミアまで、三日月状にロシアが支配しているわけです。その真ん中ぐらいで支配地域を断ち切ってしまいたい。ある程度の幅を持って断ち切ることで、ロシアを東部と南部に分断するのが目的でしょうね。
地雷を避けて細い道を突破するところでウクライナの戦車が破壊される
飯田)ここまで半年ぐらい、西側から戦車などさまざまな兵器の支援がありましたが、使い方をご覧になっていかがですか?
杉雄)ロシア軍の陣地が待ち受けているので、攻撃を受けながら戦車で突破する形を狙っているのだと思います。おそらくロシア軍の陣地の前には地雷があるので、地雷を避けて通れる道をつくらなければいけない。そうなると、道は当然細くなるわけです。その細い道を突破しようとして、何両かの戦車が撃破されているのが映像には出ていますね。
飯田)「鹵獲(ろかく)された」などという報道も出ていますけれど、あのぐらいの量はある意味、織り込み済みという感じですか?
杉雄)損害としては大きいと思いますが、戦えば損害は出るものです。通常、日本海海戦のようなパーフェクトな勝利はありません。損害が出るのはやむを得ないところがあります。
ウクライナの反転攻勢は最低で1ヵ月、夏まで続く可能性も
飯田)フランスの「マクロン大統領が長期化を示唆」というような話も出ていますが、それなりの期間は続きそうですか?
杉雄)陸上戦闘というのは、最後は人間が地面を歩くので、例えば戦場の奥行きが100キロあると、2日~3日で終わることはありません。目安としては最低1ヵ月。もしかしたら夏ぐらいまでは続くのではないでしょうか。
ダム決壊の影響で灌漑ができず、小麦の価格が上昇
飯田)経済に関してですが、洪水が起きたことで穀倉地帯に影響があり、灌漑施設が破壊されたという話もあります。穀物価格にも影響がありますか?
洋一)水がなければ、そもそも灌漑できないですよね。ダムがあったから灌漑できるわけだけれど、ダムがなくなってしまった。水が全部流れてしまえば灌漑はできません。
飯田)灌漑ができない。
洋一)小麦価格の先物は既に上がっています。戦争開始の直後は急激に上がりましたが、そのあと輸出していいというような取り決めができて、徐々に下がってきたけれど、「また前の状態に戻ってしまった」という感じです。
飯田)トルコの仲介で、黒海を通してウクライナ産の穀物輸出が一部できるように「なる、ならない」という話がありました。
洋一)そういうことに過敏に反応するのです。
飯田)商品価格は。
洋一)だから「灌漑用水がうまくいかない」と見てしまうと、先物などはすぐに上がってしまいます。
国際刑事裁判所がダム決壊の現地調査を開始 ~命令の責任者がわかれば訴追できる
飯田)戦争犯罪に関して言うと、国際刑事裁判所の代表者らが水浸しになった地域に入りました。ロシアは「安全を保証しない」と言っていますが、こうした捜査の積み重ねが大事ですか?
杉雄)そうですね。これまでも100件以上、戦争犯罪として立件されているわけですが、誰を訴追するのか。国際刑事裁判所は、国ではなく個人を訴追するのです。プーチン大統領も子どもの連れ去りで訴追されていますが、個人レベルまで落とせる証拠が集まるかどうかは別の問題だと思います。
飯田)誰が命令したかなどの話になるのですか?
杉雄)そうだと思います。ただ、被害については、まず確認するという方向なのでしょう。別の証拠により、誰が命令の責任者なのかがわかれば訴追できるのだと思います。
ワグネルに関するフェイクニュースも
飯田)いろいろな情報が乱れ飛んでいるなかで、「ロシア国内で仲間割れが起こっているのではないか」というようなニュースが流れ、フェイクではないかと言う専門家もいます。「ワグネルの要員を殺す命令を出した」というような情報も出ていますが、いかがですか?
杉雄)あれはフェイクニュースだと思います。ただ、5月上旬にワグネルのプリゴジン氏がバフムトから撤退すると言いましたが、結局、そのときは撤退していませんでした。
飯田)そうでしたね。
杉雄)今回のケースで言うと、ワグネルを強制的に連邦軍に編入させたいけれど、プリゴジン氏が反対している。だから「そんなことをしたら射殺するぞ」というようなフェイクニュースにつながったのだと思います。
以前からあるワグネルと軍の勢力争い ~戦争よりも「動員されること」を恐れるロシア国民
飯田)国内に不満を持っている人たちがいるのは確かなのですか?
杉雄)全般的にワグネルと軍の勢力争いのような状況なので、それはそれとして織り込み済みではありませんが、ずっと起こっている話ではあります。
飯田)ワグネルと軍の勢力争いが。
杉雄)一方、先月(5月)にあったモスクワへのドローン攻撃の影響が出ています。実はドローンがエリート層のマンションに着弾しているのです。
飯田)エリート層のマンションに。
杉雄)それによって、これまで何となく「フワッ」とプーチン氏を支持し、戦争なんて他人事だと思っていた層のなかに、「この戦争は本当に大丈夫なのか?」という考えが広がってきたという報道が出ています。
飯田)報道などを見ると、ロシア国民は戦争そのものよりも、「自分も動員されるのではないか」ということを恐れているという話もあります。それだと内部から士気が下がることになりますよね。
杉雄)自分が動員されない限り、基本的には他人事なのです。それが自分ごとになりそうになったのが、去年(2022年)9月の動員のときです。当時は多くの国民が動揺したので、プーチン大統領としては、少なくとも来年(2024年)の選挙までは追加動員できないと考えられます。当事者意識、「戦争の近さ」を感じるようになると、動揺するのではないでしょうか。
経済制裁によってルーブルが使えないロシア ~ダメージは大きい
飯田)他方、国際社会は経済制裁を行っているわけですが、制裁逃れ、あるいは裏で原油の取引を行っているという話も出ています。経済制裁は効いているのでしょうか?
洋一)何もしないよりは効いているでしょう。いつもそうですが、100%効く制裁はありません。制裁に参加している国は、西側の先進国だけではないですか。
飯田)制裁を行っているのは。
洋一)だから、それを迂回することは可能です。「普通とは違う」という意味で、制裁は効いているのです。ただ、私が「ロシアはすぐに破綻する」と言ったのに、「まだしていないではないか」と言う人がいますが、実際に取引は完全に遮断されています。
飯田)取引は。
洋一)ルーブルの取引はほとんどできないわけです。そういう意味では、誰も宣言しないから破綻には見えませんが、実際には破綻しています。
飯田)相当ダメージはある。
洋一)ルーブルが使えないですから。
飯田)決済できないのですね。
ウクライナの反転攻勢が成功すれば2~3年以内にロシアに占領された領土を奪い返すことができる ~失敗すれば5年以上、下手をすると10年ぐらいの膠着状態が続く
飯田)今後の見通しですが、戦いが収束するのはいつなのでしょうか?
杉雄)今回の反転攻勢が成功すれば……成功というのは、ロシアの占領地域を分断するということです。
飯田)ロシアの占領地域を分断する。
杉雄)ただ、分断すると、今度は突破した部分が挟み撃ちに遭うので、逆にウクライナ側は挟み撃ちから守りきる陣地をつくらなければなりません。
飯田)挟み撃ちから。
杉雄)秋冬のぬかるみ期に持ち込んでいく場合、それができれば、分断されたロシア軍の弱い方を来年(2024年)攻める。つまり、ドンバス地方かクリミアのどちらか弱い方を攻めて、再来年にもう片方残った方を攻める形になると思います。
飯田)来年と再来年に分けて攻める。
杉雄)今回の反転攻勢が成功すると、2~3年以内には占領された土地を奪還できるかも知れない。奪還しても戦争が終わるとは限りませんが、少なくとも見通しは立ちます。
飯田)奪還したことで。
杉雄)一方で反転攻勢に失敗し、要請された12旅団が磨り潰されるようなことになると、組織的な反転攻勢は今後、難しくなります。そうなると5年以上、下手をすると10年ぐらい膠着状態が続くのではないでしょうか。
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