パ・リーグ首位打者独走中! オリックス・頓宮の飛躍の裏にある「吉田正尚からのLINE」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、パ・リーグの打撃成績で首位打者を独走、リーグ唯一の3割打者として活躍するオリックス・バファローズの頓宮裕真選手にまつわるエピソードを紹介する。

パ・リーグ首位打者独走中! オリックス・頓宮の飛躍の裏にある「吉田正尚からのLINE」

【プロ野球オリックス対ソフトバンク】5回、適時打を放つオリックス・頓宮裕真=2023年5月13日 京セラドーム大阪 写真提供:産経新聞社

交流戦も終わり、再びリーグ戦が展開されるプロ野球。交流戦で優勝したDeNAの躍進もあり、気が付けばセ・リーグ首位阪神の背中まであとわずか。パ・リーグもオリックス、ソフトバンク、ロッテの3チームはいつ順位が入れ替わってもおかしくない大混戦だ。

ゲーム差だけでなく、個人成績でも今季は混戦。出遅れていた侍ジャパン組が揃って交流戦で好成績を収めたことで、投打のどの個人成績ランキングも団子状態だ。

そんななか、異彩を放つのがパ・リーグの首位打者争い。1位のオリックス・頓宮裕真だけが3割台の打率.344。2位のソフトバンク・中村晃でも打率.289と6分近く離れているのだ(※成績は6月23日試合前時点)。

セ・リーグも打率1位のDeNA・宮崎敏郎(.373)と2位の巨人・岡本和真(.322)との差は5分以上あるが、リーグで1人だけ打率3割、という状況はなかなか珍しい。

本来は「捕手登録」の頓宮だが、今季はここまで「指名打者」か「一塁手」として出場。本人はキャッチャーとしてのこだわりをこれまで何度も口にしているが、出場機会があればこその規定打席到達であり、打率上昇にもつながっているのではないだろうか。昨季(2022年)までの主砲・吉田正尚が抜けたチーム状況を鑑みても、頓宮の打撃力を生かすための一塁起用の徹底は、好判断だったと言える。

振り返れば、2018年のドラフト指名の際も、オリックスは亜細亜大学の正捕手で大学日本代表でもキャッチャーを務めていた頓宮を「内野手」として指名。1年目は三塁手として期待をかけていた。改めて、若手選手が次々伸びて出場機会を増やすオリックスの強さの根源がこの「目利き力」にあることを実感する。

そうは言っても、昨季まで4年間の頓宮は平均打率.228。それがなぜ打率3割と好調を維持できているのか。1つの要因は不在となった吉田正尚の影響だ。たとえチームにその姿はなくても、折りにふれて頓宮にアドバイスを送ってくれているという。

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「僕からLINEすることが多いんですけど、打席での待ち方だったり、『こうなっている時は練習でどういう意識で打ったらいいですか?』とか、いろいろ聞いていて、そのたびにめちゃくちゃ真剣に答えてくれます。箇条書きみたいにして、『左中間右中間に強い打球を意識する』、『ボールの内側を強く打つ』という感じで、気をつけることを教えてくれます」

~『Number Web』2023年6月5日配信記事 より

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最近もらったアドバイスでは、次のことを実践していると頓宮は語る。

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『「やるべきことは、自分のベストスイングをするだけ」という連絡がきましたね。それがすごく印象に残っています』

~『Buffaloes 蔵出しノート』2023年6月12日配信記事 より

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そんな吉田からのアドバイスを忘れないため、頓宮が今季から取り入れたこと。それは登場曲を昨季まで吉田が使っていた湘南乃風・若旦那の『何かひとつ』に変えたことだ。

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『(打席に向かうときに)その時に言ってもらったことを思い出せるように。あとは、勝手に登場曲にしときますわっていう話で、そこからですね』

~『東スポWEB』2023年6月6日配信記事 より

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昨季まで、頓宮が活躍すれば真っ先に歓喜の水をかけにいく吉田正尚、という光景がおなじみなほど、仲のよかった2人。チームとして離れてもまだ深くつながりがあり、それが頓宮の好成績にもつながっているのは何とも嬉しい。

もちろん、もらったアドバイスを自分のなかに落とし込み、必要なものを取捨選択できる頓宮自身の野球脳、理解力があればこそ。こうした「自ら考える力」は、岡山理大附属高校時代から実践してきたことでもあった。

頓宮の恩師、岡山理大附属高校野球部の早川宣広監督の指導方針は、「自分のやりたいことではなく、必要なことをやりなさい」。高校生の段階から「自分に足りないことは何か」を考えることで、自ら客観視する力を磨いていくと言う。頓宮自身、高校時代の学びについて、大学時代にこんな言葉を残していた。

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「大学の同級生を見ていると、『自主練習で何をしたらいいのかわからない』と話す選手が少なくなかったんです。自分は高校時代の練習で『自分で考えながらやる』ことに慣れていたので、個人練習がより重要となる大学でも違和感なくやれました」

~『野球太郎』No.029号(2018年11月26日発売)より

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ポジションを三塁、捕手、一塁と変えながら、自分の生き残る術を模索し、考えながらプレーしてきた頓宮。この好調ぶりをキープできれば、首位打者獲得も夢ではない。

頓宮と言えば幼少期、オリックス山本由伸と家が隣同士だったことでもおなじみだ。山本が今季も投手タイトルを獲得し、リーグ表彰式で「お隣さん」に首位打者の頓宮が立つ……そんなできすぎた未来をぜひとも見てみたい。

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