玉城知事は「当時の朝貢を再現した中国の意図」を理解しているのか

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キヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が7月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。玉城沖縄県知事の中国・福州市訪問について解説した。

玉城知事は「当時の朝貢を再現した中国の意図」を理解しているのか

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年6月19日 AFP=時事 写真提供:時事通信

沖縄県の玉城知事が福建省のトップと会談

中国南部の福建省福州市を訪問した沖縄県の玉城デニー知事は7月6日夜、福建省トップの周祖翼・共産党委員会書記と会談した。玉城氏によると周祖翼氏は、習近平国家主席が北京の史料館を視察した際の「琉球」をめぐる発言に言及。玉城氏は「交流を続けていくことが大きな責任だ」と応じ、双方が交流促進で一致した。

中国共産党内部で2008年ごろから琉球帰属問題が研究されていた ~それをトップの習近平氏が言及したことの意義は大きい

飯田)「福建省と琉球の長い歴史がいまも続いていることを言葉にしたものだ」と言ったそうです。習近平氏の琉球発言についてですが、峯村さんは夕刊フジなどで記事にされていましたね。

峯村)なぜ私が書いたかと言うと、どこも書かないからです。スルーしているのですよ、主要紙を含めた日本メディアが。

飯田)そうでしたね。

峯村)これはとても重要な話です。中国共産党の内部では、2008年くらいから「沖縄帰属問題」がずっと研究されていました。それを大きく出してきたのです。どこかの日本の某新聞が「中国の『琉球帰属問題』にはブームがあって、盛り上がったり、盛り下がったりする」などとしていましたが完全な事実誤認です。

飯田)ブームなどではない。

峯村)淡々と水面下で20年近く検討してきた深遠な計画を、「一強体制」のトップである習近平氏が今回のタイミングで公言したのです。「その意義を誰もわかっていない。この国はいったい何なのだ」という怒りから拙稿を書きました。もともとは違うテーマを書いていたのですが。

飯田)そうなのですか。

峯村)どなたも書かないので、前日に内容を取り換えて書きました。その翌日、読売新聞などが追随してくれましたが、そのくらい重要な話なのです。

中国共産党のナンバー2である李強首相が出て最高級の接遇をした理由 ~琉球問題を重要視し、さらに取り込むため

峯村)今回驚いたのは、ナンバー2の李強首相が出てきたことです。いろいろ内部の話を聞くと、実は相当前から決まっていたようです。

飯田)そうなのですか?

峯村)ここに習近平氏が出てくることは考えにくいので、最高級の接遇です。2019年に同じく玉城さんも含めて、日本国際貿易促進協会(国貿促)が行ったときは、当時の胡春華副首相が会っています。

飯田)当時の副首相が。

峯村)それに比べると、レベルで言えば今回はとんでもない格上なのです。でも当時と比べると、遥かに日中関係は悪くなっています。それにも関わらず、習氏の最側近の一人をを出してきたということは、それだけ琉球問題を中国共産党は重視していて、さらに取り込もうとしている。それが今回の動きによって顕著になったのです。

当時の出先機関に玉城知事を呼び、「当時の朝貢をいま再現させている」という意味

峯村)その意味を「玉城知事はこういった中国に意図をわかって行っていらっしゃいますか?」というところが重要です。今回、福建省にある琉球館を視察しています。

飯田)そのようですね。

峯村)この意味は何かと言うと、琉球館は当時の琉球王国の福建省にある出先機関、つまり領事館です。

飯田)出先機関。

峯村)まさに朝貢貿易の時代の出先機関です。玉城氏がそこを訪れて頭を下げるということは朝貢関係の再現といってもいいのです。6月に習近平氏は、「私が当時の福建省に勤めていたとき、琉球館、琉球のお墓があったのをよく知っている」とわざわざ言及しているのもそのためです。

飯田)習近平氏が。

峯村)まさに今回、当時の朝貢関係を再現しているわけです。「それを理解して行っていらっしゃいますか?」と疑問です。

「沖縄のトップが認めている」というキャンペーンに使う中国

飯田)中国はこの先、玉城知事が訪問した写真や映像などを、折に触れて使っていくかも知れない。

峯村)当然やるでしょう。「ほら見てください。いまの沖縄のトップが認めているではないですか」という絵柄になるわけです。

飯田)そういうことですよね。

峯村)対外的にも、宣伝するには美味しい材料です。驚いたのは、日本メディアがどこか取り上げているのかなと思っていたら、朝日新聞が取り上げていて、「さすが朝日新聞だな」と思って読んだら、「琉球ゆかりの福州、玉城知事が訪問」と。

飯田)琉球という文字を見出しに使っている。

峯村)そこは「当時の琉球」という意味でしょうけれども、記事の中身が、

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『尖閣諸島をめぐる対立に加え、台湾情勢も不透明感が増す中、地域同士が経済や文化などの面で交流を深め、信頼醸成や緊張緩和につなげたいとする県の「地域外交」の一環だ』

~『朝日新聞デジタル』2023年7月7日配信記事 より

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峯村)……と。県の機関紙もしくは「人民日報」かと思いました。誰もこの重大さをわかっていない。「習氏の発言を受け、一部メディアが琉球は中華圏の一部だったとする特集を組むなど、玉城氏の行動に注目が集まっている」としていますが、「なぜ他人事なのですか?」という話です。まさに習近平氏の琉球発言の翌日から、中国メディアは大キャンペーンを行っているのです。当時の琉球の話と、福州はこんなに歴史が深かったなど。また、「琉球処分」もありましたよね。

飯田)明治政府が……。

玉城知事は「当時の朝貢を再現した中国の意図」を理解しているのか

中国の習近平国家主席(中国・北京)=2023年4月6日 AFP=時事 写真提供:時事通信

反論せず、情報戦で一方的にやられている日本政府

峯村)日本側に編入したのは、「軍事力によって強奪したのだ」というようなキャンペーンを中国メディアが行うわけです。それに関して、日本政府は反応していませんし、日本メディアもスルーしている。政府の危機感がなさと、メディアの不勉強さにはあきれるばかりです。

飯田)情報戦で一方的にやられている。

峯村)何も反論せずにやられています。私が日本政府の広報担当であれば、「何を言っているのですか? 当然、沖縄は日本の揺るがないものです」というキャンペーンを積極的にやります。

飯田)日本国沖縄県であると。

峯村)そういうカウンターの世論戦をやらなければいけないのです。

なぜこのタイミングなのか

飯田)例えば清国の時代まで遡ると、当時の琉球王朝は朝貢を行っていただけではなく、人的交流もあった。琉球墓、琉球の人たちのお墓の存在を中国側はことさらに強調しますね。

峯村)歴史として、そういう事実があったことはいいのですが、なぜこのタイミングなのか。日中関係が悪くなってきており、さらには台湾有事などの危機が迫っているなかで、それを出してくる国際情勢を加味して考えなければいけません。

飯田)なぜこのタイミングなのか。

李強首相との会談の際、尖閣諸島問題に触れなかった玉城知事

峯村)もう1つ、李強さんに会ったときに玉城さんは、尖閣問題のことを言っていないのですね。この意味の大きさをわかっていらっしゃるのか。尖閣諸島は当然、沖縄県に帰属しているわけです。

飯田)沖縄県石垣市ですね。

峯村)尖閣を有する県のトップが、日常的に威嚇行為をを受けているところに対して、何も文句を言わなかった。結果として、中国にとっては「日本は中国の領有権を認めているのですね」という話になりかねないのです。

飯田)黙認しているではないかと。

尖閣問題に言及しないのであれば玉城知事が行く必要はない ~何も言わないということは「中国の領土であることを認めた」と中国側は受け取る

峯村)李強さんと会えたわけですから、私がもし沖縄の知事だったら、はっきり言いますよ。「李強さんは沖縄との友好は大切だと言っているけれど、なぜうちの尖閣でこんなことをやってきているのですか?こんな状態で友好的な関係が築けますか」と詰め寄ります。

飯田)どういうことなのだと。

峯村)もしこうした抗議をしていれば、玉城さんが掲げている地域外交は立派だと思いますし、中国に行く意味もあるのだろうと思います。しかし、沖縄県議会では「尖閣については言わないこともある」というようなことを言っていたではないですか。

飯田)言及しないのも選択肢だと。

峯村)さらに、「これは国のマターだから、国の方針に従えばいいのだ」と言っているのです。しかし、国の方針に従うのであれば「あなたが行く意味はありますか?」という話ですよね。

飯田)国の方針に従うのであれば。

峯村)経済関係を議論するだけならば、沖縄の知事がわざわざ行く必要はないのです。沖縄県知事として言うべきことは尖閣問題です。言わないのであれば、行く必要はないと思います。

飯田)結局、尖閣問題の発言があったという内容は、いまのところ報じられていません。

峯村)言わなかったということは、「尖閣は中国の領土、もしくは日中間で争いがあった」と認めたことになるのです。言わないからいいのではありません。言わないということは、「それを認めた」と中国側に受け取られかねない。極めて重大な問題だと思います。

日本の内部を分断させようとする中国の作戦にまんまと乗ってしまっている

飯田)中国側としては台湾有事などを見据えると、沖縄の米軍などを分断しておきたいわけですよね?

峯村)そういうことです。まさに揺さぶりをかけている。「統一戦線工作」と言いますが、日本の内部を分断させるという意味では、非常に巧みに動いています。

飯田)分断させる。

峯村)中国メディアは、「玉城知事が防衛省に(反撃能力を有する装備品の配備を行わないよう)申し入れに行ったときに3分間であしらわれた」という日本メディアをわざわざ大々的に転載して報じています。

飯田)地元紙の書いたものを。

峯村)「ほら見ろ。こんなに沖縄の県知事はいじめられているのだ」と、中国メディアがキャンペーンを張ってくる。まんまとそれに乗っかってしまっています。「それが地域外交なのか?」という話です。

飯田)沖縄は定期的に独立論などが出てきたりします。かつて仲井眞元知事にインタビューした際、「こういうものは酒飲み話のなかで出てくるようなものだったけれども」と言っていましたが、いまはかなり危機感を持って受け止められています。

峯村)あると思います。仲井眞元知事はもともと「久米三十六姓」という、中国福建省にルーツを持たれる方ですが、あの方はこうした危機感をある程度わかっていたのでしょう。いまの玉城さんのやり方を見ていると、「それをわかっているのだろうか」と思います。しかし、わかってやっているのであれば何なのかという話です。

飯田)向こうの情報戦に加担してしまっている。

改正反スパイ法についても李強首相に詰め寄らなければならない

峯村)今回、国貿促が行く意味ですが、まさに改正反スパイ法ができたタイミングではないですか。

飯田)そうですね。

峯村)「友好と言っているけれど、反スパイ法のようなものをアップグレードしていますよね」と。「そもそも日本の製薬会社の幹部が、いま拘束されたままになっていますよね。どうなっているのですか? まず貿易の前に、日本の駐在員も含めた身の安全にしっかり対応してくれ」と、ナンバー2である李強首相に対して詰め寄らなければならないのです。

飯田)河野洋平氏はとりあえず、話題には出したという話ですけれども。

峯村)話題には出していますが、同行筋による話だと王商務相に対し、反スパイ法に関して「不安の払拭を切に願う」と言ったということです。

飯田)不安の払拭を切に願う。

峯村)願うのではなく、抗議しなければいけません。「そうであれば貿易なんてできません」くらいの勢いで言わなければならない。そのくらい重大な話です。

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