話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、本塁打・打点のタイトル争いでしのぎを削る3人の4番打者、巨人・岡本和真選手、DeNA・牧秀悟選手、ヤクルト・村上宗隆選手にまつわるエピソードを紹介する。
プロ野球は7月17日に前半戦が終了。オールスターゲーム2試合と移動日を挟んで、22日から後半戦がスタートします。セ・リーグは前半戦、阪神が貯金11の首位で折り返し、これを2位・広島が1ゲーム差、3位・DeNAが3ゲーム差で追う展開です。借金2で前半戦を終えた4位・巨人も、首位と6.5ゲーム差ですから、各チームとも60試合近くを残す現在、まだまだペナントの行方はわかりません。
前半戦を終えて「ああ、やっぱり」と思うのは、WBCに出場した3人の4番打者、巨人・岡本和真、DeNA・牧秀悟、ヤクルト・村上宗隆が、セ・リーグの打撃タイトル争いのホームラン・打点部門で、いずれもベスト3に名を連ねていることです。
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<本塁打数ランキング>
(1)岡本和 20
(2)牧・村上 16
<打点ランキング>
(1)牧 56
(2)岡本和 51
(3)村上・細川(中日)49
(数字はいずれも7月17日、前半戦終了時点)
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本塁打トップの岡本は、7日のDeNA戦で、侍のチームメイト・今永のストレート(151キロ)を右中間スタンド中段に叩き込み、両リーグ最速で20号を記録。これで6年連続20本塁打以上をマークしました。
「3年連続・本塁打&打点の2冠王」を目指した昨季は、シーズン終盤の大事なところで不振に陥り、チームも大失速。それでも「5年連続30本塁打」という記録は達成したのですが、3冠王に輝き、チームを連覇に導いた村上と比較され「Bクラス転落の元凶」「4番の差が出た」と厳しく批判されました。
それだけに、今季の岡本は「村上に競り勝っての2冠奪還」を期して戦っているはず。ホームラン・打点はチームの得点に直結するので、是が非でも獲りたい、いや、4番として絶対に獲らなければならないタイトルなのです。
WBCに出たことは、岡本にとっては大きなプラスになりました。他チームの主砲たちがどんな練習や調整をしているのかを知り、また試合のなかでどうやってリーダーシップを発揮していったらいいのか、ダルビッシュ有や大谷翔平らの振る舞いを間近で見られたことは、今季から巨人軍キャプテンを務める上で大いに参考になったことでしょう。
さらに、面構えも変わったなと思います。岡本はこれまで、試合中にあまり感情を表に出さないタイプでしたが、今季は闘志を前面に出すシーンも見られるようになりました。陰でフォローしてくれた前キャプテンの坂本勇人が戦線を離脱していますし、チームを引っ張っていくのは自分しかいない、という強い意思を感じます。主砲らしい、いい顔になってきました。
顔と言えば「本当にプロ3年目か?」という雰囲気を漂わせているのが、打点トップの牧です。まだ25歳ですが「40代のベテランにしか見えない」という声も出るほどの風格。首脳陣も全幅の信頼を置く、まさにチームリーダーです。
牧がなぜ信頼されるかというと「ここで打って欲しい」という場面で、たびたび勝利につながる一打を打ってくれるからです。ランナーが得点圏にいるときの打率は、1年目(2021年)が.304、2年目(2022年)は.331といずれも3割超え。この勝負強さこそ牧の真骨頂です。今季も、牧の前半戦の打率は.283ですが、得点圏打率は.333とハネ上がります。おそらくチャンスになると、プレッシャーを感じるよりも先にアドレナリンが出るタイプなのでしょう。
牧は本質的にアベレージヒッターですが、一発もあるのが魅力で、1年目に22本、2年目に24本、今年(2023年)も前半戦だけで16本のホームランを放っています。デビュー以来3年連続20本以上という記録は、楽にクリアするでしょう。村上と並んでいること自体すごいことです。
印象的だったのは、9日、東京ドームで行われた巨人戦、0-0で迎えた延長12回に放った、勝ち越しの14号ソロです。引き分け寸前の場面で、ライバル岡本の目の前で放った、チームを勝利に導く一発。この日、首位・阪神は勝っていたので、引き分けか負けていれば、差を広げられていたところでした。こういう1勝がシーズン終盤で効いてくるのです。
1998年のリーグ優勝から25年遠ざかっているDeNA。前回の優勝を知るメンバーは首脳陣以外いませんが、牧は何度も優勝を経験しているように見えるから不思議です。打点王争いは、自分の前にチャンスメイクしてくれる打者がいる方が有利で、牧が一歩リードしているのは、佐野・関根らチームメイトのアシストがあることも大きいでしょう。牧の打点が増えるほど「25年ぶり」に近付くことは確かです。
最後に、ヤクルトの4番・村上です。今季(2023年)は開幕からなかなか調子が上がらず、それがチームの思わぬ低迷にもつながりました。しかし前半戦最後の5試合(vs中日・巨人戦)で、23打数9安打(打率.391)、ホームラン4本、10打点の固め打ちを見せ、タイトル争いの上位に入ってきたのはさすがです。チームもこの5試合は4勝1敗。前半戦ラストを3連勝で締めました。やはりこのチームの浮沈は、村上のバットに懸かっています。
ヤクルトは前半戦で借金11を抱え、首位とは11ゲーム差。リーグ3連覇はかなり厳しい状況ですが、過去にはこれ以上のゲーム差を逆転した例もありますし、何より村上が打つとチーム全体がノッてくるのです。バットでチームを勢いに乗せる、これぞ4番の仕事です。
思えば昨季のシーズン終盤戦、「リーグ連覇」「日本選手のシーズン最多本塁打記録更新(56号)」「令和初の3冠王」という3つのミッションに挑み、すべてクリアしてみせた村上。とは言え、55号を打ってから予想外の不振に陥り、シーズン最終戦・最後の打席で56号を打ったのはご存じのとおりです。やはり“村神様”も人の子、想像を絶する強烈なプレッシャーがあったのです。
WBCでも不振に陥り、4番を外れましたが、準決勝ではサヨナラ打を放ち、決勝でもホームランを打って優勝に貢献してみせた村上。前半戦最後の爆発ぶりは「チームともども、沈みっぱなしで終わらないぞ」という強い意思を感じました。
オールスターゲームに監督推薦で選ばれなかったのは、今年はWBCもあって戦い詰めだったため、いったんリフレッシュして欲しいという高津監督の“配慮”もあってのことでしょうが、いい休息になるのでは。後半戦、「混セ」を演出するのは村上のバットかも知れません。
例年以上に白熱しそうなセ・リーグの本塁打王・打点王争い。それは3人が「4番の仕事」をどれだけ全うできるかという戦いでもあるのです。