「北朝鮮とロシアの立場」が逆転する 金正恩総書記のウラジオストク訪問

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青山学院大学客員教授でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が9月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。金正恩総書記とプーチン大統領の首脳会談について解説した。

「北朝鮮とロシアの立場」が逆転する 金正恩総書記のウラジオストク訪問

2023年9月10日午後、平壌を出発する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記 朝鮮通信=時事 写真提供:時事通信

北朝鮮の金正恩氏がプーチン大統領と首脳会談

韓国メディア「朝鮮日報」によると、アメリカと韓国の情報当局は、北朝鮮の金正恩総書記が9月10日にロシアに向け平壌を出発したとみられると報じた。非常に遅い速度で北東方向に移動中で、プーチン大統領との首脳会談が開かれると報じた。またロシア大統領府は、金正恩総書記はプーチン大統領の招待で公式訪問すると発表した。

飯田)「非常に遅い速度で北東方向へ」というのは、何だか台風のような表現ですね。

峯村)私も北京にいたころは、この列車を血眼になって追いかけていました。金正恩さんのお父さんである金正日さんの最後の訪中をしたが最後に訪中したときは、遼寧省の大連に行き、ホテルの茂みに隠れて写真を撮ったこともありました。

飯田)大連で。

峯村)撮ったあと、そのまま捕まって取り調べを受けました。取り調べ官に「どうして金正日氏を撮ってはいけないのだ? 法律を見せろ」という話をずっと喧々諤々としたのです。

飯田)そうなのですね。

峯村)「オバマ氏を撮ったら捕まるのか? 当時の日本の首相を撮ったら捕まるのか?」と激論しました。しかし、最後まで納得のいく説明はありませんでした。

飯田)向こうからは。

峯村)「お前は違法なんだ。北朝鮮問題というものは敏感なんだ」と言われたのですが、これがロシア国内ならば、どうなるのかが気になります。

金正恩氏が列車で移動する3つの理由 ~お召し列車に乗ることで権威付けに

飯田)金正恩氏の父である金正日氏は飛行機がとても嫌いで、とにかく列車で移動していました。今回はウラジオストクだからということもあるのか、まずは列車で移動するのでしょうか?

峯村)いろいろな説がありますが、1つは「お召し列車」に乗ることの権威もあると思います。かなり長いですし、内部の写真も見たことがあります。豪華な列車ですので、それが権威付けになることが1つです。

テロ対策と安全性 ~安全ではない北朝鮮の飛行機

峯村)また、かなり頑丈につくられていますので、テロ対策というのが2つ目です。3つ目は、この列車にはダミーもあるのです。その意味では、襲撃やテロなどもされづらいところがありますよね。

飯田)ダミーもある。

峯村)もう1つ言うと、北朝鮮には国営の高麗航空があり、私も2018年に平壌へ行ったときに乗りましたが、なかなかワイルドな飛行機なのです。当時、旧ソ連がつくったものですので……。

飯田)機体も「イリューシン」が使われている。

峯村)どうも安全性が微妙なのではないかと思います。確か2018年ごろ、金正恩さんがベトナムへ行ったときに、中国国際航空を使ったのですが、気持ちはわかりますね。

飯田)普通は自国のものを飛ばしますが……。

峯村)安全性を考えたら、そうなりますよね。さらに飛距離の問題も考えると、中国に任せる方がまだ安全だというくらい、北朝鮮の飛行機はリスクがあるということでしょう。

北朝鮮はロシアに武器も兵士も派遣 ~その見返りは何か

飯田)露朝首脳会談は、「困った者同士の会談」になるのでしょうか? ロシアによるウクライナ侵略では、北朝鮮の武器も使われていると言われています。

峯村)ファクトとして使われています。いくつかウクライナに撃ち込まれたミサイルから、北朝鮮製のミサイルが見つかっていますし、2022年11月にワシントンへ行ったときは、武器だけではなく「人」も派遣しているという話が出ていました。

飯田)人も、ですか。

峯村)そう考えると、北朝鮮は相当早い段階で、劣勢のロシアに対して「人」や「モノ」を提供しているということです。さて、その見返りは何ぞや、というところがポイントになってきますよね。

北朝鮮がロシアに手を差し伸べることで、北朝鮮とロシアの立場が変わることに

峯村)北朝鮮は先日、衛星打ち上げに失敗しましたよね。彼らがいま喉から手が出るほど欲しいのが、ミサイルを含めた衛星技術です。「北朝鮮製のミサイルは中国の技術を使っている」と言われますが、それは絶対にありません。

飯田)中国の技術ではない。

峯村)基本的には旧ソ連、ロシアのものを使っています。いま困っているロシアに手を差し伸べていますが、金正恩氏が欲しいものというのは、相当大きいですよね。

飯田)「お前は他に頼るところもないから困っているのだろう?」と。

峯村)実は歴史的にも大きい話で、北朝鮮とロシアの立場が変わるということなのです。

金正恩総書記のウラジオストク訪問が、北朝鮮とロシアの立場が変わるターニングポイントになる

飯田)歴史的な転換になる。

峯村)北朝鮮の生い立ちを考えても、建国できたのは、後ろ盾としてソ連がいたからこそです。朝鮮戦争のときもソ連と中国に助けてもらった経緯があります。

飯田)そうですね。

峯村)北朝鮮は常にソ連から与えられる立場で、庇護の下にあった。ところが、ロシアのウクライナ侵略によって立場が逆転した。北朝鮮が初めて上から目線でロシアに対応できるチャンスなのです。

飯田)立場を変えるチャンス。

峯村)おそらく今回のウラジオストク訪問は、そのターニングポイントになるのではないかというのが私の見方です。

「北朝鮮とロシアの立場」が逆転する 金正恩総書記のウラジオストク訪問

夕食会で乾杯する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とロシアのプーチン大統領=2019年4月25日、ロシア・ルースキー島(タス=共同)写真提供:共同通信社

国連の常任理事国であるロシアが制裁を加えなければならない北朝鮮の武器を使っていることは、国連を形骸化させる行為

峯村)ロシアは北朝鮮製の武器を使っていると言いましたが、これは実は、とんでもないことなのです。ロシアは国連安保理の常任理事国ですよね。

飯田)そうですね。

峯村)ロシアは北朝鮮に対しても、きちんと制裁を加えているのです。むしろリードしている国ですよ。

飯田)当事国ですよね。

峯村)そもそも北朝鮮製の武器の輸出入は、2010年くらいから禁止しているのです。そこが率先して制裁対象国の武器を買っているというのは、ある意味、国連が形骸化しているということです。

飯田)なるほど。

峯村)ここからも、今回のロシアによるウクライナ侵攻が、国際秩序を壊していることがわかります。「いままでの北朝鮮への制裁は何だったのだ?」という話になるわけで、インパクトは大きいと思います。

日本にとって最悪なシナリオは中露朝3ヵ国のトライアングルができること ~今回の会談で3ヵ国による軍事演習の流れに

飯田)今回、首脳会談が行われるということですが、かつてプーチン大統領は、首脳会談では「深夜まで待たせても平気」というように遅刻の常連でした。今回はどうするのでしょうか。

峯村)逆に最近は、トルコのエルドアン大統領に待たされたことがありました。これまでの復讐のように待たされた。これがシビアな国力の違いです。そのくらい、いまロシアは落ちているのです。

飯田)国力が落ちている。

峯村)「ロシアが落ちたからいいではないか」という話ではなく、もっと厄介な出来事、日本にとって最悪の事態が考えられます。

飯田)日本にとって最悪の出来事。

峯村)ロシアと中国はもともと仲がいい。そしてロシアが北朝鮮と仲がいいとなると、ロシアが蝶つがいとなって、中国、ロシア、北朝鮮という3ヵ国のトライアングルができること。これが最悪のシナリオです。

飯田)なるほど。

峯村)いまは意外に、中国と北朝鮮は連動していないのですが、嫌な動きがあります。今回の会談で3ヵ国の合同軍事演習が進展する可能性もあるのです。

飯田)7月にショイグ国防相が北朝鮮を訪問した際、そのような提案があったと報じられました。

峯村)私も確認しましたが、おそらく議論されたというように聞いています。今回の首脳会談でも「もっと軍事的なものを深めよう」という話が出て、おそらく中国、ロシア、北朝鮮が軍事演習を行う流れになると思います。

中露朝による悪魔の軍事同盟は日本にとって最悪のシナリオ

峯村)核を持った3つの国が演習を行うことになり、それに日本が対処しなくてはならないとなると、かなり厳しい事態に追い込まれると思います。実は、中国と北朝鮮の軍事演習は、やっているようでやっていないのです。

飯田)やっていないのですか?

峯村)条約上、中国と北朝鮮に同盟はあるのですが、そこまで深まってはいません。そこが日本にとっていいところだったのですが、今回のロシアによるウクライナ侵攻で、この3ヵ国が悪魔の軍事同盟を結んでしまうかも知れない。軍事的に強固なものがつくられてしまうと、本当に最悪のシナリオですね。

南西諸島だけでなく日本海側にもリソースを割かなくてはならなくなり、日本のいままでの防衛政策が、根本的に壊れるような状況になる

飯田)ロシア、中国、北朝鮮の辺りの地図を見ると、日本海への出口の部分において、中国は海に面していません。しかし、この3ヵ国が軍事演習を行って密接になると、その出口が開くわけですか?

峯村)それが日本にとっては、安全保障上のいちばんの脅威です。3つの国の結節点になるようなところに、北朝鮮の羅津の港があります。実は、この港を中国とロシアが租借して開発しているという動きがあるのです。

飯田)羅津港で。

峯村)ここに中国の船が停められるようになると、いままで日本の脅威は南西諸島の沖縄方面だけでしたが、日本海側からもプレッシャーを受けるようになります。まさに二正面になるわけです。

飯田)二正面に。

峯村)日本海側にもリソースを割く必要が出てくると、とても厳しい状況になります。さらに中国の空母が増え、太平洋側にも出てくるようになれば、まさに日本は囲まれてしまいます。日本のいままでの防衛政策が、根本的に壊れるような事態になるわけです。

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