ジャーナリストの佐々木俊尚が9月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ビッグモーターによる自動車保険金の不正請求問題について解説した。
金融庁がビッグモーターと損保ジャパンに立ち入り検査
飯田)9月19日、金融庁が損保ジャパンとビッグモーターに立ち入り検査を行いました。ビッグモーターの不正を知りながら、取り引きを再開した損保ジャパンとのもたれ合いの実態解明を急ぐということです。
佐々木)修理会社と保険会社が利益を極限まで追求しようとすると、この組み方しかないのです。背景にはおそらく、車をめぐる市場の変化があるのだと思います。1つは、最近の車にはいろいろなセーフティ機能が付いていて、車が事故を起こさなくなっているではないですか。
ピーク時より3割減の事故車修理の規模 ~なおかつ買い替えサイクルが延びている
佐々木)車自体も丈夫になり、昔のように走っていたら急に故障することなども少なくなったし、安全になっています。98年ごろが事故修理のピークで、そこから見ると、いまは事故車修理の規模が3割ほど減少しているらしいです。
飯田)3割も。
佐々木)なおかつ、「新車よりも中古車の方がいい」と言う人も確かにいるけれど、一方で買い替えサイクルが延びている。だいたい5年~6年くらいと言われています。私が20代だった80年代は、みんな3年で買い替えていました。
飯田)車検がくると。
佐々木)最初の車検がくるときに買い替えて、常に新車に乗っていましたね。なぜかみんな白い車でしたけれど。
飯田)確かに白い車でしたね。
売り上げが落ちるなか、「精神力と営業力で何とかしよう」というような方向に行ってしまったビッグモーター
佐々木)当時に比べると、本当に買い替えサイクルが延びたのであまり売れない。ビッグモーターのように事故車修理と中古車販売をやっているところは、なかなか売り上げを伸ばせないのです。
飯田)そうですね。
佐々木)通常、この状況で成長するためには、例えばDXのように「デジタルで対応しよう」、あるいは「新規のビジネスをやろう」という方向に行きます。しかし、ビッグモーターは平成の「ブラック時代の落とし子」のようなところがある。
飯田)デフレ時代の。
佐々木)だから、「精神力と営業力で何とかしよう」というような方向に行ってしまったわけです。
飯田)「必ず売り上げを上げてこい!」というような。
事故車修理と中古車販売が儲からないから、「それ以外のところでいかに増やすか」というところで保険の代理店になり、損保ジャパンの任意保険を売りまくる ~デフレ時代の名残りのような事件
佐々木)そうなると、裏で車を壊して上乗せするような方法に手を出してしまう。損保ジャパンの方も、自賠責保険をいくら売ったとしても利益率が低いので、大して利益につながらない。ただ、売り上げは増えるので、「とにかく自賠責保険を増やさなければ」となり、ビッグモーターと組んで自賠責保険の市場を取っていった。
飯田)自賠責保険で顧客データを取ると、そこから任意保険など、いろいろ展開もできるという話ですね。
佐々木)ビッグモーターは保険の代理店になって、損保ジャパンの任意保険を売りまくる。事故車修理と中古車販売が儲からないから、「それ以外のところでいかに増やすか」を頑張ってしまった結果、こういう構造になったのではないでしょうか。ある意味、デフレ時代の名残りのような事件ですよね。
飯田)「無茶してでも利益を上げればいい」というような。
「一般社会からどう見られているか」を意識しなくなると組織は閉鎖的になる
佐々木)しかも、「それが世間にわかってしまったらどう見られるか」という発想がまったくないのです。どんな組織でも、閉鎖的になると必ずこうなります。「外からどう見られているか」を常に意識することは大事です。マスコミも同じです。「一般社会からどう見られるか」を意識しなくなると、おかしなイデオロギーに染まっていくように。
飯田)いままでだと、記事を書いている人は薄いカーテンの向こう側にいて、個人名が晒されることはなかったのですが、これだけ記者会見がクリアになると、「あそこの○○記者がこんな質問をした」ということが全部わかってしまう。
佐々木)すべてYouTubeなどで観ることができますからね。外部からどう見られるかを気にしないのは日本の悪いところでしたが、それが未だに残っている事件の1つかも知れません。
飯田)こういうことが、いろいろな分野で噴出してくるというのは、時代の転換点だからでしょうか?
佐々木)「未だに残っている」と見るか、「ようやく終わりつつある」と見るかの違いもあると思います。「ようやく終わりつつある」と思って前に進みたいですけれどね。
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