話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、ラグビーW杯フランス大会の戦いを終えた日本代表と、代表引退を改めて明言した流大にまつわるエピソードを紹介する。
「今回は結果を残せず、キャプテンとしてベスト8に導けなくて、力不足だと思うし悔しい。ただ、ジェイミーと共に歩んできたこの7年間は僕にとって非常に貴重な時間でした。日本ラグビーにとっても貴重な時間だったと思います。ここまで押し上げてくれたジェイミー、ここまで背中を押してくれたファンに感謝です」
こう挨拶したのは、ラグビーW杯フランス大会を2勝2敗で終え、1次リーグ敗退となった日本代表のキャプテン、姫野和樹。10月11日夜に帰国の途に着くと、そのまま千葉県内のホテルで総括会見に臨んだ。
大会前に初めて代表キャプテンに就任した姫野は現在29歳。4年後に向けてもリーダーとして日本ラグビーを牽引しなければならない存在であるのは間違いない。
一方、W杯が始まる前から「今大会が最後」と明言していたのが副キャプテンを務めた流大だ。
「2勝2敗という成績で、ケガもあり自分自身は悔いが残る大会ではありました。でも、7年間ジェイミーがつくり上げたチームは誇りに思います」
ふくらはぎを痛めたことで序盤の2試合しか出場できなかった流。「悔いは残る」と語りつつも、改めて代表引退を明言。その思いをこう語った。
「日本代表引退という考えに変わりはないです。いろいろな方に支えていただき、日本代表として覚悟を持って36試合に出させていただいた。これからは誰よりも日本代表のファンとして、日本代表を愛し続けていきたいです」
この7年間は“ジェイミー・ジャパン”であったのと同時に、パスの出どころにいつも流がいる日本代表でもあった。紛れもなく、日本ラグビー史に残る活躍ぶりだったのではないだろうか。
そのプレーがいかに特別か。所属する東京サントリーサンゴリアスの田中澄憲監督は以前、「流ほど日本で特別な選手はいない」として、その魅力をこう解説してくれた。
「何でも対応できる選手ですね。どんな状況でもプレーできるし、その打開策をすぐにシンプルに導き出せる。そして、自分でも遂行できるし、周りを巻き込んで遂行することもできる。そういう選手だと思います。それって単にラグビースキルだけの問題ではないんです。コミュニケーションのスキル、普段からの関わり合いのスキル、コーチとの関わり方のスキル……目に見えない部分のスキルが重要になります。だから、流はいいサラリーマンになると思いますよ(笑)。実際、(プロ契約になる前はサントリーで)会社員としてもすごくいい評価でしたから」
そんな“日本で特別な存在”だった流から「日本のスクラムハーフ(9番)」を継承するのは、今大会で全4試合にスクラムハーフとして出場した齋藤直人だ。
齋藤もまた、流を超えるためにあえて流のいるサンゴリアスに入団。日本最高峰のスクラムハーフを間近で見続け、さまざまな面で学んできた。
そんな齋藤が「目標」として公言していたのは、チームでも日本代表でも、スクラムハーフのスタメン=9番をつけてプレーできる選手になること。昨季のリーグワンではその目標通り、ほとんどの試合で流に代わって「9番」をつけてプレー。だが、首位との試合など大一番では流が「9番」を任されることに、「ビッグゲームで9番を背負えないのは、まだまだ自分の力が足りないんだと思います」と悔しさを滲ませる場面もあった。
そんな辛酸甘苦を経て迎えた今回のW杯。齋藤は流がケガで出場できなかった後半2試合、サモア戦とアルゼンチン戦で念願の「9番」をつけてプレー。サモア戦では素早いパス展開で日本の攻撃のタクトを振るい、アルゼンチン戦では自身もトライを決める活躍を見せた。
そんな可愛い後輩であり、苦楽を共にしてきた齋藤直人に対して、流はこんなメッセージを残してくれた。
「本当に素晴らしいプレーをしてくれたと思います。僕のケガとか関係なく、彼が日本の9番として、日本をリードしてくれた。サモア戦で本当にこれ以上ないプレーを見せてくれて心の底から嬉しかった。昔の僕ならライバルだから悔しくなるかなと思ったが、今回はそんな気持ちが一切無かった。心の底から、直人が良いプレーをしてチームを勝たせたのが嬉しかったし、心置きなく代表引退できるなと思いました。彼のような選手が、本当の意味でこれからの日本代表を引っ張っていく存在にならないといけないと思っています」
そして、流とともに今大会を最後に日本代表に別れを告げるのが7年間、日本代表のヘッドコーチを務めてきたジェイミー・ジョセフだ。
現役時代にも日本代表でプレーした経験を持つジェイミーは、2016年9月に日本代表ヘッドコーチに就任。その初陣は2016年11月のアルゼンチン戦で20対54と大敗。そして、何の巡り合わせか、最後の試合もアルゼンチン戦となり、27対39での力負け。その差は縮まったとも言えるが、目指していた「W杯優勝」という頂には届かなかった。
それでも、これまでの日本ラグビーとの関わりを振り返ってこう総括している。
「日本ではコーチとしても選手としても沢山のことを学びました。今大会、選手たちは100%の力を出してプレーしていて、頭が上がらないし、本当に誇りに思います。私はラグビーが大好きなので、また日本に戻る機会があれば戻ってきたいし、私にとって日本は本当に第2の故郷です」
日本がさらなる高みを目指すため、反省すべき点、検証すべき点が多いのは間違いない。それでも、まずは戦いを終えた戦士たちに「ナイスファイト」の言葉を伝えたい。