米中首脳会談 サプライズはなく「ディスカッションがよかった」だけ

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が11月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米中首脳会談について解説した。

米西部カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で、会談を終えて握手するバイデン米大統領(左)と習近平中国国家主席=2023年11月16日 EPA=時事 写真提供:時事通信

米西部カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で、会談を終えて握手するバイデン米大統領(左)と習近平中国国家主席=2023年11月16日 EPA=時事 写真提供:時事通信

米中首脳会談、国防相会談を開くことで合意

アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は、米サンフランシスコ近郊で1年ぶりに対面での首脳会談を行い、国防相会談を再開させることで合意した。一方、台湾をめぐる議論は平行線をたどった。

宮家)米中間で温度差があると思いますが、とにかく会うことは大事です。

バイデン大統領は「ディスカッションはよかった」と言っているだけ ~中国側は「20項目以上の合意ができ、各領域の対話と協力強化で合意した」と成功を強調

宮家)会ったこと自体はいいのですが、バイデン大統領は「最も建設的かつ生産的な議論ができた」と言っています。日本の報道を見ると、会談の結果が建設的で上手くいったように感じるけれど、「議論ができた」と言っているのだから、「ディスカッションはよかった」と言っているだけです。アメリカには、それほど熱意があるわけではありません。

飯田)アメリカとしては。

宮家)一方の中国側は、「20項目以上の合意ができて、正しい選択であった。各領域の対話と協力強化で合意した」と示し、「万々歳」とやっているわけです。「やっぱりね」という感じです。

飯田)「やっぱりね」なのですか?

宮家)11月16日に掲載されましたが、産経新聞「宮家邦彦のWorld Watch」というコラムがあります。締め切りが会談前だったので、書き方が難しくて困りました。

飯田)こういうものは少し前に締め切りがきますよね。

宮家)新聞が出たときには、もう会談が終わっているという最悪のタイミングです。どうしようかと考えて、いつもの手で「何が起こるとは言わないが、これだけは起きない」ということを書きました。

習近平氏の外遊に失敗なし

宮家)まず、「習主席の外遊に失敗なし」と書きました。「失敗」するわけがないのです。失敗しそうになったら、やめてしまえばいいのだから、外遊が実現すれば必ず成功します。その証拠に、新華社通信が「大成功」と報道しているではないですか。それに対して、アメリカ側の発言は必ずしもそうではないので、「習近平の外遊に失敗なし」という予測は当たったかなと思います。

飯田)そうですね。

宮家)次に、中国にとっていちばん大事なのは出迎えです。誰が空港に来るのか。「中国の皇帝様が来るのだから、アメリカは下っ端の役人なんか出すなよ」と考えている。これに対してアメリカは、しっかりとイエレンさんがお迎えに傅いたわけです。

飯田)財務長官の地位は、序列的にも偉いのですか?

宮家)偉いです。これはOK。しかし、では会談にサプライズがあるかと言うと、サプライズはないわけです。

バイデン大統領が言ったのは「麻薬問題」「軍同士の対話を始める」「AI」の3つ

宮家)中国側が言う20項目をどう数えたかは知りませんが、アメリカの大統領が言ったのは基本的に3つです。麻薬問題と、軍同士の対話が始まるということ。3つ目がAIです。特に軍同士の対話が始まることは非常に大事で、アメリカは重視していました。なぜかと言うと、ペロシさんが台湾に行った2022年以来、軍同士の対話は一応止まっている状態なのです。

軍同士の対話についての進展はなかった

宮家)それが今回、再開される方針になった。いま中国には国防大臣がいませんから、「新たに任命して始める」と言っていたのですが、私が米国防総省の関係者だったら「何だよ、これだけか」と思います。大臣レベルの対話は前にもやったではないかと。ホットラインだって、「もしもし」と米側が言ってもプツンと切られてしまえば終わりではないですか。アメリカが望んでいるのは米ソ冷戦時代のように、ある意味では最前線の部隊同士で不測の事態が疑われるときに「何か変なことをやったのか? それは本気なのか」など、本音の議論を行うことです。それで初めて衝突を回避できるわけです。

飯田)本音の対話によって。

宮家)アメリカはそこまで考えて「対話したい」と言っているけれど、中国は前に戻すだけです。中国の国防大臣に実権がありませんから、そういう人たちと話しても意味がない。その意味では、残念ながら進展はなかった。国防対話は始まったかも知れませんが、アメリカが望むようなレベルの会談ではないと思います。少し残念ですが、こんなものでしょう。米中関係がこれだけこじれているのですから。

経済的に苦しい中国が行いたかったために下手に出た会談 ~外見的には「大成功」を強調

宮家)しかし、中国側は経済的に苦しいので、首脳会談はやりたくて仕方がなかったのだと思います。そういう意味では、どちらかと言うと中国が下手に出た会談だったのでしょう。

飯田)下手に出ただけに、対外的な見え方としては「大成功」としなくてはいけない。

宮家)大成功にしないと困ってしまいますよ。

米西部カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で、会談を終えて握手するバイデン米大統領(左)と習近平中国国家主席=2023年11月16日 EPA=時事 写真提供:時事通信

米西部カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で、会談を終えて握手するバイデン米大統領(左)と習近平中国国家主席=2023年11月16日 EPA=時事 写真提供:時事通信

会見後の記者の「習近平氏は独裁者か?」の問いかけに「イエス」と答えたバイデン大統領

飯田)会談後に行われた記者会見について、メールをいただいています。木更津市の方(60歳)から、「その会見で、バイデン大統領が習近平氏を独裁者だと発言し、中国は反発しています。関係改善を見据えた米中首脳会談の直後なのに、バイデン大統領は大丈夫なのでしょうか?」というご意見です。

宮家)大丈夫ではないと思います。中国側はすごく怒っていて、「誤った無責任な発言だ」と反発していますが、私に言わせると「極めて正しい責任ある発言だ」と思うのです。ただ、これは記者会見が終わって立ち去ろうとしたとき、CNNの記者の質問に答えたものです。そのときに、バイデンさんは躊躇せず「イエス」と最初から言ってしまったわけです。

飯田)立ち去ろうとしたときに。

宮家)「この人は独裁者か?」と聞かれたので、定義を言ってからですが、「そうだ」と。米中にはそのくらい温度差があるということです。これはバイデンさんの本音だと思いますし、以前にも1度言っていますしね。

飯田)6月ごろにも、演説で「独裁者だ」と表現しています。

宮家)「ポロッ」と言ったかどうかはわかりませんが、1回言ったら否定できないでしょう。正しい責任ある発言だったのではないかと思います。中国は怒らざるを得ませんよね。こうなるのが嫌だから必死で準備してきたのに、中国は「なぜ最後にそんなことを言うのだ」と思っているでしょうね。

飯田)約束が違うではないかと。

宮家)中国外務省の人は、「私の首が飛んでしまう」と心配しているかも知れません。「お前たちは何をやっているのだ」と言われてしまうのですからね。

飯田)官僚からしたら、「バイデン大統領の口を塞ぐわけにはいかないですよ」と。

「我々とはまったく異なる政治形態に基づく共産主義国を率いる人物という意味で、彼は独裁者だ」と発言

宮家)一応記者会見は終わっているのだから、不規則発言ではあります。しかし、不規則発言であっても「国家主席の顔に泥を塗るのか」となるわけです。中国側からすれば最後に「やられたな」という感じではないでしょうか。

飯田)バイデン氏は、「我々とはまったく異なる政治形態に基づく共産主義国を率いる人物という意味で、彼は独裁者だ」と発言しています。

宮家)この言い方は準備していたのだと思いますよ。

飯田)きちんとした定義付けなど。

宮家)応答要領をつくっていたから、すぐに出てきたわけです。アメリカの態度はしっかりしていますよね。

飯田)きちんとした定義付けなど。

宮家)応答要領をつくっていたから、すぐに出てきたわけです。アメリカの態度はしっかりしていますよね。

台湾に対しては「曖昧戦略」を続けるバイデン政権

宮家)始まる前は「習近平さんに騙されるのではないか、譲歩するのではないか」と言われていましたが、バイデンさんは頑固者だと思います。台湾についても、以前は「台湾を守る」などと言ってしまい、「失言だ、放言だ」と言われましたが、あれも本音でしょう。

飯田)本音である。

宮家)台湾防衛発言は最近封印していますが、米中間に歩み寄りがあったかと言われれば、麻薬の問題と軍の対話、AI以外はほとんどない。お互いに立場を言い合って、「昔と同じことを言い続けているのか。それなら、とりあえず大丈夫か」となる。ある報道によると、「ここ数年間は台湾侵攻はない」というものもありました。

飯田)中国側からそういう発言があったと報道されています。

宮家)でも、裏を返せば「数年後はわからない」ということです。「この数年はない」のかも知れないけれど・・・。そういう意味では、注目すべき発言だと思います。

飯田)もともと台湾に関して、アメリカは曖昧戦略を貫いてきましたが、バイデン氏の発言によって「少し変わったのではないか」とも言われています。

宮家)おそらくバイデンさんは「変えるぞ」と言って、中国側の出方を見た部分もあったのだと思います。結果、中国側が強く反応したので、一部の人たちは変えろと言っているけれど、アメリカ政府としては、いままでの曖昧戦略を続けることにしたのでしょう。つまり「中国が攻めてきたらアメリカがどう対応するかについて、はっきり言わない」ということです。この戦略は変えないつもりでしょうから、この封印は決して間違いではないと思います。

飯田)現状を維持する。

宮家)しかし、中国で現状を維持したくない人たちが現状を変えようとする可能性もあるので、アメリカ側も困ってしまい、「もっとアメリカの防衛義務を明確にすべきだ」という声がアメリカ国内で出ていることも事実です。それにバイデン政権は抵抗しているのだと思います。

 

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