「新・炎のストッパー」誕生へ 「弱気は最大の敵」が信条の楽天・則本が「抑え転向」宣言

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、来季からの「抑え転向」を宣言した東北楽天ゴールデンイーグルス、則本昂大投手にまつわるエピソードを紹介する。

【プロ野球楽天対ロッテ】1回 ロッテ・角中勝也を空振り三振に打ち取り吠える楽天・則本昂大=2023年10月10日 楽天モバイルパーク 写真提供:産経新聞社

【プロ野球楽天対ロッテ】1回 ロッテ・角中勝也を空振り三振に打ち取り吠える楽天・則本昂大=2023年10月10日 楽天モバイルパーク 写真提供:産経新聞社

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『来シーズンは、今江監督からの要請を受けまして、クローザーを務めたいと思います。チームも新体制となりますし、何より監督の想いに応えたいと思い、新しいポジションへのチャレンジを決めました』

~楽天イーグルス球団公式サイト(2023年12月5日配信記事)より

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12月5日に行われた契約更改後の会見で、楽天の則本昂大が来季からのクローザー転向を宣言した。

これまでプロ11年で263試合に登板し、先発が258試合と救援経験はわずか5回。先発投手であることに誇りを持ってマウンドに上がってきた男にとって、不退転の決意であるのは間違いないだろう。

クローザー転向のいちばんの理由は、長年に渡って楽天の抑えを務めてきた松井裕樹が海外FA権を行使し、メジャー移籍を目指すからだ。今年(2023年)4月、史上最年少27歳5ヵ月で通算200セーブを達成し、今季も39セーブを挙げた絶対的クローザーの後釜になるとあって、その前任者からすでにアドバイスを受けているという。

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「先発だろうと、抑えだろうと、中継ぎ、セットアッパーだろうと、仕事が変わるわけじゃない」

「『気持ちを変える必要はない』と後輩ですけど、教えていただきました」

~『日刊スポーツ』2023年12月5日配信記事 より

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来季がプロ12年目、まもなく33歳を迎える則本にとって一大転機と言えるが、一方で、運命的な転向でもあると思う。もともと則本は「炎のストッパー」と呼ばれた広島カープの伝説の抑え投手、故・津田恒実さん(享年32歳)に憧れを抱いていたからだ。

昔から、則本が座右の銘にしている言葉は「弱気は最大の敵」。入団時からグラブにもこの言葉を刺繍し、かつて則本が『週刊ベースボール』で連載コラムを担当していた際にもコーナーのサブタイトルにこの言葉を採用したほどだ。

そして「弱気は最大の敵」と言えば、津田さんがストッパーとして生き残るための信条として掲げていた言葉。則本は小学生のときに津田さんの人生を描いたテレビドラマを観て津田さんの生き様に憧れを抱き、以来「弱気は最大の敵」というフレーズも自らに重ねるように。だからこそ、背番号も津田さんと同じ「14」を背負い、ずっと目標の投手として津田さんの名を挙げてきたのだ。

振り返れば、津田さんも入団当初は先発投手であり、1年目に11勝を挙げて新人王に。だが、血行障害を患ったことも影響して先発完投型が難しくなると、プロ5年目にリリーフに転向。それまで以上にストレート主体のピッチングになり、ホップするストレートを武器に三振の山(※先発だった1年目の奪三振率6.16に対して、抑え1年目の奪三振率は10.51に激増)。ついには最優秀救援投手のタイトルを獲得することができた。

先発から抑えに転向した成功例として、来季の則本は、これまで以上に津田さんを目標にする日々が始まることになる。

抑え投手として則本に期待される資質の1つは、間違いなく「奪三振能力」だ。入団2年目から5年連続で最多奪三振のタイトルを獲得してきた則本ではあるが、キャリアハイだった2017年の222奪三振(奪三振率10.76)と比べ、今季の奪三振数は111(奪三振率6.45)と半減してしまっている。

かつての津田さん同様、抑えに配置転換されることをきっかけに改めてストレートを磨き直し、再び奪三振マシーンと化すことができるかどうかが鍵を握りそうだ。

具体的な数字として「30セーブ」を目標に掲げた則本だが、その先に見据えるのはもちろん、チームの優勝。来季は浅村栄斗とともにチームキャプテンを務めることも発表されているため、これまで以上にチームの勝利に対しての責任を抱えながらのマウンドになる。その来季に向け、則本はこんな抱負を残している。

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『チームが勝つために、プレーオフに進出して優勝するために、9回を自分らしく締めくくりチームに勝利を運ぶことができたらと思います』

~楽天イーグルス球団公式サイト(2023年12月5日配信記事)より

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「弱気は最大の敵」を刻んだグラブとともにマウンドに上がる背番号14。杜の都に誕生する「新・炎のストッパー」が9回のマウンドで躍動する姿を期待したい。

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