黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(1月10日放送)に小説家の湊かなえが出演。最新作『人間標本』について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。1月8日(月)~1月12日(金)のゲストは小説家の湊かなえ。3日目は、『人間標本』を書こうと思ったきっかけについて---
黒木)最新作『人間標本』では蝶が出てくるのですが、蝶と少年をリンクさせることで、ミステリー感が深まっていくという話を伺いました。この小説を書こうと思われたきっかけは何ですか?
湊)デビュー直後から、「親の子殺し」というテーマで書いてみたいなと思っていました。「よくそんなことができるな」という内容を突き詰めていきたいと思ったのです。いつか書きたいと思っていたけれど、デビュー当時は子どもがまだ小学1年生でしたので、それを子どもが読んだときに、「自分の親が自分に対してこのような気持ちを持っているかも知れない」とは思わせたくなくて、ずっと封印していたテーマでした。そのうち子どもが成人して、小説と現実との区別も付くし、「小説の世界が自分とリンクしているわけではない」ということもわかってきたので、15周年でこのテーマに挑んでみようと思ったのがスタートです。
黒木)そこから『人間標本』まで、すごく飛んでいますよね。発想はご自分ですか? もしくは編集者との話し合いからですか?
湊)連想クイズではありませんが、小説で何かを書こうと思ったときに、自分の頭のなかに湖や池などの静かな水面をイメージして、そこにテーマの石を投げ、広がっていったらそれを書こうと思うのです。
黒木)なるほど。
湊)まず1つ目の波紋が広がって、親と言っても「母親かな、父親かな」と考えたのです。これまで母と娘の話が多かったので、サイン会などで読者の方から「父と息子の話をぜひ書いてください」というリクエストを受けることも多く、ここは父と息子にしようと考えました。そこから、「父と息子にどんなことが起きたら、我が子を手にかけるという選択が1つ加わることになるのかな」と考えました。
黒木)父親であれば。
湊)母親であれば、仕事をしていても「母として、家族として」という気持ちが勝ることが多いのですが、何かを1つ追求し続けている父親だったら、息子よりも追求している方を選んでしまうことがあるのかなと……。
黒木)ポンと落とした最初のテーマから、静かな湖に波紋が広がっていくわけですね。小説ではお父さんの幼少から始まるのですが、丁寧に書かれてあり、それで「おっと?」となりました。それから「こうだったんだ」となり、「いや違う、こうだったんだ」となって、最後は泣いてしまいました。しみじみと泣きましたが、泣いてしまった自分に驚きました。
湊)気付いたら泣いていたような感じですか?
黒木)「私、泣いてる」というような……。最後のページの方で。
湊)黒木さんは女性で母親だけれど、父親が主人公の話でそのように泣かれたのだと思うと、皆さん女性でも読みたいと感じてくださるかも知れません。
黒木)切ないミステリー、本当にセツミスでした。
湊)読んでくださった方が、自分の親子の関係など、そのようなものにも思いを馳せていただけたらいいなと思いました。
黒木)親子の絆が書かれていますね。
湊)この本を読んでくださった方は、公園などで蝶が飛んでいるのを見ても、いままでとは見え方が違ってくるかも知れません。それも楽しんでくれたらいいなと思います。
湊かなえ(みなと・かなえ)/小説家
■1973(昭和48)年、広島県生まれ。
■2007(平成19)年、「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。
■2008年、「聖職者」を収録した『告白』が「週刊文春ミステリーベスト10」で国内部門第1位に選出され、2009年には本屋大賞を受賞した。
■2012年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、2016年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。2018年『贖罪』がエドガー賞ベスト・ペーパーバック・オリジナル部門の候補となる。
■その他の著書に『Nのために』『母性』『高校入試』『絶唱』『リバース』『未来』『ブロードキャスト』『落日』『カケラ』『ドキュメント』『残照の頂』など。
■2023年12月13日、KADOKAWAから15周年記念書下ろし作品『人間標本』が出版。
番組情報
毎朝、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをお迎えして、朝の活力になるお話をうかがっていく「あさナビ」。ナビゲーター:黒木瞳