「私が走って何かを届けられたら」都道府県対抗駅伝で「石川チーム」が見せた懸命の走りと世代を超えたつながり

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、都道府県対抗女子駅伝、そして男子駅伝で懸命な走りを見せた石川県チームにまつわるエピソードを紹介する。

1区で力走する石川の五島莉乃=2024年1月14日、たけびしスタジアム京都 写真提供:時事通信

1区で力走する石川の五島莉乃=2024年1月14日、たけびしスタジアム京都 写真提供:時事通信

新春の駅伝といえば、1月1日のニューイヤー駅伝、そして2日・3日に行われる箱根駅伝の熱狂ぶりが毎年の風物詩。だが、今年(2024年)は男女に分かれての都道府県対抗駅伝でも熱いドラマが生まれた。特に沿道の声援を集めたのは、能登半島地震の被害を受けた石川県チームだ。女子は43位、男子は47位と成績的には振るわなかったが、その走りは見る者を熱くさせた。

まずは1月14日、京都府が29年ぶり2度目の優勝を果たした全国都道府県対抗女子駅伝だ。この大会の1区(6キロ)には、石川県の星稜中学・星稜高校出身の五島莉乃(資生堂)が「ふるさと選手」として出場した。

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『私が走って何かを届けられたらいいなと思ってるので。うまく言葉では伝えられないですけど、そういう勇気だったり元気だったり、笑顔っていうとあれかもしれないですけど、届けられたらいいな』

~『デイリースポーツonline』2024年1月14日配信記事 より(五島莉乃の言葉)

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そんな思いでレースに臨んだという五島。1日の地震発生時は石川から東京へ向かう新幹線のなかで、車内には12時間閉じ込められたという。肉体的にも精神的にも、当然ながらトップコンディションではなかったはずだが、この日は1.5キロ過ぎから抜け出して独走すると、2022、2023年世界選手権女子1万メートル代表の力を出し切り、区間記録にあと10秒と迫る好タイムで区間賞を獲得し、2区にたすきをつなげた。

その素晴らしい走りに涙腺を刺激されたファンは多かったはず。だが、走った本人も涙を堪えながらのレースだったという。

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「今までに聞いたことがないぐらい、ずっとずっと絶えずに『石川!』『石川!』と応援してくださって。だから私も勇気をもらって、泣きそうになりながら走ってました」

~『デイリースポーツonline』2024年1月14日配信記事 より(五島莉乃の言葉)

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そして1月21日、長野が大会新記録で3連覇を果たした全国男子駅伝でも、石川チームは懸命の走りを見せた。エントリーした中学生は能登出身の選手たちで、避難所生活をした選手もいるというから、準備不足だったことは想像に難くない。そんな状況でも最後まで走り切った姿に、レースが行われた広島市の沿道では、最下位の石川チームが走って通りすぎるまでファンの声援は途切れなかった。

アンカー7区(13キロ)を務めた福村拳太は石川県金沢市出身。石川県金沢市と小松市を拠点とする砂山商事とスポンサー契約を結び、プロランナーとして活動している。今大会では区間44位。本来の走りはできなかったのかも知れない。それでもレース後、自身のSNSでこんなコメントを残している。

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『都道府県駅伝、石川チームの応援ありがとうございました。本当に途切れることのない応援に最後まで力をいただけました。悔しい結果でしたが、間違えなくチーム皆、前を向いて走り切ってくれました。これからも前を向いて。一つになって復興に歩めていけるように頑張ります! 素晴らしい大会に感謝!』

~福村拳太「X(旧Twitter)」2024年1月21日投稿 より

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今回の石川チームで、特に注目を集めたのが3区(8.5キロ)に出場した石川県能美市出身の中村高洋、40歳。普段は鹿児島県を拠点に走る市民ランナーで、「ふるさと選手」として石川代表に選出された。

2021年のびわ湖毎日マラソンで自己記録を大幅に更新する2時間9分40秒をマークし、37歳にして初のサブ10(2時間10分切り)を達成したという遅咲きの星は、「都道府県対抗駅伝史上初の40代ランナー」として新たな歴史を紡いだ。

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『大切なのは前を向いて頑張る姿、全力で最後までたすきをつなぐこと。楽しく走ろう』

~『中国新聞デジタル』2024年1月21日配信記事 より(中村高洋の言葉)

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レース前にはこう抱負を語っていた不惑のランナーは、親子ほど年の離れた2区の中学生ランナー若狭怜士(中能登中)からたすきを受け取ってスタート。自身は区間40位に終わったものの、4区の高校生ランナー中川新太(遊学館高)へ確実にたすきをつなげた。

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『石川代表であることに誇りを持って一つでも前に、と走った』

~『産経新聞』2024年1月21日配信記事 より(中村高洋の言葉)

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その「誇り」は間違いなく、見る者にも伝わるものがあった。また、中学生から40歳へ、そして高校生へ……世代を超えたつながりを意識できるのも、都道府県対抗駅伝ならではの光景だ。

本来、個人種目の陸上競技でありながら、1人だけでは勝負ができない駅伝。それは、まさに人生とも通じるものがある。つらいときにいかに支え合えるか。その駅伝の真髄部分を、懸命に支え合う石川チームが見せてくれたことに大きな意義があるのだろう。

スポーツにおいて順位は重要だが、順位以外にも価値があると改めて感じることができた大会となった。

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