ジャーナリストの須田慎一郎が3月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。年度内の成立が確定した2024年度予算案について解説した。
2024年度予算案、衆議院本会議で可決 ~年度内の成立が確定
一般会計の総額が112兆円余りとなる2024年度予算案は3月2日、衆議院本会議で自民・公明両党などの賛成多数で可決され、参院に送られた。予算案は憲法の規定で今年度中の成立が確定。参院での予算案審議は3月4日から始まる。
今国会のキーワード「丸投げ」「独りよがり」「腰砕け」
須田)予算案の審議をめぐっては、立憲民主党の安住淳国対委員長などから「まだ疑惑追及が終わったわけではない。これからが本番だ」という声もありますが、これは負け犬の遠吠えでしょう。実際、共産党サイドからも「山場を越えた」という声が聞こえてくるような状況です。ですから事実上、「今通常国会での最大の攻防は終了した」と考えていいと思います。通常国会の特徴として3つのキーワードがあり、「丸投げ」「独りよがり」「腰砕け」です。これが何を意味するか、順を追って説明していきます。
予算案を可決するための「80時間の審議」を達成するには、政倫審を2月28日と3月1日に開催しなければならなかった
須田)今回の通常国会において、予算案の衆院可決をとにかく「3月2日までに終了させたい」というのが岸田首相の強い希望だったのです。なぜそこにこだわるかと言うと、憲法上の規定によって衆院可決から30日経てば、衆院優先で予算案が自然成立するからです。そのためには、3月2日までに終了させなければならない。ところが3月2日は土曜日だったので、金曜日の3月1日までに衆院で可決できるかどうか、国対を含めて激しい攻防があった。野党の出した条件は「政倫審の開催に目処をつけ、出席者を確保する」というものでした。
飯田)野党の条件として。
須田)政倫審の開催が見通せなければ、予算案審議の日程交渉には応じない。これは国対同士の話です。2月末の段階で、予算案を可決するためには80時間の審議が必要なのに、政倫審の開催をめぐって69時間でストップしてしまった。それだと1日フルで予算委員会を開催しても7時間しか確保できないから、69プラス7で76時間しかない。4時間足りないのです。80時間に達するためには、2月28日と3月1日に(政倫審を)開催しなければならなかった。そこで、ようやく26~27日、あるいは27~28日の日程で政倫審開催の調整がついたのですが、最終的には5人プラス岸田首相が出席したけれど、26日の時点では2人に減っていたのです。
飯田)公開、非公開をめぐって。
本来であれば政倫審の調整をするべきところを森山裕総務会長に「丸投げ」した茂木幹事長
須田)西村康稔さんと武田良太さんの2人に減っていた。加えて、西村さんが「やはり出られない」となり、それを受けた武田さんも「俺1人なのか?」ということで出席を拒否し、0人になった。ここで官邸がバタバタし始めるのです。
飯田)西村さんがフッといなくなってしまい、武田さんも「1人は勘弁してくれ」となったのですね。
須田)それまで、1人ひとりの出席予定者と会って面談・調整していたのは森山裕総務会長でした。しかし本来、それを行うべきは茂木幹事長なのです。
飯田)党の話でもあるし、総裁はいるけれど、実質的には回していくトップですからね。
須田)最高責任者です。それなのに茂木さんが「俺はやらない」となってしまって、森山さんに丸投げした。
野党にも与党にも根回しせず、独りよがりで政倫審への出席を勝手に決めてしまった岸田総理
須田)ところが、岸田首相が勝手に出席を決めてしまった。森山さんにとっては寝耳に水で「聞いてないよ」という状況になり、一気に大混乱となってしまった。一方で森山さんは安住淳国対委員長とやり取りをしており、自民党のなかでは、実質的な国対委員長は森山さんがやっているようなものでした。
飯田)一応、ポストとしては浜田靖一さんですけれど。
須田)人間関係がまだ確立していないものですから。
飯田)もともと森山さんは長かったですからね。
須田)なおかつ、浜田さんの前の高木毅さんの時代も、安住淳さんは「高木さんは相手にしない。俺が相手をするのは森山さんだけだ」と言っていたため、この2人はいい関係にあったのです。ところが、森山ルートで岸田首相が出席する話が入ってこなかったものだから、立憲民主党は「どうなっているのだ」と大慌てになる。これが岸田首相の独りよがりです。野党にも与党にも根回しせず、「俺が出ればみんな出るだろう」と1人で勝手に決めてしまった。それを慌てて森山さんが調整したのです。総理が出ると言えば相当重みがありますから。
飯田)やらないわけにはいかなくなる。
立民・山井氏の長時間演説への日本維新の会と国民民主党の反発で腰砕けになり、予算案採決へ
須田)2月28日になって、ようやく政倫審の開催が決まりました。そして28~29日にかけ、野党に対して予算委員会の日程調整に入っていくわけです。3月1日に総括質疑を行い、可否を問う流れになったのですが、全然時間が足りない。それを何とか3月2日、あるいは4日にずれ込ませようというのが野党の戦略でした。ところが首相の意向もあり、自民党サイドが委員長職権で3月1日に強行採決を行おうとした。それで激しい攻防になり、予算委員長の解任決議案や、鈴木財務大臣の不信任決議案を相次いで出そうとしたのですが、あまりにも議事妨害のような形で長時間やったものだから……。
飯田)立憲民主党の山井氏が長時間演説を行いました。
須田)2時間を超えたこともあって、日本維新の会と国民民主党が反発したのです。それで腰砕けになってしまい、3月1日に採決する流れになった。ここがポイントです。
選挙協力する立憲民主党、共産党、日本維新の会、国民民主党の「緩やかな野党共闘」が水面下で動いている
須田)ところが、いつも開かれるはずの安住淳国対委員長のぶら下がり会見が開かれなかった。どうして1日の採決をのんだのかなど、現在もよくわかっていないのです。ただ、これまでの状況を見ると「これしかない」と思うことが1つあり、それが選挙をめぐっての野党共闘です。まだ完全に裏を取り切れていないのですが、次の衆議院選挙においては水面下で立憲、共産、日本維新の会、場合によっては国民民主党も含め、選挙協力が行われそうな動きがあるのです。
飯田)野党共闘。
須田)ただ、すべての候補者を調整するわけではなく、緩やかな野党共闘です。例えば近畿2府4県においては、立憲民主党が新たな候補者を「立てない」とか。
飯田)いま決まっている支部長は、それはそれとして。
須田)そこは維新にお任せする。それ以外については維新も立憲民主党に対して配慮するような、緩やかな形での野党共闘の動きが水面下であるようなのです。
飯田)政策協定などではなく、ある意味「阿吽の呼吸」のような形で。
徹底抗戦すると、進めている野党共闘の動きが水泡に帰してしまうことを恐れた立憲民主党
須田)「このまま自公政権に任せていたら、この国はあらぬ方向に行ってしまう」というところで、とりあえず「連立政権を組もうではないか」という動きです。まだ合意されたわけではないですが。
飯田)そうすると、あそこでそっぽを向かれてしまったのは……。
須田)強気に出て、最後まで抵抗戦略を貫いていたら、おそらく3月2日の予算案可決はできなかったと思います。立憲民主党がなぜ「腰砕け」になったかと言うと、そういう水面下の動きを意識してのことではないかと、私は見ています。
飯田)不信任決議案や解任決議案が出されると、まず本会議を開き、それを審議しなくてはならない。そういう国会ルールがありますが、法律を9つくらい用意していたという話もあり、当時はまだ2つ、3つぐらいしか出していなかった。ある野党議員は「まだやれることがあったのに、なぜあそこで止めてしまったのか」と不思議がっていました。
須田)政策論争ではなく徹底抗戦に対しては、維新の会も国民民主党も否定的でした。先祖返りしてしまうと反発を招き、水面下で進めていた動きが水泡に帰してしまうので、(立憲民主党が)恐れたのではないかと思います。
長崎の補選についても森山裕総務会長に丸投げの茂木幹事長
飯田)参院でも政倫審を行うという話が出ています。次の野党の戦略はどうなりますか?
須田)参院で政倫審を開き、なおかつ証人喚問を行おうとするわけです。しかし、もはや予算案という人質はないわけですから、与党は全部突っぱねておけばいい。しかし、国民世論の不信を呼んでしまうので、適当なところで政倫審に何人か出すとなると、「それは緊張感があるのだろうか?」と思います。まったくないですよね。野党も強気に出られないし。
飯田)低空飛行を続けながら、4月28日の補選に進むのが与党側の戦略なのですか?
須田)実を言うと、茂木幹事長は補欠選挙についても丸投げしています。
飯田)衆院長崎3区の補欠選挙は、茂木幹事長と長崎県連が協議していたようですが。
須田)それを調整したのも森山裕総務会長です。小渕優子さんも選対を仕切れないので、丸投げ状態です。
飯田)全部森山さんが対応している。
須田)その間、茂木さんは3回生・4回生議員を集めて会食を行っています。その心は総裁選にあるのです。自民党が困っている時期なのに。
飯田)「大将を支えよう」というわけではないのですね。
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