中国全人代閉幕 首相会見をなくした「2つの理由」
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日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が3月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。3月11日に閉幕した中国の全人代について解説した。
中国全人代閉幕、首相の会見なし
中国の全国人民代表大会(全人代)が3月11日に閉幕した。経済成長率目標を5%前後とした政府活動報告や、国防費を含む予算案を承認した。また、これまで恒例だった最終日の首相記者会見は行われなかった。
飯田)30年ぶりに会見がなかったそうですね。
秋田)私は94年から98年まで北京に駐在していたので、全人代を4回取材しました。当時はいろいろな分科会も取材できましたし、全人代の代表にぶら下がって話を聞くなど、かなり自由にできたのです。もちろん首相会見、外務大臣の会見もありました。
コロナを理由に2週間だった期間を1週間に ~コロナが収束したのに戻さず
秋田)日本メディアでは全人代を「国会に相当する」と表記しますが、国会とは名ばかりで、共産党による一党支配ですから、法案も初めから通ることが決まっています。ただ1年に1回、全人代が開催される約2週間は唯一、ガラス窓から内部が覗けるチャンスだったのです。しかし、まずコロナ禍を理由に約2週間だった期間を1週間ほどに変えたのですが、コロナが終わったのに戻さない。
飯田)戻していないですね。
秋田)今年(2024年)戻さないということは、「コロナが収束していないから戻せない」という話ではなく、短くしたということです。
首相の会見をなくした2つの理由
秋田)さらに、首相会見をなくしたのは明らかに意図を感じます。2つ理由があり、中国は経済が厳しいので、質問攻めにされて立ち往生するような事態は避けたいのが1つ。また、いまの李強首相は首相というより、習近平国家主席の補佐官、執行役員のような感じだと思います。経済も含め、習近平氏がすべてを仕切って決める立場なので、首相の位置付けはナンバー2というより、習近平氏以外の全部がナンバー5やナンバー7というような状況だと思います。おそらく習近平政権のなかでも、年に1度の全人代という政治の祭典の最後に、「首相が中国を代表して外交をはじめ、何から何まで話すのか」という疑問が出たのではないでしょうか。
飯田)「お前ごときがやるのか」というような。
秋田)習近平氏がそう言ったのか、もしくは「習近平国家主席が全部お決めになるので、私が会見するのは畏れ多い」となったのかはわかりませんが、そういうことだと思います。
中国の最優先は経済ではなく、安全保障に
飯田)いずれにせよメッセージがわかりづらくなると、いろいろな誤算を生みますよね。
秋田)そうですね。今回の全人代では、政府活動報告(施政方針演説に相当)を初日に李強首相が読み上げたわけです。そのなかで「安全という言葉が29回出てきた」という報道があります。いまの中国の最優先は経済ではなく、安全保障になっている。安全運転とも言えると思うのですが、経済が重要な時代には対外投資や貿易が必要ですから、窓を開いて対外開放していく路線だったわけです。90年代はまさにそうでした。
経済成長だけでは共産党を支持してくれない状況のなか、まず内部を統制しなければいけない
秋田)改革開放の流れがあったのですが、もはや国家の安全、もっと突き詰めれば「共産党体制の維持」を重視しなければならないほど、「安全保障環境が厳しい」と共産党は思っているのでしょうね。貧富の格差や少数民族問題など、いろいろな矛盾が出ても、貧しかった時代は経済成長を達成すれば、人々は「共産党万歳」と言ってくれた。しかし、今後は経済成長だけでは維持できない、共産党を支持してくれない状況になってきたので、まず内部を統制しなければいけないのです。
飯田)まずは内部を統制する。
秋田)あとは中国が大きな国になってしまったので、アメリカとのライバル関係が強まり、他国に関しても外部の安全保障関係が厳しくなっている。内外の安全が課題になっているなかで、「全人代で窓を開く必要があるのか」という疑問があり、「きちんと戸締りをしなければ」というモードになったのかも知れません。それが表れているのではないでしょうか。
飯田)戸締りはしているけれど、国防費は7.2%増にする。
秋田)家に例えると、これまで開放した窓を閉め、警備装置をたくさん置いて警備にお金を掛けるような状況なのだと思います。
飯田)それがますます周りの状況を悪くさせているような気がしますが。
秋田)そうですね。国が大きいので、内部がどうなっているかわからないとみんな不安になり、より警戒を招きかねないと思います。
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