車いすテニスプレーヤー・三木拓也の飽くなき挑戦

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グランドスラムに次ぐスーパーシリーズに位置づけられるアジア最高峰の大会「天皇杯・皇后杯 第41回飯塚国際車いすテニス大会(Japan Open 2025)」が4月15日から6日間にわたり、福岡県飯塚市のいいづかスポーツ・リゾートテニスコートで行われた。

車いすテニスプレーヤー・三木拓也の飽くなき挑戦

三木は格式あるジャパンオープンでベスト8の成績をおさめた

世界トップクラスのプレーヤーが集結するなか、男子シングルスでは世界ランキング8位の三木拓也(トヨタ自動車)がベスト8の成績をおさめた。

ジャパンオープンは準々決勝敗退も存在感を示す

パリ2024パラリンピック競技大会(以下、パリ2024大会)の男子ダブルスで銀メダルを獲得してから8カ月。今年は、個人戦に限ればグランドスラムの全豪オープンを含む5大会に出場。積極的に実戦を重ねて迎えたこのジャパンオープンは準々決勝で敗れたものの、三木は35歳にして進化する姿を見せた。

第5シードの三木は、初戦となる2回戦で世界ランキング19位の21歳、マーティン・テア・ヘフテ(オランダ)と対戦。この日はサーブのトスが流れてしまうほどの強風がコート上に吹き込み、序盤はリズムを掴み切れずにリードを許した三木だったが、終盤にゲームを連取して第1セットを7-5で先取した。第2セットは、三木がいきなりブレークに成功。第6ゲームは0-40とポイント先行されるも、そこから粘りを見せて逆転。その後も試合を優位に進め、6-3で勝利した。三木が「難しい試合だった」と振り返るように、スコアの数字以上にタフな試合展開となったが、豊富な経験に裏打ちされた戦術の幅広さが光る試合だった。

つづく準々決勝の相手は、第3シードのステファン・ウデ(フランス)。54歳ながらトップを走り続けるウデとの対戦は、実に通算18度目となる。直近では2023年の全仏オープンの1回戦で三木が勝利したあとは2連敗中とあってリベンジに燃えていたが、試合巧者のウデにペースを握られ、2-6、4-6で敗戦。三木は試合後、「ウデ選手の展開の速いテニスを攻略できなかった。とくにファーストセットでボールコントロールが出来ずに、対応が後手にまわってしまった」と振り返ったが、第2セットは終盤までブレークを許さない粘り強さを発揮した。

車いすテニスプレーヤー・三木拓也の飽くなき挑戦

所属先からも応援団が駆けつけ、声援を送った

新しいテニス車での挑戦は、新しい自分との出会い

今年初のタイトルは逃したが、三木にとって明るい材料もあった。今大会の直前に行った韓国遠征から新しい競技用車いすを導入しており、その使用感のフィードバックができたことだ。今大会はあえてシングルスのみのエントリーとし、シード選手のため大会3日目に初戦を迎えたことも「ラッキーだった」と三木は語る。「今はチェア自体をいろいろといじっている時期。新しいチェアで試合に向けてどう準備するか手探りの状態なので、現地に入ってからもじっくりと練習できたことで、初戦の前日に少し掴めた部分があった」と話す。

三木は所属先のトヨタ自動車と競技用車いすの開発等に取り組んでいる。今回のモデルは座面のクッションを取り払い、2ミリ程度の薄いゴムのシートを挟んでカーボン製のいすの部分にほぼ直に座るタイプにした。クッションを外すことで車いすの操作性にどう影響するのか試すことが狙いだという。その背景には、「パリ2024大会でダブルス決勝を戦った際、ほかの3選手に比べて僕は車いすの上に乗ってしまっている状態だと感じた。車いすとの“人馬一体”のような一体感が、もう少しほしかった」と、世界最高峰の頂上決戦のなかで気づきがあったことを明かす。

車いすテニスプレーヤー・三木拓也の飽くなき挑戦

先を見据え、競技用車いすの仕様変更など新たなチャレンジにも取り組んでいる三木

競技用車いすはアスリートの“脚”そのもので、新調したり、セッティングを変えたりすることで、調子を落としたり、怪我をするリスクもあり、とても勇気がいる挑戦だといえる。だが、三木はそれを覚悟のうえで、決断した。

「パリで優勝を逃したからこそ、もっとこうしたらいいんじゃないかというアイデアが出てきたし、まだまだ強くなりたいと改めて自分の気持ちを確認することができた。それに、体力の回復面以外は向上していると感じている。次のロス大会を視野に入れながら、まず今年はまだ経験していないグランドスラムの決勝進出を目指す」と、力強い。

飽くなき追求心で、全盛期を更新する35歳。自分と世界に挑み続ける三木のこれからの3年間に、注目していきたい。

文・写真/荒木美晴

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