タンバリンで妨害されたジュリーの苦労と井上堯之の存在
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第7回 沢田研二『許されない愛』
最近、ますます加熱するアナログ盤ブーム。そしてシングル盤が「ドーナツ盤」でリリースされていた時代=昭和の楽曲に注目する平成世代も増えています。
子供の頃から歌謡曲にどっぷり浸かって育ち、部屋がドーナツ盤で溢れている構成作家・チャッピー加藤(昭和42年生)と、昭和の歌謡曲にインスパイアされた活動で注目のアーティスト・相澤瞬(昭和62年生)が、ターンテーブルでドーナツ盤を聴きながら、昭和の歌謡曲の妖しい魅力について語り合います。
チャ:「君が踊り僕が歌うとき、新しい時代の夜が生まれる。太陽のかわりに音楽を。青空のかわりに夢を!」……って、ホントはいま昼なんだけどね。こんにちは、チャッピー加藤です。
相澤:それは初期『オールナイトニッポン』の有名なフレーズですね? こんにちは、相澤瞬です。
チャ:ちょっと雰囲気で使ってみました。というのも、ほら! ついに借りちゃったよ、ニッポン放送のスタジオ!
相澤:いやー、大感激です…! トークも収録して、番組化に向け一歩前進ですね!
チャ:それが……瞬くん、まことに申し訳ない。スタジオは押さえたんだけど、ディレクターとミキサーさんが手配できなくて。
相澤:じゃこの内容って、もしかして…!
チャ:いつも通り、文字だけ(笑)。
相澤:「なんちゃって放送」?! せっかくスタジオにいるのに!(笑)
チャ:でも、わざわざスタジオ借りて文字情報しか出さないって、もしかしたらこれは、すごく新しいことをやってるのかもしれないよ。
相澤:確かに、ヤバイですよね(笑)。この壮大な「ムダ感」がたまんないです! そういうの大好き!
チャ:まあ、雰囲気だけは放送風にやりますか。では今週も、『ドーナツ盤万博』、ゴーゴーゴー&ゴーズオン!(By 糸居五郎)
■GS人脈が支えた初期ジュリー
チャ:さて、今回はジュリーについて語りたいんだけど、その前にまず、フリとして聴いてほしい曲があるのよ。まずはこちら。
チャ:1972年にスタートした刑事ドラマ『太陽にほえろ!』のテーマソングだけど、演奏は「井上堯之(たかゆき)バンド」。初期ジュリーを支えたバックバンドです。その堯之さんが、5月2日に亡くなられて……。
相澤:ああ、ザ・スパイダースのギタリストだった……
チャ:そう。オレが子供の頃、TVで観るジュリーの後ろには、常に堯之さんがいたのよ。とりあえず、演奏を聴いてみよう。
(♪ターンテーブルに乗せて、演奏)
チャ:いやー、この冒頭のギター、何度聴いてもカッコいいわー。
相澤:いいですねー、こういうギター好きです!
チャ:なんで『太陽にほえろ!』のテーマを堯之さんたちが担当してるかというと、ショーケン(萩原健一)がマカロニ刑事役で出てたから。ショーケンは当時、堯之バンドの前身にあたる「PYG(ピッグ)」というバンドにいたのよ。
相澤:あ、それ、ジュリーもいたバンドですよね?
チャ:そそ。タイガース、テンプターズ、スパイダース、この3つのGSからそれぞれ2人ずつメンバーが集まって、6人でスーパーバンド作ったの。これ、当時のジャケットね。
相澤:すごい! ジュリーとショーケンが一緒にいる!
チャ:真剣に音楽をやりたいメンバーで、本格的な新しいロックを追求していこう、ということで結成されたんだけど、ジュリーとショーケンのツインボーカルが売りだったわけ。
相澤:でも、両方とも熱烈なファンがいたんですよね? ライヴのときとか、ケンカにならなかったんですか?
チャ:それ、あったのよ。ジュリーがソロパート歌ってるとき、ショーケンのファンがタンバリン鳴らしたり。ジュリーが「タンバリンやめて!」って叫んでる音源が残ってる(笑)。
相澤:こ、恐い…!
チャ:あと、ロックフェスに出ると「お前ら、GSの寄せ集めじゃないか!」「商業主義の手先は帰れ!」と罵声を浴びて石投げられたり……命懸けだよね(笑)。
相澤:今じゃありえないことですね…
チャ:で、すぐにドラマーが交代したり、ショーケン自身が俳優業に専念し始めて、PYGはだんだん、「ジュリー+4人のバックミュージシャン」になってくわけ。
相澤:そのジュリー以外の4人が、「井上堯之バンド」になったわけですね。なるほど!
チャ:ちなみに、このジャケットのいちばん左は、元タイガースのリーダー・岸部修三さん……今は俳優の、岸部一徳さんだから。
相澤:あ、よく見たら面影が……。しかも髪、長っ!
チャ:腕利きのベーシストだったのよ。キーボードの大野克夫さん(元スパイダース、作曲家)もそうだけど、こういうGSきってのテクニシャンたちが、ジュリーのソロ活動を支えていくわけよ。
相澤:そうか、そういう経緯だったんですね。もともとはジュリーも井上堯之さんも、同じバンドのメンバーだったと。
チャ:そう。そこが今回の重要なポイント。それをふまえた上で、本題に行ってみよう。長い前フリだなー(笑)。
■歌に寄り添うギター
チャ:で、きょう取り上げたいのは、1972年3月10日発売、ジュリーのソロ第2弾シングル『許されない愛』。作詞は山上路夫さんで、作曲は加瀬邦彦さん。オリコン最高4位、ジュリー初のトップ10ヒットね。
相澤:チャッピーさん、ジュリーの曲がいろいろある中で、なぜこの曲を?
チャ:堯之さんに仕事でお目にかかったとき、「ジュリーのバックで演奏した曲で、特に印象に残っているナンバー」を伺ったら、何曲か挙げてくださったうちの一曲が、これだったのよ。
相澤:へー、貴重な証言ですね!
チャ:堯之さんによると、最初は「歌謡曲じゃねぇか!」と思ったけど、演奏するうちにだんだん「いい曲だな」と思うようになったんだって。
相澤:僕、思ったんですけど、堯之さんたちはもともとロック志向だったんですよね。でもジュリーがソロで売れていくに従って、どんどん歌謡曲のほうに行くわけじゃないですか。
チャ:まあ、渡辺プロにいるわけだし、自然とそうなるよね。
相澤:堯之さんに、そのへんの葛藤はなかったんですかね?
チャ:あったんだって。「沢田のことは大好きだけど、アイツのやってることには興味はない。でも沢田は一所懸命なヤツなんだよ。だから困った」と。
相澤:なるほどー。
チャ:……で、堯之さんが出した結論が「沢田とは、距離を取りながら一緒にいよう」。つまり、黒子に徹すると。
相澤:あー、それで前面に出てないんですね。そうだったんだ……
チャ:この曲、ステージでは堯之さんが弾いてたんだけど、レコードは海外録音で、演奏は現地のミュージシャンなのよ。当時歌番組に出たときの秘蔵映像があるんで、ちょっと観てもらえる?
(♪当時の映像観る)
相澤:あー、ホントだ。バンドのメンバー、画面では完全に陰に隠れてますね。でも演奏は素晴らしい! いいなー、このギター。
チャ:でしょ? 瞬くんもバンドを従えて歌ってるけど、ボーカリストとしては、どういうギタリストがやりやすい?
相澤:その時の音楽性にもよるんですが、テクニック全面というよりは、歌に寄り添ってくれるタイプのギタリストさんはとても歌いやすいです。この堯之さんのギターとかまさにそうで、ジュリーが歌いやすいように弾いてますよね。
チャ:なるほどねー。確かにそこは、ジュリーを立てよう、という意識があるからこそだよなー。
相澤:あと、ジュリーの歌い方も情熱的というか、エモいですよね。
チャ:ジュリーが前に言ってたけど、PYGからなし崩し的にソロ活動をすることになったとき、ちゃんとピンでやっていけるのか、ずっと不安だったんだって。
相澤:その不安なジュリーを、バンドのメンバーが支えたんですね。
チャ:ただ、いつまでもバックに頼ってばかりじゃいけないと。スゴ腕の彼らと堂々と渡り合って、なおかつヒット曲を出したい……その思いが、この『許されない愛』の熱唱につながったんじゃないかなー。
相澤:あー、なんかすごくわかります!……僕、思うんですけど、音楽への情熱とか愛もすごく大切ですけど、一方で「売れるにはどうしたらいいか」を考えるのも、また大事だと思っていて。売れないと活動も続けられないですからね。
チャ:うんうん。瞬くんは他のバンドのプロデュースもやってるから、余計にそう感じるよね。
相澤:特にジュリーは、タイガースで爆発的に売れたわけじゃないですか。前面に立ってただけに、ヒットを出し続けることへのプレッシャーって、人一倍感じてたと思うんです。
チャ:そうだねー。売れることと、その中でやりたい音楽をやることは両立するんだと。それに協力してくれた堯之さんたちには、ジュリーはすごく感謝してたと思う。たとえば、このジャケットね。
チャ:これは74年3月に出た9枚目のシングル『恋は邪魔もの』だけど、ジュリーの周りに散りばめられたスナップ写真をよく見て。
相澤:あ、バンドのメンバーですか、これ!
チャ:そう、ジャケットに堯之さんたちの写真を載っけてんの。これってジュリーの意向だと思うのね。堯之さんは自分らが前面に出るのを良しとしてなかったから、こういう控えめな露出になったと思うんだけど。
相澤:曲も聴いてみたいです!
チャ:またこれが、みごとなバンドサウンドなのよ。
(♪ターンテーブルに乗せて、演奏)
相澤:これもギターが歌に寄り添ってますねー。素晴らしい!
チャ:いいでしょ? ジュリーはデビュー以来半世紀ずっと「自分はバンドのボーカリストだ」っていう意識で歌ってて、それは今も変わってないんだけど、この曲なんかまさにそれを象徴してるよね。
相澤:いやー、自分もバンドとソロ活動を両方やってるだけに、きょうの話はホント、よくわかりました。
チャ:だけど、強い絆で結ばれていたジュリーと堯之バンドにも、やがて別れの時がやって来るんですよ。……長くなったんで、その話はまた次回ね。
相澤:楽しみにしてます!
……次回は、沢田研二『TOKIO』について二人が熱く語ります。お楽しみに!
【チャッピー加藤/Chappy Kato】
昭和42年(1967)生まれ。名古屋市出身。歌謡曲をこよなく愛する構成作家。好きな曲を発売当時のドーナツ盤で聴こうとコツコツ買い集めているうちに、いつの間にか部屋が中古レコード店状態に。みんなにも聴いてもらおうと、本業のかたわら、ターンテーブル片手に出張。歌謡DJ活動にも勤しむ。
好きなものは、ドラゴンズ、バカ映画、プリン、つけ麺、キジトラ猫。
【相澤瞬/Shun Aizawa】
昭和62年(1987)生まれ。千葉県出身。懐かしさと新しさを兼ね備えた中毒性のある楽曲を、類い稀なる唄声で届けるシンガーソングライター。どこまでもポップなソロ活動、ニューウェーヴな歌謡曲を奏でる「プラグラムハッチ」、 昭和歌謡曲のカバーバンド「ニュー昭和万博」など幅広く活動。
好きなものは、昭和歌謡、特撮、温泉、うどん、ポメラニアン。