有名女優に放った一言

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「報道部畑中デスクの独り言」(第91回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、20年前の記者会見について解説する。

有名女優に放った一言

記者会見の発言は時に世の中を大きく動かすこともある(気象庁の会見場に置かれたニッポン放送のマイク)

先月、女優・三田佳子さんの次男・高橋祐也容疑者が、覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕されました(その後、起訴されて被告に。現在保釈中)。
祐也被告はこれまでにも覚せい剤使用などで逮捕されて実刑判決を受けており、今回が4回目の逮捕となります。三田さんは「親としてはもう力及ばずの心境」というコメントを寄せました。

祐也被告の最初の逮捕は1998年、当時は18歳、未成年でした。このときは三田さんが自ら記者会見を行うことになりました。私はこのころ警視庁担当記者をしていましたが、逮捕されたのが警視庁管内ということで会見場に向かいました。
現場は事件担当の記者だけではなく、ワイドショースタッフ、芸能レポーターも詰め掛けました。いや、最前列には芸能レポーターが陣取り、むしろ芸能色の強い会見と言っても過言ではありませんでした。私は例によって音声を収録するため、芸能レポーターから距離を置き、テレビカメラのひな壇に近い会見場後方の音声分配器の近くにいました。

質問は次男が覚せい剤を使用していたときの状況、普段の次男との接し方、自宅の部屋の構造などの細かな事項に集中していました。ワイドショーでは部屋の構造などをフリップなどで図解し、詳しく伝えるのでしょう。ただ、ラジオには絵=映像がありません。私はむしろ、有名女優ならではの心情を知りたいと思いました。

三田さんは当時、その役柄から、「理想の母親像」「日本のお母さん」的なキャラクターを持っていました。家族の絆の薄れるなか、子供の非行などで悩む母親が多いのではないか、そんな人たちへのメッセージはないのか、あるとすればそれがラジオとしての伝え方ではないか…。
開始から30分ほど経過し、そろそろ終わりそうな雰囲気を感じ取りながら、私はありったけの大声で叫ぶように質問しました。そうでもしないと並み居る芸能レポーターの質問に割って入れないからですが、レポーター陣は後ろを振り向き、怪訝な表情で私を見ていました。

「母親役を演じることの多い三田さんですが、母親として足らなかったことは? 世の中の母親に対して伝えることはありませんか?」…このような趣旨の質問をしたと記憶しています。

しかし、多くの質問に疲れていたのか、被害妄想なのか、あるいは本音なのか…三田さんはこのように答えました。

「少年という形で本来守られなければならない彼の将来やこれからの成長過程を、私が親ということでこういうふうに踏みにじられることは大変切ない思いでいます」

あれれ、そうじゃないんだけど…私の考えが青臭かったのかもしれません。ただ、同じ思いを持つ母親へ、こうしたことを起こさないために身をもってメッセージを発してほしい…私の思いは見事に打ち砕かれ、少なくとも私のなかでは彼女に対する“日本のお母さん”のイメージは崩れ去りました。

一方、その後の会見場は思わぬ展開になりました。聞くところによると、会見前には、次男が未成年ということで報道自粛の要請が代理人の弁護士からあり、当初からピリピリしていたという指摘もあります。ただ、やはり有名女優の会見、それまでは三田さんに配慮しているような雰囲気がありました。それががらりと変わり、レポーター陣から一斉にブーイングがあがったのです。
「自分が有名人だから、息子の不祥事も大きく取り上げられてしまうとでも言うのか」…私の質問をきっかけに、厳しい追及の場となり、結局時間切れのまま、会見は打ち切りとなりました。

後日発売されたある週刊誌には「報道陣が最も驚いたのは記者会見も終わりに近づいたときのことだ」として件のコメントが紹介され、三田さんへの批判記事が展開されていました。記者会見はやはり難しいものだと痛感します。どういう意図で三田さんがこのような回答をしたのかは知る由もありませんが、記者の質問の真意が必ずしも会見者に届かないこともあります。結果として私の質問は、会見をあらぬ方向に向かわせるきっかけになり、自分としては忸怩たる、後味の悪い会見でした。

終了後、日ごろ交流があった他社の警視庁担当記者が「いや、スカッとする質問だったよ」と話しかけてくれましたが、正直複雑な心境です。あれから何かが変わったのか、いや全く変わっていないのか…今回の祐也被告の4回目の逮捕を受けて、20年前の“あのとき”を思い出しました。(了)

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