話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、ドーム球場の天井を直撃する打球を放ったパワーヒッターたちのエピソードを取り上げる。
11日に東京ドームで行われた、日米野球第3戦。侍ジャパンにいきなり2連敗したMLBオールスターチームは、さすがに3連敗はできないと奮起。7対3で初白星を挙げ、メジャーの意地を見せましたが、ドームに詰めかけたファンの度肝を抜いたのが、先月20歳になったばかりの若きスラッガー、フアン・ソト(ナショナルズ)です。
10代でメジャーデビューし、いきなり22本のホームランを打った“怪物”ソトですが、4回、1死1・2塁のチャンスに、打った瞬間、誰もがホームランと思う特大の当たりをライト方向に放ちます。ところが……打球はなんとドームの天井に当たって、そのまま落下。ライトフェンスの手前にいた秋山(西武)に直接キャッチされ、東京ドーム特別ルールによって「アウト」となりました。
「打った瞬間、入ると思った。タンパと同じルールでホームラン、と思ったので残念だったね」
と試合後に語ったソト。「タンパ」というのは、タンパベイ・レイズの本拠地であるドーム球場、トロピカーナ・フィールドのことですが、天井直撃打の判定に関しては、球場によってルールに微妙な差があるため、混乱する人も多いようです。
ソトは開幕前に行われた巨人との試合でも、2塁後方の天井に当てるタイムリーヒットを打っているだけに、審判団に説明を求めるひと幕もありました。
日本のプロ野球では、NPBがドーム6球場に関して統一の「特別ルール」を作っており、それに則って判定が行われます。それによると、打球がプレイングフィールド上の天井に当たった場合は、そのままインプレーで、ボールが「落ちてきた地点」でフェアかファールかを判定する、とあります(ボールが当たった場所、ではないので注意)。
フェア地域に落ちればフェアですし、野手に直接捕球されればアウト。フェア地域の外野スタンドに落ちればホームランです。つまり、屋外球場で打球が鳥に当たったときと同じ扱いになるわけです。
では「打球が落ちて来なかった場合」はどうなるのでしょうか? フェア地域の天井の穴やスキ間に、ボールが挟まってしまったときです。……この場合、ボールデッドとなり、「それがフェア地域なら、打者、走者ともに2個の安全進塁権が与えられ、ファール地域ならファール」となります。めったに起こらないことですが、東京ドームでは過去2例ありました。
最初のケースは、2002年7月の巨人 対 横浜戦で、巨人・松井秀喜が打った打球。そして2例目は、2016年11月、侍ジャパンの強化試合・オランダ戦で、日本ハム・大谷翔平が打った打球です。どちらも「ボールが空中で消えた!」とスタンドが騒然としましたが、ドーム特別ルールに則り、両方とも「ツーベース」と判定。松井の打球も、大谷の打球も、のちに回収され、本人のサイン入りで現在、東京ドーム内の野球博物館に収められています。
奇しくも、松井も大谷もメジャーに移籍し、伝説を残しましたが、2人は移籍前からすでにパワーはメジャー級だった、というわけです。
ちなみに、東京ドームの天井直撃打と言うと、90年6月に近鉄のラルフ・ブライアントが打った「天井スピーカー直撃・認定ホームラン」も伝説の一打になっていますが、あれは「フェアゾーンにある懸垂物に当たったらホームラン」という東京ドーム特別ルールに基づくもの。2016年にスピーカーが撤去されたため、この特別ルールはなくなりました。
日米野球、第4戦はマツダスタジアムですが、第5戦・6戦はナゴヤドーム開催。そこでソトの「3度目の天井打」が見られるのか? 注目しましょう。