好調なヤクルトと楽天 大胆なスクイズを選択する理由
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、4月のプロ野球から「スクイズ」にまつわるエピソードを取り上げる。
「完全に自分の失敗。チームに申し訳ない気持ちでいっぱいです」(ヤクルト・廣岡)
4月17日に神宮球場で行われた、ヤクルト-阪神戦。試合は阪神が4番・大山の2ランで先制。しかし、好調の首位・ヤクルトは、8回にバレンティンが2点タイムリーを放って追い付き、同点のまま、9回ウラ、1死3塁と、サヨナラのチャンスを作ります。
バッターは途中から出場した、4年目の若手・廣岡。今年はブレイクを期待されながら、開幕から12試合ノーヒットと結果が出ていませんでした。犠飛でもサヨナラの場面でしたが、廣岡はカウント2-2と追い込まれ、ここでヤクルト・小川監督が採った作戦は……何と「スリーバントスクイズ」。ピッチャーが投げると同時に、3塁走者の村上が猛然とスタートを切って本塁へ突入しました。
高校野球ではよくある作戦ですが、プロでは非常に珍しく、阪神バッテリーも完全に無警戒。ところが、ジョンソンが投じた球は、外角低めに落ちるスライダーでした。廣岡はバットに当てることができず、突っ込んだ村上は本塁目前で挟まれ、タッチアウト。三振ゲッツーで、延長戦に突入となったのです。
試合は結局、延長12回の末、引き分けとなりましたが、追い付いてからはヤクルトに勝機が多かった試合。ヤクルトファンの間では「なぜ、あそこでスクイズ?」という声も挙がりましたが、小川監督は「そういう選択をした」と、失敗した廣岡を責めませんでした。
阪神バッテリーはスクイズを見破れず、ボールを外しに行かなかったので、廣岡が何とかバットに当て、前に転がしていればサヨナラだったのです。そう考えると作戦自体は間違いではなく、むしろスクイズを敢行したことで「ヤクルトは何をやって来るか分からないぞ」と思わせることに意味がある……そんな策士・小川監督の意図も見えて来ます。
実は小川監督、2018年のオープン戦から廣岡には何度かスクイズを命じており、成功させたこともあるのです。廣岡にとってもいい教訓になったでしょうし、こういったところに「育てて勝つ」ヤクルトの強さがあるような気がします。
スクイズを成功させるには「相手の裏をかく」ことが重要ですが、先日もスクイズをめぐる印象的なシーンがありました。
12日に行われた、パ・リーグ首位決戦・楽天−ソフトバンク戦(楽天生命パーク)。2-2の同点で迎えた8回ウラ、1死3塁のチャンスを迎えた楽天は、9番・オコエに代えて、チーム屈指のバントの名手・渡辺直を代打に送ります。
ソフトバンクバッテリー(モイネロ−甲斐)は当然、スクイズを警戒。ところが楽天・平石監督が出した指示は「自由に打っていい」。指揮官と同い年のベテラン・渡辺直は、試合後にこう語りました。
「スクイズは頭になかった。9割5分、打って返すつもりだった」
しかし当然ですが、ソフトバンクバッテリーはスクイズを警戒します。モイネロは「いつ仕掛けて来るんだ?」という重圧に耐えきれず、渡辺に死球を与えてしまいます。すかさず平石監督は、足の速い橋本を代走に送ってさらにプレッシャーをかけ、甲斐のパスボールを誘って勝ち越し。
なおも1死3塁となった場面で、1番・田中和基に平石監督は耳打ちします。「スクイズで行くぞ」。カウント2ボールになったところで、3塁走者・橋本がスタート。田中はみごとスクイズを決め、4-2で楽天が勝利。首位を守ったのです。
「整いましたね、状況が。(タイミングを)探っていたんですけど、いい流れがきた。ひるんでもしょうがない。(田中)和基を信頼して出した」
バントの名手を「おとり」に使い、その後の若手にスクイズを敢行させた「2段構え作戦」がまんまと当たり、してやったりの平石監督。則本・岸の両エースを故障で欠きながら単独首位にいるのは、こういった大胆な采配もあってのことなのです。
開幕前の予想を覆して首位にいる、ヤクルトと楽天(4/17現在)。こういう思いきった采配が振るえるのも、選手の能力をよく見極め、信頼しているからこそ。今後も両監督の采配に注目です。
※ 『ニッポン放送ショウアップナイター』
4月18日(木)は神宮球場からヤクルト-阪神戦を、解説・江本孟紀、実況・山田透アナウンサーで、午後5時40分から実況生中継でお送りする。