巨人・高橋 高校時代に無念の涙を流した神宮でリベンジ
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。本日は、4月24日のヤクルト戦で投打に活躍、2勝目を挙げた巨人のドラフト1位ルーキー・高橋優貴投手のエピソードを取り上げる。
「とりあえず、来たボールを無我夢中で振りました。『なんとか当たってくれ!』と」
4月24日、神宮球場で行われたヤクルト-巨人戦。前日まで4連勝、快調に首位を行く巨人の先発は、今季3度目のマウンドに立った高橋でした。
そのルーキー離れした“強心臓ぶり”については当欄でも何度か取り上げましたが、2位・ヤクルトとの大事な首位攻防3連戦、勝ち越しが懸かるゲームを託されたのは、首脳陣の「高橋なら物怖じせず投げてくれる」という期待の表れでもあります。
初登板の阪神戦(4日)は、6回を投げ4安打1失点で、プロ初勝利。2度目の先発となった広島戦(17日)は、勝敗は付きませんでしたが、5回1/3を投げ2安打1失点と、しっかり試合を作っている高橋。今回も、強力ヤクルト打線を向こうに回して、堂々のピッチングを披露しました。
勝ち投手の権利が懸かる5回には、1死1・ 2塁のピンチを迎えましたが、バレンティンを三振、雄平を三塁ファールフライに打ち取ったあたりは、さすが強心臓ルーキー。5回を5安打無失点。無傷の2勝目を挙げました。
しかも今回、先制点を叩き出したのは、何と高橋自身でした。2回1死2、3塁のチャンスで、プロ初ヒットとなる内野安打を放ち、これが先制の2点タイムリーに。これが続く1番・坂本勇の6号3ランを呼び、勝利に大きく貢献したのです。
「1点あげてもいい、という気持ちでマウンドに上がれたので、気持ちの余裕ができました」
自身のバットで気持ちを楽にし、チームを5連勝に導いた高橋。八戸学院大時代は、リーグ戦がDH制を採用していたため打席に立つことはなく、試合でヒットを打ったのは、東海大菅生高のとき以来。その試合とは、2014年、夏の甲子園出場を懸けた西東京大会準決勝・日大三高戦です。
その試合に勝って、日大鶴ヶ丘高との決勝戦に駒を進めた東海大菅生。勝てば甲子園行きが決まる大事なゲーム。3年生だった高橋は、2番手で神宮球場のマウンドに上がりましたが、9回2死からサヨナラヒットを浴び、無念の涙を流しました。
高校時代、ついに叶わなかった甲子園行きの夢……。前週、阪神3連戦の遠征に帯同し、憧れの甲子園の土を踏んだ際に、5年前の記憶が甦って来たそうです。くしくも、次に立つマウンドは神宮。これ以上のリベンジの機会はありません。
とは言え、あまり私情を持ち込んではつい力が入り、ピッチングが乱れるのも高橋はしっかり分かっています。
「炭谷さんの考えたリード通りに投げられたので、抑えられたのかなと思います」
と、常に先輩を立てるのも高橋らしいところ。ルーキーが首位攻防のマウンドを託されて、緊張しないわけがないのですが、「試合中はムダなことは考えず、とにかく腕を振る」。大舞台でも、冷静にやるべきことができる秘密は何なのでしょうか?
実は、大学時代に経験した「教育実習」も、絶好のメンタルトレーニングになっていたのです。もともと教員志望の高橋。大勢の生徒の前で授業をしたことで、図太い精神力はさらに鍛えられました。在学中に晴れて教員免許を取得しましたが、プロに進んだいまも、将来教壇に立つ夢は捨てていません。
「いつか現役でプレーできなくなるときが来るので、その先のことも考えて……」
これは高校時代の恩師である、若林弘泰監督の影響も大きいそうです。若林監督は、元・中日ドラゴンズの投手で、引退後に社会科の教員免許を取得。現在も教壇に立っています。
自分も高校で教えながら、野球部の監督になって、部員たちを自分が行けなかった甲子園に連れて行ってあげたい……もちろんいまは、プロで活躍することを第一に考えていますが、未来設計も他のルーキーたちとはひと味違う高橋。今後、どんな活躍を見せてくれるのか、引き続き当欄は注目して行きたいと思います。