米中貿易協議~トランプ大統領の本音は「なんとかまとめたい」
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月10日放送)に外交評論家でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。5月9日に米中閣僚級協議が再開した報道を受け、激化する貿易戦争の行方について解説した。
米中閣僚級協議を再開へ
アメリカと中国の両政府は5月9日、閣僚級の協議をワシントンで再開した。アメリカ通商代表部(USTR)によると、アメリカ東部時間10日午前0時1分(日本時間の10日午後1時1分)に、年間輸入総額2,000億ドル、日本円にしておよそ22兆円規模の中国製品に課している関税率を、現在の10%から25%に引き上げる方針である。関税の引き上げ期限が迫るなか、貿易戦争の激化が回避できるか注目される。
飯田)トランプ大統領は「強烈な1日になる」と記者団に答えているようです。北朝鮮の話で宮家さんが「アメリカはそれどころではない」とおっしゃいましたが、そのそれどころではないという部分ですね。
宮家)中国の部分もありますね、イランもありますけれど。最近アメリカからの報道で、交渉の内容が少しずつ漏れ始めています。漏れて来るということは、状況が良くない証拠です。
飯田)そういうことなのですか。
宮家)「けしからん」と言って意図的に出すこともあります。そもそも上手く行っているのであれば、双方とも黙っていますよ。今回はロイターがかなりはっきり報じています。それによると、150ページの合意文書があるのだそうです。
飯田)そんなに分厚いのですか。
合意文章を公表すると言う米と公表はあり得ない中国
宮家)7章くらいあって、事細かに書いてあるらしい。米国の貿易専門弁護士を総動員して作っているのでしょう。しかし、問題点はたくさんあって、補助金の問題、技術移転、関税をいつやめるのか、罰則をどうするのかなどが詰まっていません。さらに米国は最終的に、この合意文書を検証のために全文公開すると言っています。しかし中国にとっては、そんなことをされたら困るわけです。そこには「中国の国内で関連の法律を改正して、厳しくやります」などと書いてあるからです。そんなものが外に出てしまったら、中国国内で習近平さんは「対米追従だ。何をやっているのだ」と言われかねない。私が習近平さんだったらそんなこと絶対にしたくないです。どうしてこんな問題が起きてしまったのか、トランプさんは簡単に言えば合意を「中国がぶっ壊したのだ」と言っています。しかし中国側が、国内的な法律改正措置を含めて、全体的なパッケージの一環として合意していたとはとても思えない。
構造的に合意は難しい~トランプ大統領の本音は「なんとかまとめたい」
宮家)普通合意文書案が150ページもあったら、例えば1つの問題で対立があれば、アメリカ案ではこうだが中国案ではこうだと書いておく。ブラケットと言うのだけれど、かっこ内に入れてA案とB案を併記するのですが、それが150ページもあれば何十箇所もあるわけですよ。その多数のかっこ付の合意文書案がある程度でき上がったところで、何らかの形で中国側は、「米側が中国側のこの要求を受け入れるなら、中国側も米側要求のこれを入れても良いよ」などと対応する。しかし、例えば、中国はまさか米国が全文を公表するなどと言い出すとは思わなかったとします。そうなれば、パッケージ全体のバランスのなかで積み上げてきたものですが、中国はそれは受け入れられないと言い出したのではないか。そうしたら今度はトランプさんが激怒して、関税は25%だと言っている、という構図ではないかと思うのですよ。
だから、私はアメリカが言うとおり「中国がぶっ壊した」とは思わないけれども、恐らく今のままでは構造的に合意するのが難しいだろうと思いますね。
あと数時間で10%が25%になってしまうわけでしょう。そうしたら、世界経済に対する影響はものすごく大きいだろうから、瀬戸際で、最後の最後に習近平さんと電話をしてでも「なんとかまとめたい」ということが米国の本音だと思いますよ。しかし中国は抵抗するでしょうから米国にとって完全な合意は絶対にできない。せめて中国が将来こういう方向に動くだろう、という前兆が見えるような形のものぐらい取らないと、ダメだろうと思います。
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