ゴーン被告、待っていたのは獄中死~逃亡の理由を佐藤優が解説

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(1月16日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。ゴーン被告逃亡の理由と手段について解説した。

ゴーン被告、待っていたのは獄中死~逃亡の理由を佐藤優が解説

カルロス・ゴーン被告と妻のキャロル・ナハス =2020(令和2)年1月14日、ベイルート(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

弘中弁護士ら、ゴーン被告の弁護人を辞任

日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告が海外逃亡した事件に絡んで、ゴーン被告の弁護団のうち弘中淳一郎弁護士と高野隆弁護士が弁護人を辞任したことが16日わかった。弘中弁護士は「東京地裁に対し、カルロス・ゴーン氏のすべての事件について、弁護士法人法律事務所ヒロナカに所属する弁護士全員の辞任届を提出した。本件に関し、記者会見は行わない」とするコメントを出している。

森田耕次解説委員)ゴーン被告の公判前整理手続きが16日に東京地裁で開かれ、東京地裁はゴーン被告と金融商品取引法違反の罪で同じく起訴された元代表取締役、グレゴリー・ケリー被告や法人との日産との裁判を分離する決定をしました。ゴーン被告が日本に戻る見通しがないということで、裁判は切り離すということです。一方で、ゴーン被告の弁護団のうち、弘中淳一郎弁護士や高野隆弁護士らが地裁に弁護人の辞任届を出しました。主任の河津博史弁護士ら3人は引き続き弁護士を務めるということです。地裁はグレゴリー・ケリー被告らの初公判については4月に開く方向で調整しているということです。ケリー被告は無罪を主張して、日産関係者らが証人として多数出廷する裁判になると見られています。ケリー被告はウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じておりまして、ゴーン被告の逃亡を受けて「主要な証人がいなくなり、公正な裁判を受けられるかわからない」と心境を語ったということで、ゴーン被告逃亡で自分の裁判に悪い影響が出るのではないかと心配しているようです。

ゴーン被告、待っていたのは獄中死~逃亡の理由を佐藤優が解説

会見する特別背任などの罪で起訴された日産の前会長ゴーン被告の弁護人、弘中惇一郎弁護士=2019年3月4日午後、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

ゴーン被告が逃亡した理由~有罪になれば獄中死

佐藤)ゴーンさんからすれば、逃げるのは当然です。逃げるのがいいと言っているのではありません。今回、もし金融商品取引法違反だけだったら、彼は罰金刑かどんなに重くても執行猶予なのです。そしたらまた普通に生活できるわけですよね。ところが、背任が2つも付いています。会社法の背任は特別背任だから、最高刑は10年です。10年のものが2つ付くとどうなるかというと、最高刑が15年になるのです。そして、4つで起訴するということは、絶対に実刑にするという強い意志があるのです。これは、私の相場観だと12年を求刑すると思うのです。あまり裁判官は言いたがらないのですが、裁判所には不文律があって、「出世するためには検察官コースを受けないこと」というものがあるのですよ。だいたい求刑の7割以下になると、検察官は控訴してくるのですね。そうしたら、懲役がだいたい見えてくるのです。8年です。ゴーンさんの裁判は5年かかると言っていまして、私も特捜事件を経験しているからよくわかるのですが、この裁判は10年かかると思います。

森田)裁判に10年。

佐藤)その後8年ですから、ゴーンさんはいま65歳でしょう。刑務所から出てくるときには83歳なのです。刑務所の医療環境はものすごくいいとは言えないですから、たぶん獄中死するのですよ。それと、日本から密出国した場合、刑期は1年しか増えないのです。これは、商売人の感覚からしたら、大変お買い得と言っていいでしょう。獄中死か、もしバレたとしても1年。しかも、15億円の保釈金を没収になります。逃げるために新聞報道だと22億円というので、37億円。しかし、ゴーンさんが手記を書いたら印税がいくらくるでしょうか。それから、映画化したら。

森田)映画化の話も言われていますよね。

佐藤)昔あった『パピヨン』並みですよ。そうすると、恐らく数100億円は儲かります。ビジネスにもなるし、自由の身も確保できるし。やるに決まっています。でも、弘中さんはそんなことはしないものだと思って引き受けたのでしょう。彼としては言いたいことがたくさんあると思います。しかし、弁護人としては引き受けた以上、依頼人の利益のために動きます。今回の辞任は「この人の利益のためにはもはや動けません」ということですよね。弁護士をも手玉に取ったという。ゴーンは桁違いの人間であるという話ですね。

森田)裁判所は検察に控訴させないようにということで、だいたい8年くらいの実刑になるといった計算もゴーン被告はしていて。

佐藤)頭がいいのですよ。

ゴーン被告、待っていたのは獄中死~逃亡の理由を佐藤優が解説

【ゴーン被告保釈】弁護士事務所を出るカルロス・ゴーン被告=2019年3月6日午後、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

ゴーン被告の監視はなぜ外れたか~逃亡に協力したプロ集団

森田)逃亡の危険性については、佐藤さんは以前からおっしゃっていましたね。

佐藤)私は逃げると思っていました。今回、なぜゴーンを検察が監視していなかったのか。報道ベースだと、12月に監視を解いたと書いてあります。なぜだと思いますか? これはIRの事件と関係しているのだと思います。警察が捕まえたなら、江ノ島で猫にデータを預けていた男が「無罪だ」と争っていて、1回保釈が認められました。だけど、警察はずっと追いかけて穴のなかに発信機を埋めているのを抑えています。

森田)防犯カメラで。

佐藤)ところが、検察が捕まえたから警察は全然見ていないのですよ。検察はマンパワーが少ないのです。IRで秋元議員を捕まえたら応援などで人が足りません。それで監視をやめてしまったと思うのです。日産自動車はさもありなんと思っているから自分たちで監視もつけていました。ところが、これは警察を辞めたプロの尾行の専門家だから、10人くらいで尾行されても絶対にわかりません。それに気が付くということは、ゴーンさんはそれに気が付くだけのチームを持っているということですよ。そして弘中さんたちに「人権侵害だろう」と訴えます。弘中さんたちも納得して尾行が解除されたその日に逃げてしまうわけです。ということは、国家を超えるような横のネットワークがあるということです。いま、新聞報道では元グリーンベレーという話が出ているでしょう。あんなものは見せかけです。あのグリーンベレーの人には前歴があります。前歴があって顔写真を撮られている人は、このオペレーションでは使えません。これは、見せるための役です。それから、トルコのチャーター便の人が捕まりました。

森田)あれも誰から指示が来たのかわからないまま捕まっていたのですね。

日本は情報戦で戦うべきではない

佐藤)「とある物を運ぶだけでお金になる」といった程度の話です。これは地面師の世界です。何かあったときにアドホックでプロジェクトチームができる、こういうネットワークをもともとゴーンさんは持っているということですよ。これは相当恐ろしい話です。地面師から話を考えるとわかりやすいです。いま、日本政府は情報戦で追い込まれているでしょう。これはあまり情報戦に乗らずに、静かにしておいた方がいいです。なぜかというと、捕まったときにはアンケートや検査があって、入れ墨、指詰め、玉入れ。シリコンの玉がいくつ入っているかなどの検査をしているのは本当のことでしょう。そういう話をすればするほど、日本はやばい国だということになりますから、都合の悪い話は黙っているというのも情報戦なのです。

森田)司法制度批判については黙っていた方がいいと。

佐藤)日本は厳正な手続きをしていると言うくらいで、記者会見で聞かれたくない最低な話をすると、風呂へ行くときには希望すればシャツが着られるとか。希望しなければパンツ1枚で数10メートル歩かされると言うと、ヨーロッパ人はびっくりするのです。

森田)佐藤さんは実際にそれを経験していますからね。

佐藤)黙っていた方がいいのですよ。

番組情報

ザ・フォーカス

火曜〜木曜 18:00-21:20

番組HP

錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。

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