元気だったか?「はやぶさ2」の現況
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「報道部畑中デスクの独り言」(第195回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、探査機「はやぶさ2」の現在の状況について---
「よっ、はや2君、元気だったか?」
思わずこうつぶやきたくなるような記者会見が開かれました。小惑星「リュウグウ」での探査を終え、地球に向かっている探査機「はやぶさ2」の現在の状況について、JAXA=宇宙航空研究開発機構の担当者が6月11日に説明しました。
普段は神奈川県の相模原キャンパスや東京事務所で行われますが、昨今の状況に漏れず、新型コロナウイルスの影響で、オンラインによる会見となりました。
昨年(2019年)11月13日に小惑星を出発した探査機「はやぶさ2」。運用そのものは計画通りに進んでいるということです。現在、探査機と小惑星とは264万kmの距離にあります。
すっかり遠く離れてしまった印象ですが、探査機と地球との距離は直線で1億3000万km、太陽との距離は2億1000万kmあります。太陽系のスケールで見ると、「まだリュウグウと一緒に地球に戻って来るというような雰囲気」(JAXA・吉川真准教授)という状況です。
ただ、これまでの総飛行距離は48億6000万kmで、残りは3億8000万km、予定の9割を超えるフライトを終えました。動力源のイオンエンジンは第1期、第2期と分けて噴射を変え、最終的に地球最接近距離1万km以下の軌道に乗せるべく調整しています。
5月には第2期のエンジンが運転を開始。9月いっぱいまでに、イオンエンジンはすべての運転工程を終了する予定です。これが終わるといよいよラストスパートですが、確実にカプセルが地球に帰還するための精密な調整は、ギリギリまで続きます。
小惑星の成分についての“手がかり”も得られました。ONCと呼ばれる光学航法カメラによる観測で、小惑星の炭素含有量は2%以上であることがわかりました。JAXAによると、隕石のなかでも最も高い部類に入る数字で、採取した粒子に有機物が含まれていることが期待されるものです。生物の起源となるヒントが隠されているのか、ワクワクする結果と言えましょう。
以前からお伝えしていますが、カプセルを地球に投下した後、別の天体に向かう「第二の旅」についても気になるところです。こちらは詳しい検討を始めているものの、いまだ決定はしていません。
吉川准教授によると、カプセル投下後、探査機は地球の軌道の内側に入る…つまり太陽に近づくために高温になることが予想されるので、熱制御ができるかどうか慎重に検討しているということです。
一方、今回心配されたのが、やはり新型コロナウイルスの影響です。はやぶさ2本体は地球のはるか遠くのため影響はないものの、それを制御する地球上の人間にとっては“大問題”。吉川准教授は「いちばん気を使っているのは管制室」と語ります。
管制室はまさに心臓部。ラジオ局では放送現場に相当するところです。入室する人数を減らし、「島」と呼ばれる各パートも担当者1人に限定、リモートによる業務も展開しているということです。
帰還予定地であるオーストラリア南部ウーメラについても、当局の間でオンラインやメールなどで「リモート交渉」を行っているということです。現状では「少し進捗が遅れている感じがするが、年末の回収に影響はない」としています。
さらに気になるのはカプセルの回収作業、カプセルの帰還は今年(2020年)暮れになりますが、オーストラリアは南半球。今後、感染拡大が懸念されるなか、回収する時期にどうなっているのかは誰にもわかりません。回収は基本、JAXAが担当しますが、今後の状況によっては回収スタッフのみ入国する、最小限の対応をとる可能性があるということです。
新型コロナウイルスの影響で、地球上の我々は依然「3密」を避ける生活を強いられています。これに対し、はやぶさ2と地球との距離は1億km以上。「ソーシャル・ディスタンス」どころではない遠さですが、「ようやくここまで来た。あと少し、頼むぞ!」と肩をポンとたたきたくなるような気分です。(了)