無人補給機「こうのとり」“ラストフライト”
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「報道部畑中デスクの独り言」(第191回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、無人補給機「こうのとり」9号機のラストフライトについて---
ISS=国際宇宙ステーションに物資を届ける日本の無人補給機「こうのとり」9号機が5月21日午前2時31分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、打ち上げは成功しました。
こうのとり、おさらいをしますと全長10m、直径4.4m…観光バスが1台丸ごとすっぽり収まるぐらいの大きさ。補給品を除く機体の質量は約10.5トン。初号機当時の関係者は「人こそ積まないものの、メカニズムはスペースシャトル並みに大掛かりで複雑」と話していました。
今回は宇宙飛行士の食料などの物資の他、日本製のリチウムイオン電池を使ったバッテリーも運んでいます。このバッテリーにより、ISSは運用が延長された2024年まで運用が可能だということです。まさにISSの「生命線」というわけです。この他、日本の実験棟「きぼう」をスタジオに見立て、双方向のライブ配信ができる機材も積まれています。
しかし、今回のトピックは何といっても、こうのとりとしてのフライトが今回で最後ということです。また、“二人三脚”で宇宙へ誘ったH2Bロケットも、今回が最後になります。
私は2009年の初号機から取材を続けて来ましたが、思えばこうのとりは日本の宇宙開発技術を一段上のステージに押し上げる役目を担ったと思います。
当時、私が書いたコラムを振り返ってみます。懐かしい思い出です。
「国際宇宙ステーションに食料や実験装置などの物資を送り届ける。しかし、物資輸送の役目を終えると、『帰り』は使わなくなった衣服など『不要品』を積んで大気圏に再突入、燃え尽きて南太平洋に漂着という…少しはかない結末となる。しかし『はかない』という字は『人の夢』と書く。『宇宙への夢』を載せた打ち上げとも言える」
やや「クサイ」ですが、補給機には大きな期待をしていました。初号機では「ランデブーキャプチャー方式」、秒速約8キロのなかをロボットアームで補給船をつかむという日本独自の技術に挑戦。当初は「そんなことができるわけがない」と周囲からはバカにされていたそうですが、いまやアメリカの民間補給船にも採用されています。
「日本はいよいよ民主党政権が始まる。(中略)将来の先行投資、そしてカネでは買えない『夢とロマン』を持つ宇宙開発、このバランスをどのように取っていくか? こんな視点でも鳩山政権には注目していきたいと思っている」
政界は奇しくも政権交代“前夜”でした(初号機の打ち上げは2009年9月11日、鳩山内閣発足は9月16日)。こうしてみると、なるほど時の流れを感じます。
2018年に打ち上げられた7号機では、実験サンプルが封入されたカプセルが日本の南鳥島沖に無事着水、帰還しました。ハイライトとなったのは魔法瓶の技術を活用した断熱容器、記憶に新しいところです。ISSから離脱した後は、燃え尽きるいわば「片道切符」の機能から一歩踏み出した快挙でした。もちろん今後の有人活動技術につながることが期待されます。
関連記事:「宇宙からのサンプル回収 有人宇宙開発技術への大きな一歩に」
「人は無理だがロボットは載せられる。将来的にはこのHTVを足がかりに、ロボットによる月面探査も視野に入れているという」(HTVは「こうのとり」命名前の名称)
11年前の私のコラムの一言です。今後は後継機「HTV-X」がその役割を担います。初号機は2021年度に打ち上げの予定。物資輸送能力が45%増強される他、ISSにいられる期間がこうのとりの最長45日間から、最長6ヵ月に大幅に延長されます。そしてISSに代わる月周回ステーション「ゲートウェイ」への物資輸送も視野に入れます。
今回のこうのとり9号機ではHTV-Xが将来、ゲートウェイに自動でドッキングする際に必要となる実証実験が行われる予定です。搭載されたカメラで、近づいたり遠ざかったりするISSの様子を撮影し、ワイヤレスLANの通信装置を使ってISSにその動画をリアルタイムで伝送するというものです。最後にふさわしく、未来につながる重要な任務を担います。
なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、周辺の打ち上げ見学場は今回、すべて閉鎖されました。パブリックビューイングも中止。最後の打ち上げですが、やや寂しいフライトとなりました。
宇宙センターのある種子島の外から入島した関係者については外出自粛、出張前14日の検温結果確認、加えて島内に住む方々についても島外への私的移動の自粛を要請するなど、打ち上げ作業には慎重に慎重を期しました。
裏を返せば、地球上がコロナウイルスの猛威にありながらも、ISSで過ごす宇宙飛行士、そして宇宙へのあくなき探求に休みはないということになります。(了)