宇宙への補給物資にも日本流「お・も・て・な・し」の精神が
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「報道部畑中デスクの独り言」(第159回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、日本の補給機「こうのとり8号機」の話題について---
国際宇宙ステーションに物資を届ける日本の補給機「こうのとり8号機」が11月3日午前、大気圏に再突入し、今回の任務を終えました。
昨年(2018年)の7号機では、実験サンプルが入ったカプセルの回収に成功したことが感動を呼びましたが、今回の打ち上げでは、「スタートラッカ」と呼ばれる姿勢制御装置が搭載されたのが新しいところでした。
「(補給物資の)荷姿も良好で、成功と言っていい」
JAXA=宇宙航空研究開発機構の東京事務所では、5日に記者会見が開かれ、長浜謙太フライトディレクタは新しい姿勢制御装置をこのように分析しました。
こうのとりからは実験サンプル、超小型衛星の他、生鮮食品などが運ばれました。この生鮮食品、宇宙飛行士には好評だそうで、今回は岡山県産のぶどう「シャインマスカット」や「オーロラブラック」、佐賀県産、愛媛県産の温州みかんが届けられ、宇宙ステーションから送られた画像には、みずみずしい食感を楽しむ宇宙飛行士の姿がありました。
そして、なかでも人気だったのは意外にもこんな食材でした。それは…玉ねぎ。
今回運ばれたのは北海道産の玉ねぎで、ナイフでスライスして生で食すのだそうです。玉ねぎを生で食べるのは地上でもあまりないことですが、宇宙食の“単調な”食生活のなか、シャキシャキとしてハッキリした刺激が好まれるのではないかというのが、関係者の分析です。
加えて、玉ねぎがいちばん“土の香り”がすることから、宇宙ステーションでは貴重な食べ物と認識されているということです。
また輸送において、日本ならではの配慮も人気の秘密のようです。物資はかなり前から補給機に積まれますが、限られたスペースのなかで少しでも多くの物資を積むため、そのレイアウトにも緻密さが要求されます。それは高度な引っ越し業者のよう。
しかし、そのなかで少しでも鮮度が要求されるものは、直前ギリギリに積載されます。これは「レイトアクセス」というサービス。生鮮食品はまずこれを使って行きます。さらに新鮮な状態で送り届けるため、農学の専門家とも協議した上で、除菌処理や梱包などにも、さまざまな工夫が施されます。
驚いたのはぶどう。ひと粒ひと粒が個別に梱包されます。さらに粒は枝の部分をわずかに残して、1つ1つはさみで切るのだそう(画像を見ると、枝がわずかに残っているのがわかると思います)。余分な枝をとって無駄なスペースをなくす一方、果汁が漏れて鮮度が落ちないようにするギリギリの工夫です。
他国の補給機ではまとめてプラスチックバッグに入れられ、宇宙ステーションに到着するころには果肉がつぶれて“ジュース”になっているケースもあるのだそうです。
こうしてみると、食品の輸送ひとつとっても、日本ならではのきめ細かい工夫が詰まっていました。宇宙飛行士に少しでもおいしく食べてもらおうという気持ち…ここにも日本の「お・も・て・な・し」の精神が宿っていると感じます。
今回の8号機は、打ち上げ直前に発射台で火災が発生し、スケジュールが延期されました。新しい機器搭載による設定の苦労もあったようで、昨年のカプセル回収に成功したときに思わず涙した植松洋彦技術センター長は、「宇宙開発の難しさを改めて感じた。9号機に向けてもう1回、手綱を締めてやって行きたい」と今回の任務を終え、気を引き締めていました。
こうのとりは来年度(2020年)の9号機が最後で、以降は2021年度の打ち上げを目標とする次世代機「HTV-X」に引き継がれます。次世代機は、将来、月の周辺を回る有人拠点への物資補給も目指すということです。(了)