完璧すぎるほど完璧! はやぶさ2、主要な任務を終える
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「報道部畑中デスクの独り言」(第140回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、小惑星「リュウグウ」への2回目の着陸について解説する。
悩みぬいて決断した探査機「はやぶさ2」の小惑星「リュウグウ」への2回目の着陸…7月11日午前、まさに成功裏に終わりました。
「太陽系の歴史のかけらを手に入れた」
午後2時の記者会見で計画責任者の津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 津田プロマネ)はかみしめるように成果を強調しました。
おなじみとなったJAXA=宇宙航空研究開発機構の相模原キャンパス。プレスルームに集まった記者はこの日、朝から大型モニターに映し出された管制室のもようを見守りました。その管制室、津田プロマネからは白い歯もこぼれ、1回目の着陸よりもリラックスしているように見えました。1回目を成功した経験と、準備をやるだけやってきたという自信からくるものでしょうか。
インターネットによる中継も進化していました。探査機がいまどこにあるかという位置をフリップで示したり、室内の奥に“レポーター”が入り、その様子を詳しく伝えていました。様々な意味で1回目の着陸の経験が生きていると感じました。
とは言え、いよいよ着陸の時刻、管制室にもプレスルームにも息をのむ時間が流れます。画面からは一方向を見つめるメンバーの姿を捉えていました。小欄でもお伝えした通り、探査機はある高さまではHGA(High Gain Antenna)と呼ばれる利得の高いメインのアンテナで多くの信号=情報を受信しますが、いよいよ着陸という時には、小惑星の地面に合わせるため姿勢を傾けます。それによってメインのアンテナは地球を向かず、ドップラーデータと呼ばれる情報のみになります。探査機も自律航行になり、あとはまさに「運を天に任せる」状態です。
「もうすぐ…もうすぐです。舞い降りてくれ!頼む…」
中継画面からは祈るような声が聞こえる中、「きました!」やがて、管制室からは“1回目の”大きな拍手が沸きました。ドップラーデータによる「周波数の変化=通常の機体の上昇」が午前10時20分(いずれも日本時間・地上時間)確認され、小惑星への着陸が確認されました。
その後、午前10時39分にはHGAが再び地球を向き、「テレメトリ」と呼ばれる遠隔操作によるデータ取得が復帰、10分ほどの検証で機体に異常がないことが確認され、津田プロマネから「成功宣言」、笑顔でVサインをするメンバーらの姿が画面いっぱいに映し出されました。
この間にあわせて3回の拍手がありましたが、記者も1回目の着陸で学習したのか、拍手が起きるたびに右往左往することはありませんでした。ほとんどの記者は席に座って冷静に状況を見つめ、成功宣言がされた時は拍手も起きました。
午後2時の正式な会見に先立ち、午前11時半ごろには久保田孝スポークスパーソンによる説明も行われ、小惑星から粒子を採取するために発射される弾丸についても、発射されたことを示す温度上昇が確認されました。情報提供も非常にテキパキしていたと感じます。
「100点満点で“1000点”言うことなし。パーフェクトだった」(津田プロマネ)
「完璧すぎるほど完璧」(久保田孝スポークスパーソン)
「地下の物質もあわせて持ち帰ることは、今後20年間ほかの国ではやれないことだろう」(名古屋大学・渡辺誠一郎教授)
メンバーから出たのは、まさにこれまでの緻密な検証が実を結んだコメントでした。
「チームワーク以外の何物でもない」
津田プロマネは会見で成功の秘訣をこう述べた上で、高い自己批判能力も理由の一つに挙げました。「本当に着陸したいのかと思うぐらい意地悪な状況を想定し、よく思いつくな」という声もあったことも。前回の小欄でお伝えしたように、「1回目成功したのだから無理をしなくても…」という声もありました。その中で一つ一つのネガをつぶしていったのでしょう。1回目の経験で自信をつけながらも、決して過信をしない謙虚な姿勢が今回の成功につながったと言えます。挑戦を心配していた宇宙科学研究所の國中均所長に対して津田プロマネは「ほら、大丈夫だったでしょう(と伝えたい)」といたずらっぽい笑いを見せました。
「大体流れがわかった」
記者からは着陸前にこんな声もありました。1回目の着陸は私ども記者にとっても初めての体験で、バタバタとヤキモキの1日でした。2回目の着陸は「何が起こるかわからない」ようなスリルや興奮には乏しかったというのが正直なところです。しかし、だからこそすごく価値のあることだと言えます。津田プロマネは「淡々と完璧に実行できる技術があることが証明された。そこに感動してもらえたら」と話していました。
これで、探査機の主要な任務はほぼ終了。今後は今年11月~12月の小惑星からの出発に向けた準備作業を進めます。残る数カ月、確実に地球に帰還できるよう、イオンエンジンの動作確認などを行っていきますが、上空からの観測・撮影も続けていくことのことです。そして、地球帰還は来年末、東京オリンピック・パラリンピックが終わった後になる予定です。「太陽系の歴史のかけら」…世界初となる小惑星の地中からの粒子採取にも成功したとみられます。「どっさり入ったはず」(佐伯孝尚プロジェクトエンジニア)と期待を寄せますが、実際に粒子を採取できたかは帰還したカプセルを開けてみてのお楽しみとなります。地球出発からの総距離約53億キロ…文字通り「地球に帰るまでが宇宙の旅」というわけです。
ちなみに「地球帰還」と申し上げましたが、実際に帰還するのは粒子の入ったカプセル。探査機「はやぶさ2」本体は大気圏で燃え尽きた初号機とは違い、カプセルを地球に「送り届けた」後、再び宇宙空間に向かう計画です。具体的にどこに向かうかは決まっていないそうですが、はやぶさ2にとってはまさに第二の“人生”を歩むことになります。
津田プロマネは「はやぶさ2はメンバーの仲間の1人。よくやってくれた」と探査機をねぎらい「“牙向いて”と言って申し訳ない。リュウグウも仲間だ」と小惑星にも一言。ラグビーで言うところの「ノーザイド」でしょうか。一方、「一番大きなヤマを越えた。一抹の寂しさもある」とも…大きな仕事を成し遂げた後の気持ちは誰もが理解できるところだと思います。(了)