「はやぶさ2」記者も驚いた画像 そして次のミッションは?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第117回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、探査機「はやぶさ2」より送られた驚きの画像と記者会見の模様について解説する。
「オオ―――ッ」
小惑星「リュウグウ」への着陸を果たした探査機「はやぶさ2」。先週、JAXA=宇宙航空研究開発機構で開かれた記者会見では、“続報”として着陸前後の動画が公開され、記者からもどよめきが起こりました。
探査機に設置されたカメラはサンプラーホーンと呼ばれる装置の伸縮、弾丸発射やスラスタ噴射によるとみられる土砂の飛散の様子を鮮明に捉え、無数の土砂が細かく舞っていました。
(記者もどよめいたはやぶさ2着陸前後の動画(着陸の瞬間は約1秒間隔で撮像 動画全体は5倍速:JAXA提供))
「素晴らしい映像が撮れた。本当にぞくぞくした」(津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 津田プロマネ))「成功を祝う紙吹雪のように舞っている」(科学分析を担当する渡邊誠一郎・名古屋大学大学院教授)…担当者たちは興奮の様子で語っていました。
渡邊教授によると、この現象だけでも小惑星の正体がいろいろわかるとのこと。例えば、紙吹雪のようなペラペラした形状であることから、表面が層構造になっている可能性がある、粒子の粘着力も分析できる余地がある、岩塊は火山の軽石のようなもろい「張りぼて」の状態であるかもしれない…など。「ワクワクしながら解析していく」と話しています。
また、着陸地点は「たまてばこ」と名付けられました。「通称」であり、正式名称ではありませんが、土砂が舞う様子が玉手箱からの煙のような雰囲気であったこと、「お宝」をとった場所であることからプロジェクトチームで決められました。「リュウグウ」という小惑星の名前も「竜宮城」にちなみます。メンバーは科学者でありながらロマンチストが多いようです。
一方、探査機に課されたミッション=任務はまだまだ残っています。会見ではその内容と大まかな日程も明らかにされました。
クライマックスはインパクタと呼ばれる衝突装置によって、小惑星に人工のクレーターをつくることです。2kgほどの銅の塊を小惑星の表面に衝突させます。装置には爆薬も仕込まれており、衝撃力によってクレーターをつくるわけです。
ただし、相当な衝撃になるので、その“とばっちり”を受けないよう、その間、探査機は安全な場所=小惑星の裏側に“避難”することが求められるという、これまた難易度の高いミッションになります。前回の着陸の際は「20㎞の高さから甲子園球場のマウンドに降りるようなもの」とその難しさを表現していましたが、記者会見で津田プロマネは今回のミッションをどう表現するか…そこまでは考えておらず、記者の質問に対し、「ぬかりました」と苦笑いを見せました。次回の会見の“宿題”ですが、相当難しい表現になりそうです。
全体のミッションとして最大3回を目指していた探査機の着陸も2回にとどまりそうです。「1回目の着陸でサンプルが十分に採れたとみられる」というのが前向きな理由ですが、やはり1回目の着陸が遅れたのが尾を引いた形です。7月になると小惑星と太陽が近づき、高温になることからそれまでに着陸を終えなくてはいけません。「技術者としてはできるだけやれることはやりたかった」…津田プロマネはやや悔しさをにじませていました。
クレーターができた後、探査機がそこに着陸して、地中の物質を採取することも期待されていますが、現状では、実際にクレーター付近に着陸できるかは微妙なようです。もし無理な着陸で探査機が帰還不能になれば元も子もありません。これもやはり小惑星が無数の岩に覆われた凸凹の地形であることが壁になっていると言えるでしょう。
また、前回の着陸でカメラなどの光学機器に感度の低下が認められています。微粒子が付着した可能性が考えられ、着陸に向けてより慎重な検討が必要になって来ます。
とは言え、クレーターから小惑星の地中の物質を採取できれば、これまた人類初の快挙となります。先日の着陸で採取されたと期待されるサンプルは太陽系の起源を知る手がかりになると言われます。これ自体も大変すごいことですが、星の表面は宇宙放射線や太陽の光の影響を受けて変質したり、風化していることも考えられます。地中の粒子はそうした影響が小さいとみられ、小惑星ができたときの“フレッシュな状態”をそのまま保っていると言えます。
そのフレッシュな粒子を手にすることができるのか…探査機「はやぶさ2」…限界への挑戦が続きます。
現状の予定では4月初旬にクレーターを作成、クレーターの様子を観測するなどして着陸候補を慎重に検討し、5月以降、探査機は2回目の着陸に挑むことになります。小惑星着陸の興奮もつかの間、次の厳しいミッションに向けて、担当者たちは淡々とした表情で気を引き締めていました。(了)