はやぶさ2小惑星着陸の快挙! 取材現場ヤキモキの舞台裏

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「報道部畑中デスクの独り言」(第114回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、ついに小惑星「りゅうぐう」への着陸に成功した探査機「はやぶさ2」について解説する。

はやぶさ2小惑星着陸の快挙! 取材現場ヤキモキの舞台裏

JAXA相模原キャンパス

歴史的瞬間…2019年2月22日午前7時29分(機体時間)、いよいよそのときがやって来ました。探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」への着陸に無事成功したのです。

前回の小欄でもお伝えしましたが、当初、探査機は昨年10月下旬に着陸が予定されていました。しかし、小惑星の表面が予想以上に岩だらけで平らな場所に乏しく、安全な着陸に慎重を期すため、プロジェクトチームでは様々な検討がなされました。結果、“的の広さ”はぐっと狭まり、半径3mほどの円を目指すことになりました。

当初これは「四畳半の部屋」と例えられましたが、JAXA=宇宙航空研究開発機構の津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 プロマネ)は、「上空20㎞…飛行機の飛ぶ高さの2倍ぐらいの所から、甲子園球場の“マウンド”に降りるようなもの」とその難しさを表現しました。

前日の降下開始は、位置情報のずれが見つかった影響で5時間あまり遅れることに。降下速度を2倍以上に早めることで着陸予定時刻に対応することになりました。修正を「突貫の作業」と語る担当者。まさに一筋縄ではいかず、何が起こるかわからない、緊張のなかでの“快挙”だったわけです。

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記者会見場には大型モニターと応援メッセージ

「本日、人類の手が新しい星に届きました」

神奈川県相模原市にあるJAXA相模原キャンパスの宇宙科学探査交流棟で、午前11時に行われた記者会見。津田プロマネはこのように第一声を発しました。
表情はやや硬く、それは快挙に高揚した気持ちを必死に抑えているようにも見えました。交流棟は一般の見学ゾーンもあり、会見場を一般のファンも取り囲み、大きな拍手が贈られました。

この日、私は前日からの泊まりのニュースデスクを早退し、記者会見場に向かいました。すでに10数台のTVカメラがその瞬間を待ち構えます。大型モニターには管制室の様子などが映し出されていました。

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記者会見場にはTVカメラ十数台 多くの報道陣が詰めかけた

時間がずれる可能性はあるとした上で、予定では午前8時25分(日本時間、探査機そのものの時刻はタイムラグの関係で、19分前の午前8時6分)、成功した場合は午前11時の記者会見をもって正式に発表するとアナウンスされていました。しかし、そこはメディアの“性”、着陸に成功したらいち早く伝えようと、ヤキモキのなか、取材に当たっていました。

「やったあ!」

午前7時50分ごろ、モニターに突如、管制室で関係者の拍手、歓声があがる画面が映し出されました。予定より30分近くも早い時刻、報道陣も不意を突かれた形で、「え? もう着陸したの!?」と会見場は騒然となりました。

管制室の拍手が沸いたのは、ドップラーデータで「周波数の変化=機体の上昇」が確認されたためでした。ドップラーとはまさに物理で習った「ドップラー効果」…サイレンの音が近づいて来るときと遠ざかるときには違うというあれです。これによって機体が小惑星に近づいているか、遠ざかっているか判断するわけです。

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記者会見で着陸成功を発表する津田プロマネ

小欄でもお伝えした通り、探査機は着陸すると「サンプラーホーン」と呼ばれる筒状の装置が縮んで弾丸が発射され、舞い上がった砂粒を採取、そして上昇する…この一連の動作がわずか数秒の間に行われます。さらに機体に不測の事態が発生した場合は「アボート」と呼ばれる緊急上昇が行われることになっています。ちなみに緊急上昇の場合は、機体の上昇速度は通常より早くなります。

着陸、装置の伸縮、弾丸発射、砂粒採取、機体上昇…これらを断定するには、それを示すデータなどを個々に確認する必要があるのです。
最初の拍手は「機体上昇」が確認されたことによるものでした。そして、その2~3分後には「ノミナル」…今回の機体上昇が緊急ではなく、通常のものであることが確認され、またまた拍手が起きました。

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温度変化のグラフを説明する津田プロマネ 弾丸発射が確認された

「ま、拍手のポイントはいくつかあるんですよ」
そう話す関係者。しかし、上昇の前段階である「着陸」はできたのか? 成功したのか? 弾丸が発射されたのか?…この時点では断定はできない…速報したいが正確を期したいメディア、「着陸成功」「着陸した」「着陸か」「着陸したとみられる」…? 表現をめぐってせめぎ合いが続きました。

そして、午前8時9分ごろ、画面からひときわと言うか、「確信」に満ちた管制室の大拍手が聞こえて来ました。「テレメトリ」と呼ばれる遠隔操作によるデータ取得が復帰したことを示すものでした。

探査機は着陸の際、小惑星の地形や岩の状況に合わせて姿勢を傾けるため、詳細データ取得に必要なアンテナが地球を向かず、この間は詳細情報が入りません。しかし、上昇してしばらくすればアンテナの向きも元に戻り、データ取得が可能になるのです。機体が正常に戻って来たことを示唆するものでした。

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はやぶさ2 着陸直後の画像(JAXA・東京大・高知大・立教大・名古屋大・千葉工大・明治大・会津大・産総研提供)

さあ、そうなるともうメディアは待てません。もともと午前11時の記者会見は、新聞の朝刊や昼のニュースに間に合わせるにはややきつい時間帯でしたが、要請の末、担当者がこれに先立ち「速報」という形で会見に応じることになりました。

「日本時間午前8時42分に、はぶやさ2探査機が正常であること、タッチダウンのシーケンス(一連の手順)がすべて正常に動作したことを確認しました。これをもってはやぶさ2は小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功した」

午前9時半過ぎ、スポークスパーソンを務める久保田孝教授がかみしめるように着陸成功を報告しました。「計画通りすべて順調に進んだ。全て完ぺきにこなした」と話す久保田さん。われわれ報道陣はヤキモキでしたが、担当者にとっては想定内でした。

一方、ミッションマネージャを務めた吉川真准教授は「ホッとした。タッチダウンの瞬間までが長かった」と感想を語りました。そして「はや2(はやぶさ2、「ハヤツー」と読む)くん、本当によくやってくれた。1人ぼっちでもきちんと複雑で正確なミッションをこなしてくれてありがとう」と、探査機に感謝の意を示していました。探査機は機械ではありますが、その動き、開発に携わった関係者の思いを考えると、人間のように接したい気持ちになります。

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プロジェクトメンバー”5人組”(左から吉川准教授、照井開発員、佐伯助教、津田プロマネ、久保田教授)

会見後は2人でがっちりと握手、晴れやかな表情で会見場をいったん後にしました。ただ、この段階で弾丸については発射の指令は確認されたものの、実際に発射されたかどうかは確認中でした。
そして、前述の午前11時の記者会見。津田、久保田、吉川の各氏のほか、プロジェクトエンジニアの佐伯孝尚助教、航法誘導制御を担当する照井冬人開発員も参加、プロジェクトを代表する“5人組”が顔を揃えました。

津田プロマネは冒頭のあいさつの後、1枚のグラフを披露。弾丸の周辺温度が着陸時に高くなったことを示すものでした。弾丸は火薬が使われているため、予定通りに発射されたことがこれをもって証明されたわけです。着陸、弾丸発射、上昇という一連の動作がすべて想定通りに行われたことが確認されました。

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記者会見場では一般のファンも見守った

2月6日の会見では「クールにやり切るように、チーム全体の“温度”を下げている状況だ」と心境を語った津田プロマネ。現在の状況を聞かれ、「タッチダウンを確認できたときはクールでなくなってしまった。降下開始の遅れもあり昨日はあまり眠れなかった」と、正直な心情を吐露しました。前日には降下開始が遅れたこともあり、「何か足りないんじゃないか」…皆でとんかつやチキンカツを食べに行ったエピソードも明かされました。

「コミュニケーション」…これが成功の一因であったことは“5人組”のメンバーも口を揃えます。「好き嫌いにかかわらず」…メンバーから口々にこのフレーズが出て場内は笑いに包まれました。意見が対立することもあったと言いますが、そこは着陸成功という目標に向けてメンバーが1つになっていた証なのでしょう。一般社会でも大切なことだと思います。

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はやぶさ2が上昇に転じたことを確認したころの管制室の様子(ISAS・JAXA提供)

なお、小惑星の砂粒=サンプルが採取できたかどうか…こればかりは“浦島太郎の玉手箱”のごとく、ふたを開けてみないとわからない…地球に帰還して初めて判明します。会見では着陸直後の“ホヤホヤ”の画像も公開され、「弾丸を正常に発射すれば相応のサンプルが入っているだろう」と津田プロマネは期待を寄せます。

約46億年前に生まれた太陽系の起源を知る手がかりになると言われるサンプルの採取。この後も最大2回の着陸を試み、帰還は来年2020年末、東京オリンピック・パラリンピックが終わったころになります。まさに「家に帰るまでが旅行」…地球にサンプルを持ち帰るまでが探査機の任務。「はやぶさ2」の宇宙の旅はまだまだ続きます。

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はやぶさ2プロジェクト関係者(ISAS・JAXA提供)

今回の取材、私どもメディアはヤキモキでしたが、プロジェクト関係者にとっては幾多のシミュレーションの想定内だったようです。そういう意味ではメディアの“せっかちさ”が露呈してしまったかもしれません。

ちなみに前述の津田プロマネが表現した着陸の難しさについて、ニッポン放送の番組では1つの疑問が出ていました。「なぜ例えが“甲子園球場”で、“東京ドーム”ではないのか? この人は阪神ファンなのか?」…会見後、私は津田プロマネに尋ねました。その答えは…。

「春の甲子園が近いから“甲子園”にしました。あと、私は広島ファンです」
なるほど、津田プロマネも一筋縄ではいかない人でした。(了)

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