「日本版GPS」 いよいよ正式運用スタート!
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「報道部畑中デスクの独り言」(第95回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、準天頂衛星「みちびき」の本格運用について、記念式典の取材模様も交えて解説する。
準天頂衛星「みちびき」による測位システムの本格運用がいよいよ今月から始まりました。以前、小欄でもお伝えしましたが、測位というのは自分のいる位置を衛星などからの信号を使って割り出すこと。準天頂衛星とは「天頂」に準ずる…「ほぼ天頂…日本の真上に近い」ところに見える衛星のことを言います。
日本の上空を通る軌道の衛星を複数打ち上げることによって、衛星が常に日本のほぼ真上にいるようにするわけです。2010年9月、1号機が打ち上げられて以来、昨年までに4機体制(うち3号機は静止衛星)となって24時間の測位が可能になりました。そして、今月からは常時、衛星から電波信号が出され、様々な活用が可能になったわけです。放送局で言えば「開局」にあたります。
現状はアメリカのGPS(全地球測位システム)の補完、もしくは補強の位置づけですが、これによってGPS単独では約10mとされていた位置の精度、いわゆる誤差が大幅に改善されます。信号によってバリエーションがありますが、専用の受信機によって「サブメータ級」で約1m、「センチメータ級」と呼ばれる高い精度では最大約6㎝まで縮めることができると言うことです。
この衛星が我々の生活に秘めた可能性は様々で、カーナビゲーションのほか、自動運転、農業分野への活用が期待されることはこれまでにお伝えしました。
(「ロケット打ち上げであなたのスマホの●●●がより正確に!」)
農業分野についてはすでに受信機を搭載したトラクターによる自動走行の実証実験が国内で行われ、決められた場所を問題なく自動走行させることができたということです。これにより、田植などの骨の折れる作業では“無人ロボット”によって、周辺の苗を踏むことなく精密な農作業が可能になります。現在は農機具メーカー各社が開発競争にしのぎを削っているということです。
また、普段何気なくスマートフォンなどで使っているナビゲーション機能ですが、実は最新型のスマホの一部には、グーグルマップなどでみちびきが補完した測位情報がすでに提供されているのです。
遊び心があるものでは腕時計型のウェアラブル端末がすでに市販されています。「グリーンオン」(開発元「MASA」)というブランドで出ている「ザ・ゴルフウォッチ プレミアム」という端末ではゴルフの際、あらかじめインプットされたコース情報と組み合わせてグリーンまでの距離を表示できます。
ついにゴルフの世界にもITが導入され、より高度なゲームにつながっていくかもしれません。ただ、最終的にはゴルファーの腕がモノを言う点は変わりませんが…。ランニングコースを表示する機種も開発されており、健康分野への寄与も期待されます。
防災分野での活用も見逃せません。衛星を活用した防災情報の発信も、近い将来の実現に向けて開発中です。緊急地震速報や津波、洪水といった防災気象情報を携帯端末で受信できるようになって久しいですが、これも近くに基地局があって初めてできること。西日本豪雨などの大災害では基地局が壊滅したことで、情報発信にも影響が出たと言われています。その意味でまさに「命を守る活用法」と言えます。広い意味での安全保障にもつながります。
街の景色が変わるのではないか…そんな期待がかかるのが無人航空機=ドローンへの活用かもしれません。ドローンに「みちびき」の受信機を搭載することで、上空を飛ぶドローンが安全に走行できるようにします。「ドローン・ハイウェイ構想」と名付けられた取り組みもあるぐらいです。
「陸海空」(陸=自動車や鉄道、海=船舶、空=飛行機)に分類される交通網ですが、陸と空の間に新たなネットワークが確立されるかもしれません。実現すれば超高層ビルへの荷物の配送、過疎地や離島への効率的な配達なども可能になり、陸の自動運転とともに、物流革命にもつながって行くでしょう。もちろん流通業界における人手不足の解消、働き方改革にも寄与していくことは間違いありません。
運用開始の11月1日、東京都内で記念式典が開かれ、安倍総理大臣もあいさつしました。「みちびきによって歴史の新たなページが開かれようとしている。みちびきは私たちの暮らしにどれだけの変化をもたらすか、ワクワクしながら見守っていきたい」…。
このように大きな期待が寄せられる「みちびき」ですが、課題の1つとして挙げられているのは受信機。センチメータ級の高精度の受信機はまだまだ高価で、1機100万円以上と言われます。大きさも弁当箱程度、記念式典の会場には各社の受信機が展示されていましたが、重さは1キロ以上あり、持ってみるとずしりとした重量感がありました。
今後は量産による低コスト化、そのためには多くの人が活用する必要があります。平井卓也宇宙政策担当大臣も受信機については「コストを下げていかなければならない」と語っています。そして、小型化、軽量化、薄型化…こちらは日本の「お家芸」と言ってもいい分野。国際競争においての大きな武器になるでしょう。
一方、前述のような新たな物流を構築するには、緻密な管制システムが必要になりますし、もちろんそれらを可能にするためには規制緩和も欠かせません。このあたりのハードルは高そうです。
しかし、何はともあれ、日本にとっては自前の測位システム(「日本版GPS」と呼ばれる所以です)を持てたことは計り知れないメリットだと思います。GPS頼みの現状では、今すぐどうこうということはないものの、アメリカの都合でサービスの事情が変わる可能性はゼロとは言えません。日本は2023年度にみちびきを7機体制にし、GPSに頼らないシステムの確立を目指します。
まさに「21世紀の社会インフラ」…大きな1歩を踏み出したと言えます。(了)