
真夏に聴きたい爽やかな曲といえば、やっぱりシティポップ! ヤシの木が並ぶ海岸通りをオープンカーで走れば、助手席の彼女の長い髪が潮風に揺れて、パイオニアのカロッツェリアから自分で作ったオリジナル・カセットのお気に入りナンバーが流れてくる……、そんな夏のシーンに、80年代の若者は憧れました。今回は、この夏にぴったりなシティポップのアルバムをご紹介します。

六本木クラップスにて前作MY PRIMARY COLORS特集ライブ
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
4年前、この「あけの語りびと」で、31年ぶりにサードアルバムを発売したアーティスト、川村康一さんをご紹介しました。川村さんは1989年、25歳の時にBMGビクターからメジャーデビュー。当時、所属していた「キティーアーティスト」には、井上陽水さん、バービーボーイズ、安全地帯、久保田利伸さん、来生たかおさん、そしてRCサクセションも一時在籍していました。
デビューアルバム「HAVE A GOOD-TIME」は爽やかな歌声と都会的なサウンドが話題を呼び、収録された11曲中6曲が、自動車や清涼飲料水、電話会社、プレジャーボートのCMに起用されました。翌年にはセカンドアルバムをハワイでレコーディング。このアルバムからも5曲がCMソングとなり、高い評価を獲得しました。さらにサードアルバムはロサンゼルスでのレコーディングが決定。プロデューサーには、マドンナやデヴィッド・ボウイなどを手がけたナイル・ロジャースが起用され、ブレイクは間違いなし。

1989年、川崎クラブチッタでのデビューコンベンションライブ
ところが、あのバブル崩壊が起きてしまいます。経営不振に陥った所属プロダクションは、分裂状態に。実績のあるアーティストは、ほかのプロダクションに移籍しますが、当時若手だった川村さんには移籍先が見つからず、サードアルバムも幻に……。バブルの象徴的音楽だった「シティポップ」も下火になったことで川村さんは音楽業界に別れを告げ、学生時代に学んだデザインの道に進み、アートディレクターとして新たな一歩を踏み出しました。

六本木クラップスにて昭和を駆け抜けた名曲カバー集ライブ
時が経ち、6年ほど前、ミュージシャン仲間から「コロナ禍で、時間もスタジオも空いているから、あの幻に終わったサードアルバムを作ろうよ」と連絡が入ります。こうして、31年ぶりのサードアルバム、『MY PRIMARY COLORS』が完成しました、というのが、4年前に「あけの語りびと」で紹介したお話でした。
集大成のサードアルバムをリリースした川村康一さんにとって、「これを超えるアルバムはもう作れない。事実上、最後のアルバムでした。しばらく音楽のことは何も考えられなかった」と言います。
それから2年が経った59歳のころ、仕事を終えてリラックスしながら、アコースティックギターを、ポロンポロンと弾いていると「ん? いまのメロディ、いいかも?」と感じ、川村さんは、スマホの録音機能を使って、忘れないように録音しました。

今作のレコーディングシーン
日を改めて聴き直すと、さらに続きのメロディーがまた浮かんでくる。それを録音し、完成したメロディーを聴き直していると、不思議なことに詞がぽっと浮かんでくる。「あれ? いい曲ができちゃったよ……」このときは、あくまでも趣味の延長だったと川村さんは言います。そんなことを繰り返しているうちに、1年半で10曲が完成。「10曲だったら、アルバムが作れるな」サードアルバム以上のものは、もう出来ないと思っていた川村さんですが、「それ以上のものができたかも……」と手応えを感じていました。

今作のジャケ裏&プロモーション用ショット
還暦を迎えて、年金のことも気になる年齢になっていた川村さんですが、シティポップへの情熱は、60歳になっても決して衰えず、「ニューアルバムを作って、みんなに届けたい」という思いが募ります。そこで今回は、前作のアルバムとは違い、すべて自分で制作することを決意。自らプロデュースを手がけ、レコーディングスタジオを探し、ライブハウスで「いいな」と感じた2人の外国人ミュージシャンに声をかけ、サックスとフルート、そしてギターの演奏を依頼。今回も、川村さんの18歳の双子のお嬢さんがコーラスに参加しました。

ニューアルバム『MAGICAL POP TRACKS』(7月18日リリース)
こうしてニューアルバム『MAGICAL POP TRACKS』が7月18日に発売されます。
プロモーションも川村さん自ら行っていて、どこよりも早く「あさぼらけ」に、できたてのシティポップが届きました。爽やかなサウンドが、この夏、また新たな物語を運んでくれそうです。
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