菅政権は「働き方」をどう変えるのか~日本郵便の格差是正訴訟で契約社員側が勝訴

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月16日放送)に元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が出演。日本郵便の格差是正訴訟で契約社員側が勝訴したニュースについて解説した。

【日本郵便待遇差訴訟】最高裁判所へ入る原告団=2020年10月15日午後、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

日本郵便の格差是正訴訟で契約社員側が勝訴

日本郵便の非正規雇用の契約社員らが、扶養手当など5項目の手当や休暇が正社員だけに与えられているのは、不合理な格差にあたるとして格差是正を求めた3件の訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷は10月15日、いずれも不合理と認め、原告側勝訴の判決を言い渡した。裁判官5人全員一致の意見だ。日本郵便の実態に応じた判断だが、扶養手当は多くの企業が採用していて影響が広がる可能性がある。

飯田)日を近くして、「同一労働同一賃金」についての最高裁判決が2件出ています。これがまた判断に迷うのは、一見すると正反対のように見えてしまうところですが、どうご覧になりますか?

契約社員が正社員との「待遇格差是正」2件の訴訟 最高裁「非正規」に厳しい判断 原告「不当判決」=2020年10月13日午後、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

日本企業は正社員に付いている余禄を剥ぎ取る方向に行く~従来の終身雇用制度に代表される日本のカルチャーは崩れる

松井)いま潮目が変わりつつあるのだと思います。最高裁自身もケースごとに、まだ逡巡しているところがあるのではないでしょうか。「同一労働同一賃金」または、「同一価値労働同一賃金」と言うこともありますが、これは基本的に厚生労働省の方針ですし、多くの政党、自由民主党のような、そういうことに保守的であった政党も含めて、その価値というものを認めているわけです。竹中平蔵さんがそれをずっとおっしゃっていて、保守的な方によれば、「日本の正規労働を崩壊させる」という議論もあります。ですから同一価値労働同一賃金と言っても、仕事の中身という側面だけではなく、責任や配置転換の可能性など、いろいろなことを含めて総合的に見ることが判例だし、政府の考え方でもあるのだとは思います。しかし、少なくとも私が見る限り、それが揺れているように見えるし、流れとしては、こういう勝訴が出て来ると、今後いろいろな訴訟がたくさん出て来ることでしょう。今後は全体として、日本の企業側は従来の正社員とパート・バイト、というものの差を少なくせざるを得ない。どういう形で少なくするかというと、パートやアルバイトの立場を強くするのではなく、むしろ逆に、「正社員に付いているいろいろな余禄を剥ぎ取る」という方向に行くのだと思います。従来の、「みんなで一斉に大学入試の試験を受けて、就職試験で一括に採用して、40年間勤めて、定年になり退職する」という日本の社会のカルチャーそのものが、チャレンジに立たされて行くのではないでしょうか。

飯田)働いている立場からすると、この同一労働同一賃金が普及して、賃金レベルの低いところに合わせられてしまうと、「これは体のいい賃金カットになるのではないか」という不安を抱く人もいます。

松井)そうですね。だから、竹中さんについていま申し上げましたけれども、竹中さんがそのようにおっしゃっているわけではありません。逆に言うと、「非正規の方々の処遇を正当に引き上げて行くべきだ」というご主張をされているとも考えられます。ただ、グローバルな競争をしていますから、途上国に比べれば日本の賃金や報酬は高いので、企業としては引き下げる方向に行かざるを得ない。いまはコロナで止まっていますが、これから外国人労働者が入って来て、その方々がどういう働き方をして行くのかという、また別の要素が入って来るわけです。そうなると、いままで守られていた正社員、あるいは扶養手当に代表されるような、昔の専業主婦が家庭を支えるという文化と裏表で維持されて来た制度が、徐々に見直しになって行くとは思います。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

働き方の変革で下がる収入の補填~ベーシックインカムの財源をどうするのか

飯田)そうなると、コロナで加速した部分もありますが、世界的な風潮として、「週5日8時間働く」という働き方がどうなのかとか、副業の話なども出ています。ドイツなどは、週4日労働にするけれども、削られた部分は政府からの手当をプラスして、全体としては生活レベルが下がらないようにするというのはどうだろうかなど、いろいろな案が出ています。

松井)それはどうワークシェアするか、あるいはベーシックインカムということもありますが、社会全体として税金も投入してどこまで支えて行くのかという議論になるのだと思います。竹中さんがベーシックインカムということについて、提案をされたと。これもいまの話と少し絡んでいるのです。

飯田)働き方の変革があると、当然そこで一時的かも知れませんが、収入が下がる可能性がある。そこをどう手当てするのか。

松井)社会全体のセーフティネットをどう構築して行くかということです。昔は企業がセーフティネットでした。大企業が終身的雇用を維持する。そして今回のコロナで活躍していますが、雇用調整助成金ということで、企業に雇用を保持してもらう。多少仕事がなくても、企業で解雇せずに雇い続けてくれれば国が助成する。保険ですから、企業が普段負担しているのですけれども。そういう制度が日本的な制度の1つのシンボルだったのですが、少しそういう考え方と違い、本当に困窮したものだけではなくても、ある程度のものはセーフティネットとしても与えましょうと。その代わり、個人個人が自己責任も含めて、何で自己充足を得るかということをもう1回考え直しましょう。あるいは、おっしゃったように、週5日働くのではなくて、週3日働いて、余暇を他の仕事に使うとか趣味に使うとか、いろいろな働き方を許容するような制度をいま模索している。しかし、1つ間違えるとさらに格差を助長するという考え方もあるし、ものすごい財政需要を生んでしまう可能性があります。限定的な金額ならともかく、いまの生活保護と同じような財政資金をベーシックインカムで出すということになると、いまの日本では財政的に持たないでしょう。ここも含めて、広い意味での「働き方をどう考えるか」ということがこれからの大きな課題になると思います。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

AIとBI(ベーシックインカム)

飯田)AIが出て来た2~3年前に「シンギュラリティ」という話が出て来て、人間よりAIが進歩して、人間の働き口が減ってしまうのではないかと言われました。「20年後になくなる仕事一覧」というものも出ていました。そうすると、働きたくても働けない時代がやって来るかも知れない。そのときに、どうやってお金を稼ぐのかというような話も、この先は出て来る可能性がある。

松井)人間でなければできないことを、どのように人間が高度にやり、やりがいを感じ、AIに任せて効率化するところは効率化する。AIとBIなんていうことを言う人がいますけれども……。

飯田)AIとベーシックインカム。

松井)それをどう組み合わせるのかということも、大きなテーマです。新政権には、そういうことに取り組んで欲しいと思います。デジタルトランスフォーメーション(DX)は当然必要ですけれども。

講談社『破壊と創造』著:梶山静六(※画像はAmazonより)

菅総理のバイブルは梶山静六氏の『破壊と創造』

飯田)個別的なところの方が見出しが立つし、話題になりやすいので、そういうミクロの政策をやっていますが、全体の流れとして、こういうところが見えているのでしょうか?

松井)梶山静六さんという方が、亡くなる直前に書かれた『破壊と創造』という絶版となっている本があります。

飯田)講談社から出ている。

松井)これをたまたま、私の知り合いから借りて持って来たのですけれども、バイブルはこれだと思います。

飯田)梶山さんは菅総理の師匠ですよね。

松井)菅総理は、まだ統合的にはビジョンを出されていません。携帯料金を下げる、ハンコをなくすなど、わかりやすいものを出しています。これは、「初期には抽象的な理念より、わかりやすい成果を出す」という竹中さんの知恵です。しかし、これから出て来ると思います。

飯田)梶山さんが唱えた90年代終わりの問題意識が、いまもそのまま残っているのが日本の社会というわけですか?

松井)まさにそうです。そしてさらに世の中がテクノロジーを含めて加速していて、そこに日本は2周遅れくらいになってしまっている。しかしそれを逆手に取って、大きなイノベーションにつなげればいいのです。有線インフラがなかったところは、無線インフラが進むということもありますから。そのようにして行くしかないでしょうね。

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