ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月23日放送)に外交評論家・内閣官房参与の宮家邦彦が出演。米上院司法委員会が保守派のバレット新判事の承認案を可決したニュースについて解説した。
民主党がボイコットしたアメリカの最高裁判事の人事案可決
アメリカの上院司法委員会は10月22日、連邦最高裁判事にトランプ大統領が指名した保守派のバレット高裁判事を充てる人事案を採決し、共和党の委員12人全員の賛成で可決した。野党・民主党の委員10人は全員が採決をボイコットした。
飯田)まず委員会で可決して、26日の本会議で可決するという流れだそうです。
宮家)民主主義ですから、当然です。審議拒否というのは、日米どちらでもダメです。たまたま大統領選挙投票日前のこの時期にリベラルのギンズバーグさんが亡くなって、保守派のバレットさんが指名された。欠員があるわけですから、それを審議するのは当然です。もっとも4年前には同じような状況で共和党は、大統領選挙の直前に最高裁判事の任命をやるなどとんでもないと言った時期もあったのですが。しかし、いちばん大きな問題は、大統領選挙がもし拗れた場合、例えば、接戦州の一部で郵便投票が遅れてしまった。これはおかしいと、トランプさんが負けたにもかかわらず、「勝った」と言い、もつれて「最後は最高裁で決着をつけよう」となった際に、この時の最高裁の保守とリベラルの比率が6対3か5対4かはかなり違います。その意味で、共和党からすれば当然だろうと思いますが、民主党からしたら嬉しくない話だと思います。
敗戦濃厚になった場合~トランプ氏は裁判に持ち込む可能性も
飯田)どこまで拗れるか。今回はコロナウイルスの感染防止というところがあり、郵便投票を選ぶ人が多い。もうすでに2000万人以上だということです。
宮家)しかし、これまでも郵便投票の経験はあるわけで、トランプさんのように、「不正だ」などと言われても困ります。初めてやるならともかく、今回は数が多いだけですから。後は締め切りがいつになるか、アメリカの郵便システムできちんと届くのか、ということです。郵便公社のトップが共和党系の人で妨害工作をしていたとか、いろいろな噂が流れていますが、アメリカの投票集計は日本ほどしっかりしていません。日本は手作業でその日のうちに数えてしまうのだからすごいと思います。アメリカの場合、私が聞いたのは、郡や市によって投票の集め方が違う。機械でやる場合もあるし、手作業のところもある。バラバラなのだそうです。トランプさんはそこにつけこんで、敗色濃厚になって来たら、何を言い出すかわからない。「悪夢のシナリオ」と東京新聞に書いてありましたが、それはあり得るのです。
圧倒的な結果を出して勝たなくてはならないバイデン氏
宮家)逆に民主党の方から言うと、ただ勝つのではダメだと。「圧倒的な結果を出して、トランプさんを打ち負かさないといけないのだ」と言っています。私はそれもわからないではない。「トランプ現象」というのは、トランプさんがつくったものではないですから。少数派に対する重視が強すぎて、「自分たちは忘れ去られてしまったのだ」と感じた白人男性、ブルーカラー、低学歴の不満の声があって、それをトランプさんが票にしたわけです。
飯田)そうですね。
宮家)しかし、その不満はトランプさんが負けても簡単にはなくなりません。しかも、それが健全な不満だったらいいのですが、どうもあまり健全でない人たちもなかに混ざっているようです。そういう人たちは、政治の場所から退場していただかなくてはいけないのです。彼らを退場させるには、圧倒的な差でバイデンさんが勝たなくてはなりません。「昔のような形のアメリカの民主主義が機能しなくなる」とすら言う人もいるくらい、危機感を持っている人がいます。どちらが勝つにしても、わかりやすい形で結論が出て欲しいと思います。
投票率が低くなれば4年前と同じことに
飯田)ほとんどの州で勝者総取りの形になる。そうなると、どこの州でも「僅差だけれど、どちらかが勝つ」ということで、地滑り的な形になる可能性も否定できません。全体では支持率は僅差ですが。
宮家)4年前のヒラリーさんは、全米では得票数がトランプ候補より285万票も多かった。しかし、アイオワ、ウィスコンシン、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニア、フロリダという6つの州でほんの僅差でひっくり返されたために、トランプさんが勝ったのです。だから、今年もトランプさんは同じことをやらない限り勝てないのですが、「トランプさんはけしからん」と思っていても投票しない人が多ければ、投票率が低くなり、4年前と同じような状況が起きてもおかしくありません。民主党の人たちが言うように、圧倒的に勝ちたいというのはわからないでもない。
決して強力な大統領候補ではないバイデン氏
飯田)メールやツイッターもいただいております。69歳の男性で“しっちゃかめっちゃか”さんから。「バイデンさんでは心細いと感じています。トランプさんはいろいろありますが、政治に勢いがあって元気があって、台頭して来た中国に対応できる人だと思います」とあります。東京都東村山市のラジオネーム“シナモン”さんからは、「何だかバイデンさんって品のいいおじいさんというイメージだけで、大統領のイメージが湧かないのですが、これはトランプさんのイメージが強すぎるからなのですかね」といただきました。
宮家)どちらも正しいご指摘だと思います。バイデンさんを私は個人的に嫌いではないのですが、そんなに強い候補ではありません。かっこよく見えるかも知れませんが、それはトランプさんがいるからそう見えるのであって、大統領候補として強力かと言ったら、それは弱いですよ。強かったらとっくに大統領になっています。
飯田)上院議員を40年以上もやっていますし。バイデンさんがもし大統領になると、バイデンさんとその周りで意思決定をするということになります。そうなると、バイデンさんの顔が見えなくなってしまうのではないかという指摘もありますが。
宮家)ワシントンが長い人ですから、いい意味で官僚組織を含めチームワークの仕事を知っていると思います。司の人たちをうまく使うという点では、バイデン政権でワシントンはある程度元に戻ると思うので、トランプさんのような予測不能なことはないかも知れません。
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