安倍総理が洋食なら菅総理は「出汁の効いた和食」~初の所信表明演説
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月27日放送)にテレビ東京政治部官邸キャップの篠原裕明が出演。菅総理大臣が行った初の所信表明演説について解説した。
「2050年温室効果ガス実質ゼロ」はサプライズ
菅総理)わが国は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
10月26日に行われた菅総理大臣の所信表明演説では、この他に行政の縦割り、既得権益の打破や規制改革、不妊治療の保険適用の早期実現、携帯電話料金の引き下げについても言及した。28日から代表質問が始まり、野党側は、日本学術会議の問題などを追及する方針。
飯田)新聞紙面一面を見ると、各紙、温室効果ガス2050年ゼロ宣言というのを揃って掲げています。これが目玉ということになるのでしょうか?
篠原)総裁選以来、一切言及していませんでしたが、先週くらいからそういう話が出るのではないかという話になっていました。
飯田)観測記事も出ました。
篠原)政治部記者も驚きを持って受け止めています。いきなり2050年温室効果ガス実質ゼロと言う話が出て来たので、サプライズとして各紙一面の見出しになったのでしょう。菅総理の作戦通りなのかも知れません。
ストーリー性のない、あっさりとした演説~安倍総理の演説が洋食ならば菅総理は出汁の効いた和食
飯田)全体としてはどうご覧になりました?
篠原)いじわるな言い方をすればストーリー性がない。やりたい政策を羅列したという感じがして、旧来型の総理の演説に近かった。各省庁から集まった「短冊」と呼ばれる政策の塊をポンポンと並べて行った感じがしました。直近の安倍政権の演説の場合、聞く人を意識して、政策の話に入る前に歴史の話や具体的なエピソードをふんだんに入れて、ストーリー性を重視して来ました。それに比べると、安倍前総理の演説が洋食なら、菅総理の演説は出汁の効いた和食。あっさりした感じがあったなという印象です。
飯田)なるほど。
「2050年の温室効果ガス実質ゼロ」~経済界の根回しをした梶山経済産業大臣の功績
篠原)ただストーリー性がないから悪かったと言うつもりはありません。政策の羅列のなかでも、「2050年の温室効果ガス実質ゼロ」ということで菅カラーを打ち出したりもしています。このくだりでは議場から大きい拍手が出ていましたよね。取材しますと、梶山経済産業大臣が経済界の根回しをしていたから、演説に入れられたと。菅総理も働きぶりを評価していると聞いています。
飯田)それは絵に描いた餅ではなくて、裏打ちがあった。
篠原)こういうことを環境省が根回しすると、市民団体だけの盛り上がりになって、経済界は「何も知らないよ」ということが、いままでよくありました。実際にやるには、経産省が産業界を回って説得しなければいけないのですが、今回はできたということを菅さんが周辺に漏らしています。
ミクロな情報、民間の情報に強い菅総理~水戸黄門の視点
飯田)なるほど。他の注目点はありましたか?
篠原)各社あまり報じていないことですが、私が注目したのは、2030年までに5兆円という目標を掲げた農産品の輸出強化。これについて、菅さんは官房長官時代から熱心に取り組んで来ています。当時の菅官房長官に取材して、少人数で話したことがありました。シンガポールのドン・キホーテの店頭で売っている日本の焼き芋の売れ行きがすごいのだと。1日に5回焼いて1500本売れる。現地の日系デパートは日本の2~3倍高い価格設定にしているけれど、ドン・キホーテは日本と同じ価格か1.5倍程度に抑えているから売れるのだと、熱っぽく語っていました。この話を聞いていて、WBS(ワールドビジネスサテライト)のディレクターの企画プレゼンテーションかと思いました。
飯田)経済ニュース番組の。総理はキャッチーな数字までよく把握していらっしゃいますね。
篠原)これが菅総理の強みです。ミクロな情報、そして民間の情報に強い。例えば農産品に注目していると、検疫で目詰まりを起こしている、なんていう情報も菅さんの下には集まって来ます。これは厚労省と農水省がおかしい、縦割りの弊害だとして検疫の滞りを打破して来た、そういう自負が菅総理にはあるのです。総理にレクチャーする役所の局長、課長は現場の情報に弱いのです。彼らは業界全体を束ねてマクロな情報には強いのですが、こういうミクロな情報には弱い。審議官がマクロな情報を説明しても、菅総理から「それ本当? 現場で聞いている情報とは違うな」と指摘されると縮みあがってしまうわけです。
飯田)自分の手元にない情報が来ると「ヤバい!」となるわけなのですね。
篠原)これが菅さんの強みで、一言でいうと水戸黄門の視点。街歩きで出会った問題を逐一解決して行く。
大きい理想はいいから、目の前のことを解決する~欠かせない和泉総理補佐官の存在
篠原)だけどその反面として、政策全体をくるむような、安倍政権にあったようなトータルなビジョンというのは見えにくい。そこを批判する人もいるわけです。
飯田)それは取り組む姿勢、手法の違い?
篠原)1つひとつ、「大きい理想はいいから、目の前のことを解決したい」というのが菅さんの政治志向です。この他にも、もう1つあります。菅総理は霞が関のなかでも、担当省庁以外の情報を重視する傾向があります。例えば、沖縄県の辺野古基地の建設と新国立競技場の建設。政府の立場から見ると、うまく行きませんでした。
飯田)新国立競技場も、最初はザハ・ハディドさんの案が不採用になって頓挫していました。
篠原)当時の菅官房長官は、担当の防衛省や文科省に任せていては物事が進まないと考えて、いまも引き続き総理補佐官を務めている国交省出身の和泉洋人(いずみひろと)総理補佐官、この人を起用して、国交省のノウハウを活用しながら建設の進捗を図りました。和泉総理補佐官というと、一部週刊誌で女性問題を報じられたことをご記憶の方も多いと思います。しかし菅総理にとっては、政策推進の力として欠かせない存在です。いま、和泉補佐官が役所のレクチャーにほぼ同席していると言われています。
飯田)もともと安倍さんの総理補佐官の立場だったけれど、基本的に仕事は官房長官側だった?
篠原)官房長官補佐官でしたね。杉田さんという事務の官房副長官がいますが、杉田さんと和泉さんの2人で事務の官房副長官をやっているような、霞が関に指示を下ろす役割を担っているという感じがします。
飯田)国交省というのは全国組織がいっぱいありますからね。
篠原)大きいプロジェクトを進めるということに慣れていますが、文科省は慣れていません。
外交政策は外務省主導に
篠原)内政には強いのですが、外交はまだまだ、伸びしろがあります。
飯田)所信表明演説では、安倍さんのときと比べると、外交や安全保障に充てる部分がかなり後ろの方で、しかも短かかった。
篠原)菅総理は、内政に関してはセカンドオピニオン的なルートが確立しているのですが、外交に関しては、伝統的な外務省の情報ルートに頼っていると言われています。外務省が挙げて来た情報を、有難く信じるというところがあります。
飯田)確かに総理動静を見ていると、秋葉剛男事務次官と2人で会うという時間があったりします。
篠原)安倍政権では経産省出身の官邸スタッフが外交政策の立案にあたっていましたが、菅政権では、伝統的な外務省主導の外交政策になるのだと思います。国連での演説も伝統的でしたよね。そういう意味では、外交の手並みは変わって来るのかも知れません。
飯田)参与で宮家邦彦さんが入って、それから飯島勲さんも外交をなんていう話も入って来ています。
篠原)宮家さんの活躍に注目しています。
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