ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月28日放送)に数量政策学者の高橋洋一が出演。日本銀行が10月28日から2日間にわたって行う金融政策決定会合について解説した。
日銀金融政策決定会合~物価見通しを下方修正へ
日本銀行は10月28日、29日の2日間で金融政策決定会合を開く。2020年度の物価見通しを下方修正する見通しで、大規模な金融緩和策は維持するとみられる。
飯田)日銀は金融政策決定会合を行い、そして国会は衆院本会議で代表質問ということです。菅政権、経済政策をどうするのかというところですね。
新型コロナで分かれた予想「供給ショックで物価が上がる」と「需要ショックで物価が下がる」~需要ショックで物価は下がった
高橋)物価見通しの下方修正へというのは予想通りです。コロナショックがあったときに、経済学者のなかでは、見方が2通りに分かれていました。サプライチェーンに影響があるとなると、「供給ショック」という言い方になり、その後予想されるのは「物価が上がる」ということです。つまり品不足になる。もう1つは、コロナショックのような状態になると、いろいろな需要が一瞬、消えます。これは「需要ショック」となり、「物価が下がる」ということになります。経済学者のなかには両方いました。
飯田)物価が「上がる」と言う人と、「下がる」と言う人が。
高橋)かなり有名な経済学者にも「コロナ供給ショックで物価が上がる」と言った人が随分います。私はもちろん需要ショックだと思っていたので、物価が下がると予想しました。
飯田)供給側が棄損されるのだというようなことを言った人もいましたが、災害や戦争とは違い、施設そのものが破壊されたわけではなかったですからね。動かせばまたものは出て来ると。
高橋)この間違いは東日本大震災でもありました。学術会議のレポートを見ると、「供給ショック」と書いてあって「増税が必要だ」と言っているのです。
飯田)インフレになってしまうので、冷やし玉として増税をするのだと。
高橋)ところが全然違っていました。そこが重要なのです。日本銀行のなかでも、実は両方の意見の方がいたのです。
時間が経つにつれて判明して来る~3月くらいにわからなければ経済対策ができない
飯田)これは最初の段階で、わかるものなのですか?
高橋)わかりにくいです。理論的には両方の場合がありますからね。
飯田)そうですね。両方とも見た感じでは、納得はできますし、あり得そうですよね。
高橋)ですので、私はデータを見ながら、どちらが大きいかと相対評価をするだけです。
飯田)そうすると、ことが起こって時間が経つにつれて、だんだんと判明して来るということですか?
高橋)わかります。物価も見通しが立ち、「需要ショック」だということが明らかになります。本当は、3月くらいにわからなければ、経済対策としては困ってしまうのです。
飯田)これは半年以上経ってからだと遅いということですね。
高橋)わからなければ、失敗してしまいますから。私は需要ショックだと思ったので、大規模な有効需要対策として、国債をたくさん出し、財政出動をして日銀が引き受ける。しかし、需要ショックですので物価が下がるため、インフレには達しないというロジックなのです。そこを間違えてしまうと大変なことになります。しかし、不完全な情報でもそこを行わなければ対策は打てないのです。これはかなり重要な話なのです。本当は日本銀行のなかでも、どんな議論があったのかを検証しなければならないのです。
飯田)なるほど。ただ見通しのようなものが出て来るだけではなくて。
高橋)そこを見極めるのがプロですから。
ものはどこでもつくることができる~想定よりも強靭だったサプライチェーン
飯田)日本の場合は供給能力が高いので、基本的にデフレ圧力が強いということを言われますよね。
高橋)私もそう思っていましたので、東日本大震災のときにも、全国的には供給能力があるので需要ショックだと思ったのです。
飯田)あれだけ東北は被害を受けたけれども、関西や九州などでも、ものはつくれるだろうと。
高橋)サプライチェーンが切れても、他のところから調達できるというロジックなのです。
飯田)海外も含めてですね。
高橋)中国だけでなく、他のところもあるので。
飯田)そのサプライチェーンも想定よりは強靭だったわけですね。
高橋)いまは強靭な技術があるので、少しくらいダメージを受けても大したことはないのです。戦争のようなことになってしまうと、本当に大変なことになるのですが、それ以外は、サプライチェーンを心配する必要がないというのが、私の現状認識です。
絞らずに需要をつけるべき
飯田)ここ10年~20年の議論を見ていると、先進国は特に供給能力が高いので、恒常的にデフレ圧力に悩まされているということがあるようですね。
高橋)それは生産性が高いということです。悪いことではないのですが、需要をつければいい経済になるのだと思います。需要をそこで渋ってしまうとダメなのです。
飯田)それをこの国では、一時を除いて20年以上絞り続けて来たような気がしますが。
高橋)絞る必要はないと思うのですが。緊縮派の人たちは絞りたくなりがちなので、そこはいつも「違いますよ」と言います。今回のような物価の見通しのときには、日銀にも「言ったとおりでしょ」と言いたいですね。
飯田)ここは両輪で出して行けばいいという話ですね。
経済の見極めは積み重ねて行けば、ある程度わかる
高橋)こういうのは単純なように思いますが、半年くらい前のときには、とても重要な話です。見極めを間違えると対策を間違えてしまいますから。
飯田)しかも初動で間違えてしまうと。
高橋)ものすごく厳しいです。一定のリスクがあり、絶対に当たるとは言えませんが、こういうのは積み重ねて行くと、ある程度はわかるのではないかと思います。日本銀行も「半年前を振り返ってくれ」ということです。
物価が「2%に達しなくてはいけない」のではなく、「2%までならばいい」~最終目標は雇用が安定されること
飯田)ところがここへ来て、日経の経済面を見ると、「物価目標2%というのも見直すべきなのではないか」というような話も出ています。それも、高い方で見直すのではなく、「2%は達成できないのだから1%にしろ」というような内容です。
高橋)雇用さえ確保できればいいので、「雇用を確保するときに、物価は上がり過ぎてはいけませんよ」というのがインフレ目標なのです。そこに行かなければ大した話ではないのです。よくレンジで決めるという人がいるのですが、正しくは「何々以下」です。以下であればいいのです。欧州中央銀行(ECB)ではインフレ目標が「何々以下」となっています。
飯田)例えば2%以下だとか。
高橋)以下であればいいのです。「2%」と言っているわけではないのです。
飯田)「達成していないではないか」という批判は、そもそも理解していないということになるのですね。
高橋)達成するかしないかというのは、「以下なのだから別にいいではないか」ということです。「雇用がうまくいけばいい」というのが正しい理解なのです。ですので、「2%でなければ達成していない」と言う人は、すぐにお里がわかってしまうのです。
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