ミャンマー国軍クーデター~「何が善で悪かがわからない」最適な教材

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月3日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。ミャンマー国軍による権力掌握を、アメリカが軍事クーデターと認定したニュースについて解説した。

ミャンマー国軍クーデター~「何が善で悪かがわからない」最適な教材

国連大学前で行われた、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏らが拘束されたことに対する抗議デモ=2021年2月1日、東京都渋谷区 写真提供:産経新聞社

アメリカがミャンマー国軍の国家権限掌握を軍事クーデターと認定

アメリカ国務省高官は2月2日、ミャンマー国軍がアウン・サン・スー・チー国家顧問らを拘束し国家権限を掌握したことについて軍事クーデターだと認定した。これに基づいてミャンマーへの対外援助を抜本的に見直すとしている。

飯田)正式に認定し、援助の見直しをするようです。

ミャンマー国軍クーデター~「何が善で悪かがわからない」最適な教材

ミャンマーの与党、国民民主連盟(NLD)を率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問(ミャンマー・ネピドー)=2020年04月13日 AFP=時事 写真提供:時事通信

「何が善で悪かということがわからない」ということの、最適なテキスト

佐々木)この件は「何が善で悪かということがわからない」ということの、最適なテキストです。もともとミャンマーは軍事政権が長く続いていて、野党の指導者アウン・サン・スー・チーさんが軟禁されて大変な目に遭いました。そのスー・チーさんが政権に復帰して、「これでミャンマーが民主主義になる」と世界中で喜びの声を上げたというところでした。しかし、ミャンマーにはロヒンギャ難民迫害という、もう1つの問題があり、その迫害を国軍がやっていました。スー・チーさんは国際司法裁判所で国軍を擁護した。ロヒンギャ難民迫害を肯定したのです。それで国際世論がまた「スー・チーに裏切られた」と沸騰しました。

飯田)「ノーベル平和賞を取り消せ」というようなことがありました。

ミャンマー国軍クーデター~「何が善で悪かがわからない」最適な教材

国連大学前で行われた、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏らが拘束されたことに対する抗議デモ=2021年2月1日、東京都渋谷区 写真提供:産経新聞社

国軍とバランスを取るためにロヒンギャ迫害を肯定せざるを得なかったスー・チー氏

佐々木)日本でも、いままでスー・チーさんを聖人君子として崇め奉っていた人たちが、急に「スー・チーはけしからん」と怒り出しました。ロヒンギャ難民が酷い目に遭っていることは確かなのですが、一方でスー・チーさんは国軍とどうバランスを取るかと、その距離間に心砕いていました。そのための苦渋の決断で、そうせざるを得なかったのではないでしょうか。

飯田)なるほど。

佐々木)今回スー・チーさんを追い払って、クーデターを国軍が起こしました。なぜ、このタイミングでクーデターなのかわかりませんが、ロヒンギャ難民の人は大喜びしています。

ミャンマー国軍クーデター~「何が善で悪かがわからない」最適な教材

就任式で宣誓後、手を振るバイデン米新大統領=2021年1月20日、ワシントンの連邦議会議事堂(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

クーデター認定した政府には援助できないアメリカ

佐々木)ここで難しいのは、アメリカの立場です。どちらに立つのかと。しかもクーデターと認定すると、「クーデターをした政府には援助してはいけない」というアメリカの国是があります。これまでミャンマーを援助していたので、やめるかどうかの瀬戸際です。これは難しい。2013年にエジプトでクーデターが起きたときに、アメリカはクーデター認定をしませんでした。エジプトはアラブのなかでもアメリカ寄りの重要な国です。その国への援助を打ち切るとアラブとのつながりが断たれてしまうからです。

飯田)あのときクーデターで倒した政権はムスリム同胞団の人たちで、どちらかと言うとアメリカに厳しい人たちでした。むしろ軍政に戻った方が好都合なのではないかとなりました。

佐々木)結局、クーデターに認定しないで、援助を続けたという前例があります。これはどちらが正しいとは言い切れません。それによって逆のイスラム過激派の方に行く心配もあります。一方で、いくら独裁政権でも国情が安定している方が国際秩序の観点から見ると、よりよいという判断があります。アラブの春は典型で、それによって世の中は民主化して喜びましたが、結果的に混乱を招いただけでした。そういう状況があったので、何がいいのか難しいのです。

ミャンマー国軍クーデター~「何が善で悪かがわからない」最適な教材

首相、即位礼外交スタート  会談前に握手を交わす安倍首相(左)とミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相=2019年10月21日日午前、東京・元赤坂の迎賓館(代表撮影) 写真提供=時事通信

ミャンマーへの援助を打ち切ると過激化する可能性も~国際社会の難しさ

佐々木)今回のミャンマーの軍部によるクーデターに関しても、アメリカがクーデターと認定してミャンマーへの援助を打ち切ると、それは東南アジアの安定のためにいいことなのだろうか。援助を打ち切ると、逆にミャンマーが過激化する可能性があります。イランが典型で、国際社会から孤立して過激化して行きました。過激化させないことも考えると、すべて善悪で判断して済むという話ではありません。国際社会の難しさを、今回のミャンマーが浮き彫りにしているのです。

飯田)アメリカが制裁、西側諸国が突き放すということになると、確実に得をするのは中国だろうと言われています。

佐々木)中国に寄って行くしかないですからね。

飯田)中国では「民主主義をやると、このように混乱を生むのだ」というような発言や報道が出ているようです。

佐々木)バイデン政権もこれまでは「悩んでいる」という報道が出ていました。しかし、バイデン政権はポリティカル・コレクトネス的な民主党政権ですから、そちらに行ったのかと。アメリカがクーデターに認定するのが悪いということではありませんが、日本にとってどうなのか、中国が利することにならないのかなど、射程を伸ばして考える癖を我々は身につけたいと思いますけれどね。

飯田)かつてスー・チーさん拘束の時期も、日本は援助を続けていたという歴史があります。パイプもあります。

佐々木)善悪で考えずに、「日本の国益はどうなるのか」ということも考えることが大事だと思います。

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飯田浩司のOK! Cozy up!

FM93/AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

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