スエズ運河座礁はヨーロッパとアジアの動脈が止まるということ
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月29日放送)に元内閣官房副長官補・同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。スエズ運河で大型船が座礁したニュースについて解説した。
スエズ運河座礁の余波
アジアとヨーロッパを結ぶ海上交通の要衝、エジプトのスエズ運河で大型のコンテナ船が座礁し、運河が通れなくなっている問題で、世界の海上貿易の約10%以上を占める航路が遮断されている状況が続いている。現地管理当局は、船を安定させるため船底に入れているバラスト水を抜くなどして船を動きやすくしていて、現地時間3月28日の満潮時に離礁を試みることにしている。
ヨーロッパ経済とアジアを結ぶスエズ運河~動脈が止まるようなもの
飯田)バラストを抜いて、船を軽くして、少し浮かせて、満潮のときに動かせるかということを試みるようですが、これは経済あるいは地政学的にも何か影響はありますか?
兼原)大きいですよ。ここを通らないと、アフリカの喜望峰を迂回することになってしまいますから。日本もそうですが、人は飛行機で動きますけれど、ものは船で動きます。船は1隻あたり用船料で3000万円くらいかかります。だから海運は航路が短くて早く行けるのがいちばんいいのです。アフリカを迂回するとなると、全部それが価格などに跳ね返って来ます。お金が入って来ないので、エジプトも大変です。国際経済はいろいろなところに急所があって、そのツボを押さえられると止まってしまいます。ヨーロッパ経済とアジアとを結ぶところは、絶対にあそこを通るので、ヨーロッパとアジアとの動脈が止まってしまった感じなのです。これは大変なことです。日米などのアメリカの航路は大丈夫ですけれどね。
飯田)太平洋の方は。
兼原)やはりホルムズとスエズは怖いのですよ。油が切れるところと、対欧関係の動脈が切れるところです。日本の動脈は4本なのです。日本とアメリカと、日本と豪州、それから日本と湾岸と日本とヨーロッパです。最後の2本というのは、ホルムズとスエズで切れてしまうのです。
飯田)すごく近いところで、イラン側のホルムズとエジプトとの間のスエズ。
兼原)戦争とかテロや、このような座礁で止まるのです。
賠償金は1日あたり1兆円にも
飯田)この影響は大きくて、賠償金が1日あたり1兆円くらいになるのではないかという話まで出ています。
兼原)300隻と言っていますから、3000万円とすると、1日100億円くらいです。これで日にちが経って行くわけですから、大変なことだと思います。あと大回りし始めるとその契約料金も合わないですからね。「たくさん払ってくれ」という話になるでしょうし、保険の方にも跳ね返ります。
飯田)エジプトというのは地域大国でもあるということですが、スエズ運河の通行料はGDPにも影響します。
兼原)大きいですよ。エジプトは経済がうまく行っていないのです。あそこはまた軍政が帰って来てしまっていて、軍事産経済はあまりよくないです。その前は過激なムスリム同胞団で、これもうまく行かなかったので、国力の割には経済が小さいのです。ここの交通料が入らないと、ここの財政は痛むと思います。
飯田)かつて、ここ10年くらいでも観光地でテロがあったり不安なところはありますよね。
兼原)そうですね。本当はあの辺りの大国はトルコとエジプトとイランなのです。
飯田)アラビア半島の三角形で囲むようなかたち。
兼原)エジプトの調子が悪いので、サウジアラビアが大きい顔をしているわけです。お金がありますからね。
NATOの一員だけれどEUに入れないトルコの苛立ち
飯田)オイルマネーが。そのサウジとイランは角を突き合わせているし、サウジとトルコの間も記者殺害などがあって、少し微妙ですか?
兼原)その昔は、あの辺すべてオスマン・トルコ領だったので、昔の家臣みたいに見えるのですよ。「もともと俺がいちばん偉かった」という気持ちがトルコ人にはあるのです。
飯田)上から目線が。
兼原)そこにみんな「カチン」と来てしまうのですよね。トルコのエルドアン大統領はもう西側を向いていて、「西欧化されたイスラム教徒」というアイデンティティなのですけれど、EUには入れてくれないのですよ。最近、それに頭に来ていて、少し東を向いてしまったのです。しかし、東側にはあまりいい人たちがいないのですよ。ロシアとイランと中国ですから。NATOの一員ですから、「そっちと組むのか」と。「ダメだ」と言っても、「だったら大事にしろよ」となってしまいます。EUには入れられないとなると、また東を向いてしまう。
飯田)なるほど。ロシア製のミサイルを入れたりというのも、そういうところの表れだと。
兼原)そうです。私たちと少し似ていて、西側の一員なのですけれど、東洋人なのです。アイデンティティがふらついているところがあるのです。私たち日本人は「西側の一員」と振り切っていますけれど、トルコはまだそこまで行っていないのです。
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