ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月31日放送)に安全保障アナリストで慶応義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮が出演。3月30日に行われた日本とインドネシアの「2プラス2」について解説した。
日本とインドネシアの外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催
日本とインドネシアの外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)が、3月30日に東京都内で行われた。協議では、海洋進出を強める中国への深刻な懸念を共有し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、連携することで一致。防衛装備品の移転や技術協力を促進する協定を締結した。
飯田)2015年以来、2回目の開催となり、日本からは茂木外務大臣と岸防衛大臣、インドネシアからはルトノ外相とプラボウォ国防相が出席をしたということです。インドネシアとの2プラス2、この意味にはどのようなものがありますか?
経済成長するインドネシア~「武装ドローン」の開発も
部谷)日米豪印の連携を深めて行くなかで、そこに他の国も入れるということです。インドネシアは地域大国で、軍拡もしています。経済成長が著しく、ミサイルを撃つことができる「武装ドローン」もつくっています。2021年に初飛行して、2022年に大量生産をするということです。
飯田)それは輸入ではなく、自前でつくっているのですか?
部谷)自前でつくっています。日本よりも進んでいるのです。そのような地域の軍事大国と日本が連携するということは、いいことだと思います。中国のシーレーンのど真ん中にあるのはインドネシアですから。
飯田)今回、スエズ運河の一件があったので、物流のチョークポイントが注目されましたが、インドネシアは目の前がスマトラ海峡であり、まさにシーレーンの肝の部分というところです。ここと連携するということは、経済面も含めてということですか?
部谷)はい。
ドローンなどをインドネシアの土地を使い共同開発する
飯田)ASEAN各国は、「中国に対して強く出ることができない」というようなことを言われていますが、この辺りにも変化はありますか?
部谷)そこの変化はないでしょうね。これ以上中国側に寄せないために、「日本という保険を掛けておく」ということです。日本としても、これ以上向こうに行っても困るので、関与して行くのです。
飯田)防衛装備品の移転、技術協力というようなことが出ていますが、日本として可能性のある協力のプランにはどのようなものが考えられますか?
部谷)タイにレーダーを売ったり、フィリピンに日本の中古の装備品をあげていますが、1つには、「日本がいらなくなったり、使っているものを移転・輸出する」ということです。
もう一つは共同開発です。向こうの人たちが日本の防衛省関係者によく言うのは、「うちの国で一緒に実証実験をしよう」ということです。彼らにはデータを取り、それを評価するテクノロジーやノウハウがありません。日本も国際標準ではないところもあるので課題はあるのですが、インドネシア等の広い演習場で、「日本とインドネシアで実証実験してドローンのようなものを共同開発する」というニーズは向こうにもこちらにもあるのです。日本国内ですと演習場が狭いので、ミサイルを撃つにしてもできる演習場が少ないため、いい協定を結んだなと思います。
飯田)確かに、長い射程のミサイルを撃とうとすると、「市街地を越えるではないか」という話になりますよね。
部谷)「落ちたらどうするのだ」と。
飯田)しかも、島が連なっているという条件は日本と似通っています。
部谷)そうですね。それを共同開発すればインドネシアに売れますし、一緒にASEAN諸国に装備を売ることもできます。
飯田)そのようなところでの協力の糸口というのが。
部谷)実は広がっているのです。
飯田)ASEAN各国との連携というと、どうしても中国を見据えながらの地政学的な話が主になりますが、そのような技術の部分もあるのですね。
アメリカが逃げられないようにNATOのような機構をつくる
飯田)地政学の話をすると、クアッドの話がありました。日本、オーストラリア、インド、アメリカの連携と。ここに各国をさらに巻き込むことが必要となるのですか?
部谷)アメリカが逃げられないように、枠組みとして制度化する。いまは有志連合のような形ですが、これをきちんとした機構にするということが大事なのです。
飯田)それというのは、相互に協力する機構をつくる、「アジア版のNATO」のようなものということですか?
部谷)そのような機構も射程に入っていると思います。勿論、潰れる可能性もあるとは思いますが。
飯田)そこはアメリカが後押ししているところもありますか?
部谷)いまのところはあると思いますが、アメリカの最初のパターンはいつもこうなのです。最初は「中国に強く出る」と言うのですが、途中で中東で紛争があると、「あ、ごめんなさい」と言って、中東を優先するところがあります。ウォール街も基本的には中国と仲よくしたいと思っているので、いまはアクセルとブレーキの両方が掛かっている状態です。アクセルの方ではインテリジェンス機関の人たちが公然と「中国が脅威だ」と主張しているのですが、そのアクセルが弱まって、逆になる可能性もあるのです。そのためにも、2プラス2をやって「制度化して逃げられないようにする」ということが大事です。
飯田)なるほど。対アメリカに対してのヘッジになるということですね?
部谷)そうです。
アメリカの「対中強硬姿勢」は決して盤石ではない
飯田)ウォール・ストリートという話が出ましたが、民主党政権の、特に中道の人たちはウォール街と仲がいいですよね。
部谷)仲がいいですし、特に民主党のリベラルの人たちは、人権問題でインドが嫌いです。女性の人権問題では、インドでよく嫌な事件が起きているではないですか。彼らからすると、中国とインドは「両方とも人権問題があるではないか」と見えてしまうのです。特に副大統領のカマラ・ハリスさんはインド系ですが、インド系だからこそ、そういうことが気になるのです。
飯田)なるほど。
部谷)日本でも日系人の議員が日本人に厳しくすることがあるではないですか。
飯田)カリフォルニア選出の人がいましたね。
部谷)「お前は日系だろ」と言われると、逆にそうなってしまうのです。
飯田)アイデンティティとしてはアメリカ人だから、アメリカ人の人権を大事にするのだと。だから日本に厳しくするのだと。我々からすると、「そうは言ってもインドは民主主義の大国ではないか」と、同じではないかと思ってしまいますが。
部谷)そうなりますし、ジョン・ケリーさんは「中国とは温暖化問題で協力できる」と言います。
飯田)中国とは話はできるけれど、インドは頑なで話ができない。
部谷)そうなのです。そのような構造だということを認識しないといけません。アメリカは、いまは対中強硬ですが、決して盤石ではないということです。
アメリカ国内での中国を取り巻くパワーバランスを日本側に有利に持って行くことが必要
飯田)なるほど。この間日本に来たということもありますから、ブリンケン国務長官とオースティン国防長官のラインを見がちですが、そこだけではない。
部谷)議会もありますし。
飯田)最終的に判断するのはバイデン氏ということになるのですか? それともホワイトハウス内の力関係ということですか?
部谷)力関係ですね。それはどこも同じです。日本の首相もそうですし、トランプさんもそうでした。パワーバランスを見ながら有利な方につくという。
飯田)そうすると、日本としては、このようにインドネシアやオーストラリアとやったりしながら、ブリンケンさんやオースティンさんを支えて行かなければいけないということですか?
部谷)そうです。そのパワーバランスを何とかこちらに有利に持って行くことです。
飯田)そのようなロビーイングが重要になるのですね。
部谷)それを民間レベルでもやることが本当は大事なのでしょうね。
飯田)コロナでなかなか身動きがとりづらく、難しいところですね。
ASEAN諸国と一緒にバランスを取る
飯田)そこを考えると、決してアメリカも一筋縄では行かない。この梯子を外されたときの怖さというものがありますね。
部谷)日本だけが残されないようにしないといけません。日本が対中強硬に表向きに行くとまずい部分はそこなのです。いまは対中強硬をしないと、日本が梯子を外されるので難しいのですが、バランスを取りながら、というところです。
飯田)同じように板挟みになってしまいがちなASEAN諸国であるとか。
部谷)そうです。仲よくして、一緒にバランスを取るということに意味があるのです。
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