米ケリー特使の中国訪問とバイデン政権における「気候変動」の関係性
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月13日放送)に経済アナリストのジョセフ・クラフトが出演。米ケリー大統領特使が中国の上海を訪問するというニュースについて解説した。
アメリカのケリー特使が中国訪問へ
アメリカのバイデン政権で気候変動を担当するケリー大統領特使が、近く中国の上海を訪問することがわかった。バイデン政権発足後、政府の高官が中国を訪れるのは初めてのこととなる。
気候変動サミットに向けた準備~日米首脳会談には欠席か
飯田)ワシントン・ポストによると、ケリー特使は今週中に中国・上海を訪れて、温室効果ガスの排出削減をめぐり、中国で気候問題を担当する解振華特使と会談する見通しだということです。これはどういう意図ですか?
クラフト)これは、4月22日に予定している米国の気候変動サミットに向けた準備だと思います。排出量の多いアメリカと中国が協力をして、ある程度の道筋を示したいということだと思います。ここで気になったのは、16日には日米首脳会談があり、そこでも気候変動が話されます。そこで気になったのは、この日程でケリー特使が中国を訪れるということは、日米首脳会談には出席しないのだろうかということです。日米首脳会談に出席するためには、13日に出て、16日までに帰って来なければなりません。相当きついスケジュールですし、ケリー氏ももう70代後半ですから、その辺りのスケジューリングが気になります。
飯田)前々から言われていましたけれども、ケリーさんはもともとオバマ政権時代の国務長官でもあった。「中国に対して甘いのではないか」ということが言われているなかで、今回のように訪問が出ると「あれ?」という気がしますが。
日本も積極的な水準のCO2削減目標を示す~バイデン政権にとって最もアピールしたい気候変動
クラフト)気候変動に関しては、米中がある程度協力できる、数少ない分野です。そこに親中と言われているケリー氏が行って、「ここはうまくつくろうよ」という話をするのでしょう。私が政府関係者から聞いたのは、日本も今回の日米首脳会談で、いわゆるNDC(国が決定する貢献)、国が決めるCO2削減目標を相当踏み込んで、積極的な水準をアメリカに提示するのではないかということです。「日本も頑張るぞ」というところを示しながら、日米で気候変動をある程度動かして、22日の気候変動サミットで中国もそこに協力する。コロナの次にバイデン政権としてアピールしたいのは気候変動ですから、22日のサミットは、正直に言うと、16日の日米首脳会談同様、またはそれ以上に重要な会議なのだと思います。
飯田)去年(2020年)、菅さんが国会の演説のなかで2050年までに実質排出ゼロということを目標として出していますけれども、それ以上の具体的なところが出て来る可能性があるということでしょうか?
クラフト)そうですね。いま、2013年比で、「2030年までにCO2マイナス26%」と提議しているのですが、これを「40%、40%以上にする」という可能性があります。
「原発比率をどれだけにするのか、再生可能エネルギーをどれだけにするのか、化石燃料をゼロにできるのか」という議論がない限り2050年排出ゼロは不可能
クラフト)ただ、日本では外の目標値を積極的に出すのはいいのですが、問題は2050年に未だに日本はエネルギーミックスが化石燃料を輸入することになっているのです。化石燃料を輸入するということは、2050年に排出ゼロは無理です。原発比率をどれだけにするのか、再生可能エネルギーをどれだけにするのか、化石燃料をゼロにできるのか。この議論が国内でされない限り、2050年にマイナス40%でも、50%でも、ゼロでもあまり意味がない。国内のエネルギーミックス議論を早く進めていただきたいと思います。
飯田)その辺りに絡んで、原発のリプレース。新たにつくるということも含めての議連が12日に立ち上がったという話が出ています。小規模でかなり効率のよい新しい形のものも海外では研究されていますが、もともと日本も技術があったところです。
クラフト)まず、長期的にどれだけ原発を使うのかというところが決まらないと、いまからどのくらい投資すべきなのかわかりません。長期的なビジョンをまず政府が掲げ、それに基づいて、どういう投資、どういう形での原発政策を出して行くかが決まります。9月に選挙があるということで、「原発」という難しい議題は政府としては取り上げたくないという気持ちはわかるのですが、気候変動は急務です。難しい議題も国内で議論して、国民に理解を求めることは大事だと思います。
カーボンプライシング(CP)~収益の半分以上が排出権の収入であるテスラ
飯田)12日に自民党本部で「カーボンプライシング(CP)」に関する検討プロジェクトチームが立ち上がりました。炭素に関しての関税や炭素税、排出権の取引などということも出て来ました。プロジェクトチームの議論のなかでも出ましたが、使い方によっては、増税になって景気の下押しになるのではないかと。いまやるべきではないのではないかという話も出ました。
クラフト)そういう議論がある一方、これはいままで気候変動に消極的だった企業が課税されるので、より効率的な電力使用に動く起爆剤ではあると思います。ちなみに、テスラというアメリカの企業がありますが、テスラの収益の半分以上がこの排出権の収入です。
飯田)そうなのですか。それを売って、収入にしている。
クラフト)あの会社の利益のほとんどが車ではないのです。日本の企業も、エネルギー削減の効率化をすれば、収入にもつながるのです。効率の悪い企業は課税にもなるし、逆に効率のよい企業は、排出権を売れるので、収入として得られるのです。
ESGファンドの定義をはっきりさせて、区分けをする必要がある
飯田)マーケット全体として見て、環境に配慮している会社の株を組成してファンドをつくるということも出て来ています。今後、株式を売り買いするにあたっても、重要な指標になるのでしょうか?
クラフト)ESG(環境・社会・ガバナンス)投資というようなファンドがつくられて投資が向いているのですが、難しいのは、何が基準でESGなのか。「俺たちはESGだ」と言って、そういうファンドに入れてもらおうという会社が多いのです。排出権の制度もそうですけれども、今後、本格的に気候変動問題に携わるには、排出権の制度を具体化し、ESGファンドの定義をもっとはっきりさせて、区分けをして行く必要があります。いまはその初期段階ではないかと思います。
飯田)いまは業界のなかでの排出量のシェアなどで判断されるものが、絶対的な量で判断されるようになると、メーカーの多い日本は不利になる。これは「日本叩きに使われてしまうのではないか」という怖さがありますが。
クラフト)これから国際的に、気候変動サミットでも「国際的なルール、基準を設けて、みんな同じルールでやりましょう」として行くと、日本の企業にとってもプラスですし、日本叩きということにはならないと思います。逆に、そういう問題に積極的でない会社は取り残されることになるので、国際ルールづくりはいいことだと思います。
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