“敵”中国の存在がアメリカの分断を止めて強くするという「皮肉」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月27日放送)に神戸大学大学院法学研究科教授・NPO法人インド太平洋問題研究所理事長の簑原俊洋が出演。白人警官から暴行を受け死亡した黒人男性の遺族とバイデン大統領が非公開で面会したというニュースについて解説した。

“敵”中国の存在がアメリカの分断を止めて強くするという「皮肉」

中国は2020年10月14日午前、広東省深セン市で深セン経済特区〈SEZ〉設置40周年を祝う盛大な大会を開いた。習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委員会主席がこれに出席し、重要演説を行った。〔新華社=中国通信〕写真提供:時事通信社

アメリカ黒人男性の暴行死から1年~バイデン大統領が遺族と面会

アメリカのミネソタ州で、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官の暴行を受け死亡した事件から、5月25日で1年を迎えた。この日、バイデン大統領はホワイトハウスでフロイドさんの遺族と非公開で面会し、その後の声明で人種差別解消へ「真の変化」が必要だとして、人種差別などを禁じる警察改革法案の議会通過を訴えた。

飯田)この事件をきっかけに、「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大事だ)」という人種差別抗議デモが全国に拡大したということがありました。「分断」などと言われますけれども、アメリカ社会のありようは深刻さを増しているのですか?

アメリカで黒人として生活することの困難さ

簑原)ずっと続いているという感じです。私はアメリカで育ちまして、高校のときのクラスメイトにも黒人がいました。それほど多くはなかったのですが、彼らの話を聞くと、街を車で走っているとすぐ止められると言うのです。

飯田)警官に?

簑原)警官に。特に運転が荒っぽいなどということではなく、ただ単に黒人だからなのです。私のようなアジア系や白人は止められることはありませんので、それだけでプロファイリングされてしまう。黒人がアメリカで生活するというのは辛いのだろうなと、いろいろな困難は理解しなければいけないと思います。

飯田)そこで止められるということを頭に入れながらだと、「保険は大丈夫だったかな」とか、「免許証はちゃんと持ったよな」とか、いちいちドキドキしながら生活しなくてはならない。

簑原)警察の前では完璧にいなければいけないと、彼らも構えてしまいますよね。

飯田)そのことは親からも教えられながら育つということですか?

簑原)当然そうです。「逃げたりすると撃たれて死ぬよ」と。それは親が子どもに必ず話すことだと聞いています。私はそんなことはまったくありませんでした。いまはアジア人に対する事件が問題になっていますけれども、次元が違う話です。

人種問題において完全性を求めようとしているアメリカ

飯田)下敷きとして、もともと公民権運動などで法律もできたことはあったけれど、染み付いたものはなかなか取れないということですか?

簑原)終わっていないということです。それこそ南北戦争で奴隷制がなくなって、公民権運動は1960年代ではないですか。

飯田)南北戦争が1860年前後ですよね。

簑原)100年くらいかけて公民権法が成立して、それから約60年経ち、やはりアメリカという国は人種問題において完全性を求めようとしている。まだ途中です。ただ、「己をよくしよう」という姿勢は評価すべきだと思います。不完全なのだけれど、その不完全性を認めた上で、よりよいものにして行くと。紆余曲折あるのですが、でも目指すのはよりベターな社会と国です。国家のあり方です。

キャンセルカルチャーの存在もあり、バランスを取ることが難しい

飯田)紆余曲折のなかに、「キャンセルカルチャー」と呼ばれるものがあり、「黒人擁護をしない人たちは差別主義者だ」という、変換のような論調で批判されてしまう。それに白人の方たち、特に中間層の男性が反発しているということも報じられていますが、この辺りはどうですか?

簑原)アメリカの白人の友人に話をしたら、彼は「いまは白人であるということがかなり辛い」と言っていました。

飯田)今度はそちらに。

簑原)白人であることによって、「人生がすべてスムーズに進んだ特権階級」だと思われてしまう。だから、マイノリティの部下たちに話す際には、ものすごく注意して話していると。少しでも何か言うと、問題発言になってしまうのだそうです。「そういう辛さもあるのか」と思いました。

飯田)今度は「女性の権利を」と言うと、男性であることがダメだなど、いろいろなところにキャンセルカルチャーが浸透してしまって、アメリカでは深刻な問題になっているという話もあります。

簑原)物事は加減ですよね。振り過ぎてはいけない。そのバランスを失うと、社会としてはよくないのかなと。フェミニズム運動も、フェミニズム研究者は圧倒的に女性が多いのです。アメリカ人の男性である友人がフェミニズム研究をやっていたのですが、男性がフェミニズムを研究して何が悪いのかと思うけれど、女性のフェミニスト研究者からバッシングされたのです。最終的に彼は研究テーマを変えました。もうやっていられないと。

“敵”中国の存在がアメリカの分断を止めて強くするという「皮肉」

米上下両院合同会議で演説するバイデン大統領(中央)(アメリカ・ワシントン)=2021年4月28日 AFP=時事 写真提供:時事通信

振子の揺れを真ん中に戻したバイデン大統領

飯田)学問として考えると、当事者としてやる人たちもいて、一方で客観視する白人の方たちも本来なら必要ですよね。

簑原)客観性は大事だと思いますので、両方あっていいと思います。

飯田)アメリカというのは、振れて振れて真ん中を見極めるような形になる。

簑原)振り子ですね、その通りだと思います。大統領を見てもそうではないですか。オバマ大統領は左振り、トランプ大統領が思いっきり右振り。バイデン大統領は、振り子を真ん中に戻しているという意味では評価できます。例えばサンダースさんやウォーレンさんという候補がいましたけれど、彼らだったら、また振り子が左に振れて、そのうち振り子が取れてしまう。

飯田)社会がバラバラになってしまいます。

簑原)そういうことです。

「多数から1つ」がアメリカのモットー~常に「対外的な危機」がアメリカを1つにして来た

飯田)バイデンさんは就任演説のときにも、「ユニティ」という言葉を使っていらっしゃいました。そこへ至る道というのは、振り子が両方に振れてしまったあとで、狭い道な気がするのですが、どうやって行くと考えられますか?

簑原)実際に「ユニティ」というのは無理なのです。アメリカという国は歴史的に見て、常に分断なのです。アメリカになる以前の、イギリスのコロニーだった時期からバラバラでした。

飯田)それぞれの植民地によって。

簑原)バラバラで始まっている国なので、国家のモットーが「E Pluribus Unum」という、「多数から1つ」ですよね。最初からバラバラだということは認識しているわけです。そのバラバラなアメリカを最終的に1つにするというのは、多くの場合は対外的危機なのです。スペインとの米西戦争が1898年にありましたが、これで米墨戦争での分断が治癒された。太平洋戦争はいい例です。当時アメリカはかなり分断されていましたので、真珠湾が攻撃されて、1つのアメリカになったわけです。

飯田)大恐慌でバラバラになってしまったころ。

中国の存在が分断されたアメリカを1つにして強くする

簑原)すごい格差がありました。いまの時代は皮肉な形ですが、中国の存在がアメリカをまた強くするということです。アメリカを1つにするのが中国で、中国はアメリカにとって必要な存在なのだと思います。

飯田)大きな対立相手があると、1つにまとまる。

簑原)アメリカをダメにするのはアメリカ人なのです。自己免疫疾患のような感じで、それをストップさせるのが外からの脅威を与える存在なのです。

飯田)冷戦のあとは、巨大な敵がいない時代が続いて、バラバラになって来た。

簑原)冷戦終焉後のアメリカは敵がいなくなり、歴史の終焉などと言って喜んでいた。

飯田)米西戦争のあと、約30年経って太平洋戦争があった。そして冷戦が終わり、30年が経ち、新たな新冷戦が来た。これはサイクルなのですか?

簑原)サイクルはあると思います。繰り返されるわけではないのですが、韻を踏むのだと思います。やはりパターンがあるのです。

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