【池袋暴走事故 禁固5年の実刑判決】飯塚幸三被告が「逮捕」でなかった理由

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東京池袋で一昨年2019年4月、暴走した車に松永真菜さん(当時31歳)と長女莉子さん(当時3歳)がはねられて死亡した事故の刑事裁判は、今日9月2日午後東京地裁で、自動車運転処罰法違反の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長飯塚幸三被告(90)に禁固5年の実刑判決を言い渡した。検察は禁錮7年を求刑し、被告側は無罪を主張していた。

2019年11月に飯塚被告(※当時容疑者)が過失運転致死傷の疑いで書類送検されたことを受けて、ニッポン放送「ザ・フォーカス」では飯塚被告が“逮捕”されないことに批判が相次いだことを取り上げ、中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也氏がこの事象を解説していた。これをもとにした「ニッポン放送 NEWS ONLINE」掲載記事を、再び公開する。(初出:2019年11月12日 ※肩書等は当時のまま掲載 ※初出時は「ニッポン放送しゃベル 」掲載 ※掲載写真は一部変更)

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(11月12日放送)に中央大学法科大学院教授・弁護士の野村修也が出演。2019年4月、東京・池袋で車が暴走し11人が死傷した事故での飯塚幸三容疑者の書類送検について解説した。

事故現場で実況見分に立ち合う旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(中央)=2019年6月13日、東京都豊島区 写真提供:時事通信社

画像を見る(全5枚) 事故現場で実況見分に立ち合う旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(中央)=2019年6月13日、東京都豊島区 写真提供:時事通信社

池袋暴走事故、元院長を書類送検

東京・池袋で今年2019年4月、高齢者が運転する車が暴走し2人が死亡、9人が怪我をした事故で、警視庁は旧通産省・工業技術院の飯塚幸三元院長(88)を過失運転致死傷の疑いで書類送検した。ブレーキとアクセルの踏み間違いが原因だったとしている。

森田耕次解説委員)この事故で警視庁は12日、自動車運転処罰法違反の過失致死傷の疑いで、運転していた旧通産省・工業技術院元院長の飯塚幸三容疑者(88)を書類送検しました。起訴を求める厳重処分という意見をつけています。およそ7ヵ月に及ぶ捜査で車の機能に異常はなく、アクセルとブレーキの踏み間違いが事故原因だと断定しました。警視庁は飯塚容疑者の認否を明らかにしておりませんが、捜査関係者によりますとこれまでの事情聴取に当初は「ブレーキが利かなかった」と話し、その後「パニック状態になり、ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性もある」などと説明しているということです。事故の背景としては、片足の具合が悪い上に手足の震えや筋肉のこわばりが起きる「パーキンソン症候群」に罹患していた疑いがあったことも判明しました。医師から「運転は許可できない」と伝えられていたということなのですね。この事故をめぐっては、飯塚容疑者が逮捕されないということに批判が相次ぎました。

野村)そうですね。今回、送検という形になりましたが、これまでは逮捕されずに任意で事情聴取を続けてきたという形になっています。これに対して多くの方は特別扱いなのではないか、という言い方をしてきました。ただ、我々法律家の観点からいくと、逮捕という形で捜査しなければいけないときには理由が2つあります。1つは逃亡する恐れがある場合です。それから、証拠隠滅の恐れがある場合。これが認められるのであれば拘束して捜査するということになっているのです。今回、事故が起こった後に飯塚容疑者は入院していました。

森田)本人も怪我をしていました。

野村)ですから、その時点で逃亡の恐れがないということははっきりしていましたし、既にその間にドライブレコーダーなど事故の証拠になるものは全部警察の方で抑えていましたので、それ以上の証拠隠滅の恐れもないだろうということで、在宅のまま捜査を続けてきたのです。ちょっと時間がかかったので、場合によっては送検されないのではないかという(世の中の)思いが批判を招いていたのかもしれませんが、慎重に捜査してきた理由というのは最初「機械に不具合がある」「ブレーキが利かなかった」と本人が証言していたので、そこを慎重に調べてきたのだと思います。

東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎

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危険運転致死傷罪ではない理由

森田)ただ、この送検の容疑は自動車運転処罰法違反。罰則の重い危険運転致死傷罪は適用しませんでしたね。

野村)理由の1つに足が不自由だということがあったので、それにも関わらず運転したことが危険運転になるのではないかという問題があります。それが直接の原因だったかどうかもずいぶんと調べたのではないかと思います。もし本当に運転ができない状態なのに無理をして運転をして事故を起こしたのであれば、それは危険運転だと見られた可能性があるのですが、運転は可能だったということから直接の事故原因ではなかったと見ているのです。

森田)この危険運転致死傷というのは、暴走が故意なのかどうかという辺りで適用の条件が厳しくなっているようですね。

野村)今回100キロ近く出ていたというのは事実なのです。これをわざと暴走させていたのならば危険運転ということになりますが、踏み間違いという過失であったのであれば危険運転まではいかないという判断をしているのだと思います。

「軽い罪で終わらせない」  飯塚幸三元院長の書類送検を受け記者会見する男性(中央)。東京・池袋の暴走事故で妻の松永真菜さんと長女莉子ちゃんを亡くした=2019年11月12日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ 写真提供:共同通信社

「軽い罪で終わらせない」  飯塚幸三元院長の書類送検を受け記者会見する男性(中央)。東京・池袋の暴走事故で妻の松永真菜さんと長女莉子ちゃんを亡くした=2019年11月12日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ 写真提供:共同通信社

飯塚容疑者送検を受けて遺族が会見

森田)一方、この事故で自転車に乗っていた松永真菜さん(31)と長女の莉子ちゃん(3)が亡くなったのですが、先ほど松永さんのご主人が東京都内で記者会見を行いました。

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松永さん)この7ヵ月間は2人がいなくなってしまった苦しみ、悲しさと向き合い続け、常に葛藤し続ける日々でした。私はそのなかで、2つのことを糧に生きてきました。1つ目は、2人のためにも今後の社会のためにも、今回の事故が軽い罪で終わらないように活動すること。2つ目は、真菜と莉子のような交通事故による被害者、私たちのような遺族が出ないように活動すること。その2つのために自分のできる限りで活動を行い、さまざまな方にご協力いただきました。ここに至るまで、励まし、支えてくださった皆様、本当にありがとうございました。

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森田)松永さんのご主人は、飯塚容疑者の厳罰を求める署名活動を行い、およそ39万人分の署名を東京地検に提出しているのです。

野村)今回は書類送検ということになっていますが、警察側としては厳重な処分を求めるという意見をつけています。これは起訴すべきだという判断をしているのです。これから検察庁の方でもう一度取り調べをして、起訴するかどうか決めることになるわけなのです。最終的には何らかの刑に処されるということは言えるでしょう。

森田)略式起訴で、罰金なんていうことになってしまう可能性はありますか?

野村)それはこれから検察官が取り調べてどれくらいの量刑が必要なのか判断すると思います。略式ではなくきちんと法廷を開いて懲役、あるいは執行猶予がつくかもしれませんが、そういった厳しい処分は交通事故の場合でも可能性があります。

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