コロナ禍で必要に迫られた憲法改正 ~各党で分かれるその姿勢
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月20日放送)に数量政策学者の高橋洋一が出演。衆院選の争点の1つとなる憲法改正について解説した。
コロナ禍で必要に迫られた憲法改正
自民党は衆院選の公約のなかで憲法改正について、「時代の要請に応えられる憲法を制定するため力を尽くす。『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』の基本原理は堅持し、憲法改正への取り組みをさらに強化する」としている。
飯田)選挙のたびに争点だと言われながらも、70年以上動いて来なかった憲法改正ですが。
高橋)動かなくても不都合がなければいいのですが、最近は「不都合が目立っている」というのが私の認識です。
飯田)やはりコロナへの対応の部分ですか?
高橋)そうですね。世界では、コロナ禍での体制を「マーシャル・ロー」と言って、戒厳令のような言い方をします。要するに戦時体制と同じになるのです。何が特色かと言うと、海外では私権制限があって、ロックダウンされているときに外を歩いていたら罰金なのですよ。
飯田)お巡りさんが取り締まっているからですよね。
高橋)日本は「自粛」でしょう? 大きな差がありますよ。
各党で分かれる憲法改正についての姿勢
飯田)憲法改正について、条文を改正するということで、自民党は「改憲草案」というものを出しています。公明党は「9条1項、2項は堅持し、自衛隊の明記については慎重に議論する」という姿勢です。
高橋)そうですね。
飯田)いまおっしゃった緊急事態の私権制限に関しては、「個別法で対応する」という形で、与党のなかでも割れております。立憲は、かつての安倍政権下では「改憲に反対だ」としていましたけれども、いまは「国民にとって真に必要な改定を積極的に議論、検討する」ということになっています。共産党は「基本的に護憲」、維新は「統治機構改革や教育無償化などで改憲」としています。国民民主は「自衛隊任務に情報収集などを明記する法改正」ということです。また、れいわや社民党は、「憲法は護憲」で行くと。そして「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」は記述がありません。
「私権制限を個別法で対応」はできない ~憲法で保障されている移動の自由を個別法で破れば立憲主義ではなくなる
高橋)立憲民主党は「積極的議論」と言うのであれば、憲法審査会をやったときにどうして出て来ないのかなと思いましたけれどね。言葉では積極的議論と言うのだけれど、実行はしていません。
飯田)憲法審査会も、慣例で毎週木曜日に開かれるだけになってしまっていますし。
高橋)「議論したくない」ということなのでしょう。こういうときに、姿勢がはっきり出ますね。緊急事態条項の「私権制限を個別法で対応」ということであれば、とっくにやっています。できないから、いま、こういうことになっているのです。
飯田)今年(2021年)の頭に感染症法等々の、あるいは新型コロナに関する特措法の改正をやりました。そこでも議論になったけれども。
高橋)できないのですよ。
飯田)やはり憲法の壁に突き当たるのですか?
高橋)「移動の自由」は憲法で保障されていますから。それを個別法で破ると、立憲主義ではなくなってしまう。個別法で憲法を破ってしまうのはまずいのですよ。立憲民主党ならば、そのロジックがわかるはずなのですけれどね。
飯田)そうですね。
高橋)なぜか、ここは「個別法で」となる。個別法でやると言っても、民主党政権のときですらできていないのですよ。自分で政権を獲ったときもできていないのに、「それは無理でしょう」と私は思いますけれど。
飯田)民主党政権の時代に、新型インフルエンザ等々の特別措置法の改正があって、新型インフルが流行したあとに「不十分だったよね」ということでやろうとしたけれども。
高橋)できなかったのです。要するに個別法では、私権制限などできません。憲法には「移動の自由」が書いてあるのです。書いてあるときには、制限するところに「憲法上の根拠規定」がないと無理だと思うのが普通の考え方です。
飯田)憲法上の根拠規定がないと。
高橋)それがなくてもいいのであれば、憲法の規定はすべて個別法によってひっくり返すことができるではないですか。それはまずいですよ。
憲法上の規定がないのですべて「お願いベース」になる
飯田)そうすると、 最低限でも憲法解釈を変更しないといけないし、それだけでは足りないということですか?
高橋)憲法には「公共の福祉」が書いてあります。公共の福祉の解釈で、可能は可能かも知れませんけれど、それであれば、すっきり書いた方が簡単ですよね。
飯田)そうですよね。明記した方が。
高橋)公共の福祉と言うときには、「個別法で対応する」というような法文を入れれば、それはそれでいいのですよ。
飯田)なるほど。
高橋)何もなしでやれなくはないと思いますけれど、それでしたら、はっきり書いてしまった方が簡単です。でもそういう議論がないのですよ。「鎖国しろ」とみんな言ったでしょう。
飯田)入国を制限しろと。
高橋)鎖国というのは、移動の自由に反するからできないのです。いまの検疫法ではできません。検疫法は憲法の範囲だから、移動の自由を前提として書いてあるのです。ですので、そこはみんな「お願い」になるのです。すべて、お願いだったでしょう。
飯田)そうですね。
高橋)だから仮に無視して移動しても、罰金は取られませんし、拘束もされませんよね。そういうやり方では、そこが難しい。
飯田)結局、来たところで制限をかけることができないから、もっと遡って、例えば海外の出発地で「PCR検査を受けていません」と言うと、「そこで乗せない」というちぐはぐな対応になってしまう。
高橋)こういう場合は鎖国でき得るような法律が必要だと思いますけれど。それすらないから、いろいろなことに対応しなければいけないので、ちぐはぐになるし、すべて完璧にできないですよね。
飯田)憲法の規定がないのでお願いベースになって、空気で縛るようなことになってしまう。
高橋)法律の規定を設けて、「こういう状況のときにはこういう制限をする」とはっきり決めておいた方がいいです。
飲食店などに関しても憲法上の規定が必要
高橋)営業の自由なども憲法に書いてある話だから、ある程度、憲法上の規定があった方がいいと思います。対象業種が少ないから、ある程度みんなお願いしても何とかなってしまう。でも広く国民一般に移動の自由を制限するとか、鎖国のようなことをやるのでしたら、憲法上の規定がないとできないということが、今回のことでわかったのではないですか。
飯田)営業の自由そのものは、条文に明確に書いてはいないのですが、「基本的に導き出せるよね」というのが常識的な解釈になっていると。これは対象業種が狭いから、公共の福祉との絡みのなかで公共の福祉が勝っているよね、というような解釈が暗黙的にやられているということですか?
高橋)免許業種が今回、いろいろ指導を受けるわけです。
飯田)飲食店や、飲食店にお酒を卸す卸売業者にまで関わる話になりましたね。
高橋)飲食店やお酒の販売業者には、基本的に営業免許があるから、言われれば従わざるを得ないのです。営業免許は更新しなくてはならないでしょう。更新時期に意地悪されたら困るので従うのではないでしょうか。 お酒の販売も免許が必要だから、税務署の指導ができるのですよ。
飯田)そうですね。
高橋)「免許を取り上げるぞ」と言外に言われたら、ほとんどの人が従いますよ。でもそれはフェアではないですよね。
飯田)非公式な権力行使になりますよね。
憲法改正には両院で3分の2以上の賛成が必要
高橋)コロナ禍のようなときは「戦時体制」という認識があれば、こういう話ができるのですが、いまは「戦時体制」と言っただけで怒られてしまうではないですか。「有事」と言うと怒られてしまうとか。言葉も慎重に扱わなければならず、大変ですよね。
飯田)でも、コロナを目の前にして、あるいは日本の周りの状況なども考えて、世の中の空気も変わって来たような気がします。立法府はどうでしょうか、変わっていないですか?
高橋)立法府が変わりたくても、憲法改正ができないと先へ進まないのですよ。立法府ですべてできるようにしたら簡単なのですけれど、憲法改正は国民の話なのです。
飯田)そうですね。
高橋)立法府というより、最後は国民投票をするでしょう。そこで国民の話になるのだけれど、半数以上に行くかどうか。例えばそこへ行くまでに、衆参で3分の2以上の賛成がないと発議できないではないですか。
飯田)そういうことですね。
高橋)この規定は他の国にはありません。発議するときに3分の2以上などというのは、ほとんど無理ですよね。
飯田)その辺りも、かつては議論をしようとしましたけれど、「それは禁じ手だ」というような批判も出ました。
高橋)「このままでいいのですか?」と思いますけれど。コロナ禍の状況は戦時期に似ているのですよ。有事対応を含めて、本来は議論したいわけです。今回うまく対応できなかったことを、「自分の党は対応します」と言ってくれた方がわかりやすいと思います。
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