ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月20日放送)に元航空自衛官で評論家の潮匡人氏が出演。北朝鮮の労働新聞が「成功した」と報じた潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験について解説した。
北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイルを発射
北朝鮮の労働新聞は10月20日、北朝鮮の国防科学院が19日に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行い、成功したと報じた。一方、日本政府は2発発射されたと分析しており、このうち1発は変則軌道で約600キロ飛行したとのことだ。
発射されたのは「自衛2021」で展示されたSLBMか
飯田)19日に発射され、その第一報という形でありました。北朝鮮の狙い、また発射されたミサイルについて、元航空自衛官で評論家の潮匡人さんに伺います。北朝鮮の労働新聞がWeb版に、記事とともに写真も出していますが、どのようなものでしょうか?
潮)金正恩委員長も視察をした、彼らが「自衛2021」と名付けている北朝鮮の兵器展示会のようなものがありました。SLBMのコーナーもあり、そこにいちばん小さく、専門家でも初めて見るタイプのものがありましたが、形状からもそれが使われたのではないかと思います。
飯田)日本政府の分析で「変則軌道」と言及がありましたが、翼のようなものが付いているのですか?
潮)写真のなかに翼のような小さなものが映り込んでいるということですので、それらを利用して、彼らの表現で言う「側面軌道」や「滑空跳躍軌道」、つまりは上下左右、自在に動かすことができるものだと思います。彼ら自身が「進化した操縦誘導技術が導入された新型だ」と言っているので、日本政府も認めている通り、変則的な動き方をしたのだろうと思います。
発射を事前に探知できず、従来の弾道ミサイル防衛網を突破する変則的な軌道で落下
飯田)そうすると、迎撃が非常に難しいものと考えていいですか?
潮)もちろんそうですね。20日の労働新聞を通じた北朝鮮側の発表を踏まえると、潜水艦から発射されたのだろうと分析せざるを得ないと思います。海中から突然発射されることになりますので、日本政府が発射を事前に探知するのはほぼ不可能に近い、絶望的だということになります。
飯田)事前に探知することはできない。
潮)その上、従来の弾道ミサイル、「放物線を描いて落下して来るものを迎撃する」という設計思想を基につくられた、これまでの弾道ミサイル防衛網を突破するような、変則的な軌道で落下して来るのだろうと思います。
攻撃力も含めた抑止力の向上を図らないとならない
飯田)これに対して日本はどうするかというところで、岸田総理も敵基地攻撃能力などの検討について言及しましたが、それで足りるものですか?
潮)そうした方向性を私は20年前くらいから、番組も通じて申し上げて来ました。しかし、昨日(20日)の発射を踏まえて、総理や防衛大臣がそうしたご発言をされていることは、正直あまりピンと来ていません。なぜならば、日本政府も認めている通り、潜水艦から発射しているわけです。
イージス・アショアでなければSLBMの対応はできない
潮)敵基地というのはどこですか? 「日本海全部ですか」ということになるのです。言葉のネーミングを考え直すのも含めて、抑止力を高めなければいけないということだと思います。いわゆる盾としてだけでなく、矛、つまり攻撃力も含めた抑止力の向上を図らなければならず、危機感を証明されたものだと受け止めざるを得ません。しかし、失礼ながら、日本政府はこういうことが行われるときに、いちばん有効な陸上配備型のイージス・アショアを捨ててしまったわけです。
飯田)イージス・アショアを。
潮)なぜ今回、それが再び致命的なことになるのかと言うと、潜水艦から発射されるわけですので、先ほど申し上げた通り、事前に発射の兆候を探知するのは事実上不可能です。したがって、対処するには24時間365日、ずっと警戒していなければならないわけです。
飯田)24時間。
潮)海上自衛隊の、いわゆるイージス艦から発射されるものだということであれば、ずっとイージス艦を動かしていなければなりませんし、船を動かすことができたとしても、船を動かす人間は24時間365日は働けません。そうなると、やはり陸上において24時間365日、いつでも警戒ないし対処できる状態が必要だということで、導入が決断されたものをやめてしまった。それが昨日の発射によって、「やはり問題であった」ということになるのではないかと思います。
SLBMの研究段階にも至っていない日本
飯田)スタジオには高橋洋一さんもいらっしゃいます。
数量政策学者・高橋洋一)SLBMは韓国にもありますよね。
潮)そうですね。
高橋)日本はこれをどのように研究しているのですか?
潮)まだ研究する段階にも至っていないというところだと思うのです。日本政府としてはSLBMのタイプ、つまり潜水艦から発射されるかどうかはともかくとして、そもそも弾道ミサイルを保有するかどうかという議論すら、まだ地に足がついていないという状態です。
コミック『空母いぶきGREAT GAME』の内容のような状況も
飯田)聞けば聞くほど、これは寒いぞ、という感じにもなります。一昨日(18日)、津軽海峡をロシアと中国の艦艇が10隻あまり通りました。これが、潮さんが原案協力されている『空母いぶきGREAT GAME』というコミックの内容と近い状況になっています。シナリオとして、こういうことも想定されていたのですか?
潮)そうですね。見事に未来予測を当てたとも思いますが、漫画よりも現実が先行するような形で、嬉しいような、困ったような気持ちです。実は海峡の中央部分は公海が残っているわけです。
飯田)公海が。
潮)ここの領海を24海里にまで広げることはできるのですが、広げてしまうと南北両方が領海であるということになってしまい、いろいろと国際法上、複雑な問題が発生します。端的に申し上げると、「非核三原則」の持ち込ませないというところに影響します。領海の通過・通行も認めないということになると、それこそアメリカの核を搭載した、SLBMを載せている原子力潜水艦が通れないということになってしまうので、そういう措置になっているのだと思います。
飯田)陸上自衛隊演習等をやっていて、「南西シフト」とずっと言われているなかで、後ろから突き付けられたようにも見えたのですが、そういう意図はあるのですか?
潮)実際にこれまで中国の台頭ということで、そういう流れがあったわけですけれども、私が現役のころは、ソ連、ロシアが念頭にあったわけです。それが今回の動きのように、ロシアと中国が連携して日本の安全保障状況を悪化させているということだと思います。
無関係ではない ~中国船の津軽海峡通過と北朝鮮のSLBM発射
飯田)そこと、潜水艦発射弾道ミサイルを撃った北朝鮮の動きについて、タイミングが合い過ぎているように思えますが、これを結び付けるのは陰謀論ですか?
潮)極超音速ミサイルなどについては、中国が撃ったものと北朝鮮が撃ったものの形が非常に似ているということもありますので、実際にどういう連携をしているのかはともかく、無関係ではないと思います。
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