ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月28日放送)にAPI主任研究員の相良祥之が出演。岸田総理がASEAN各国との首脳会議にオンラインで出席したというニュースについて解説した。
岸田総理が中国抑止に向け、ASEANに連携強化呼びかけ
岸田総理大臣は10月27日、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)各国との首脳会議にオンラインで出席し、海洋進出を強める中国の抑止を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向け、連携強化を呼び掛けた。また、総理は続けてASEAN+3(日中韓)首脳会議と、東アジアサミットにも出席。サミット終了後、東シナ海、南シナ海の情勢などについて、「毅然とした日本の立場を説明した」と記者団に語っている。
飯田)ASEANとの関係性が重要だということは、前々から言われていますけれども、今回はどこがポイントになりますか?
相良)毎年、この時期はASEANの首脳会合があり、それに合わせて日本も参加しています。また、今回のように「ASEAN+3」という形で日中韓で参加し、「東アジアサミット」を開催するという動きがあります。中国が出て来ているなかで、ASEANや東南アジアの国々は、自由で開かれた、ルールに基づくインド太平洋地域を実現して行くために、日本と価値観も共有しています。そういう戦略的なパートナーですので、このような会合で、首脳レベルで認識を合わせることは重要な機会だと思います。
重要なことは「東南アジアの国々に踏み絵を踏ませない」こと ~中国に対して
飯田)中国に対しては、ASEAN諸国でも温度差があると言われています。そうは言っても、ある程度一枚岩にするために、日本はどのようにアプローチすればいいのでしょうか?
相良)東シナ海や南シナ海、台湾の問題について、ASEANとしては踏み絵を踏まされるような形になることは避けたい。日本としても、「東南アジアの国々に踏み絵を踏ませない」ということは重要だと思います。AUKUS(オーカス)についても、東南アジアは一枚岩ではありません。むしろ「太平洋地域を不安定にさせる」という声をあげている国もありますから。
飯田)インドネシアがそうですよね。
相良)マレーシアもそうです。自由で開かれたインド太平洋は、「中国を排除するものではない」ということが、日本が提唱して来たところです。これをアメリカにもきちんと打ち込んで、アメリカと中国のなかでの、東南アジアにおける日本の存在感を示すということは、引き続き重要だと思います。
日本がアジアで存在感を示す「ワクチン支援」
飯田)そのためにも、自由で開かれたインド太平洋という、ある意味での価値観で旗を立てるというのは、「誰でも入って来られますよ」と言える部分で、うまい考え方なわけですか?
相良)そうですね。オープンで、誰かを排除するものではないということです。とは言え、そこで日本が存在感を示すためには、昔のようにODA1本というのはなかなか難しいのですが、ここで日本が貢献しているのがコロナの支援だと思います。
飯田)コロナの支援。
相良)インドネシアやベトナムには400万回分ずつくらい、ASEAN全体では1600万回分以上、ワクチンを供与しているようです。台湾にも以前、アストラゼネカ社のワクチンを供与していましたけれども、これも420万回分くらい出しています。日本はこれまで20ヵ国・地域に3000万回分以上、ワクチンの現物供与をしているのです。そういう日本のワクチン外交に関して、1つの大きな柱が東南アジアになって来ています。
飯田)あまり報じられていないですけれども、3000万回分も外に出していたのですね。
ワクチンの供与大国になりつつある日本
相良)ワクチンの供与大国になりつつあると思います。アメリカ、インドは当初かなり出していて、6600万回分くらいあると思います。それから中国。日本はそれに次ぐくらいのところまで来ていると思います。
飯田)中国の次くらい。
相良)ワクチンの現物供与に合わせて日本がこれまでやって来たのが、コールドチェーン、超低温のまま運ぶということです。日本の外務省はこれを「ラスト・ワン・マイル支援」と言っています。
1日に100万回以上ワクチン接種を行った日本のノウハウを世界中が求めている
相良)「ワクチンを届けて人の腕まで打つ」という支援を、東南アジアや世界中でやっていますけれども、現在ワクチンは余って来ているという状況があります。ファイザー、モデルナのワクチンはマーケットにかなりあるので、これをいかに打たせるかということが重要になります。そうしないと有効期限が切れてしまうという問題も出ているのです。日本は現物供与もするし、ラスト・ワン・マイルまでコールドチェーンの支援もする。これによって、ますます日本の重要性が高まって来ると思います。
飯田)日本では相当報道されましたが、かなりの低温で運ばなければならない。しかも物流が伴います。ワクチンを打つお医者さんや、患者さんをどう連れて来るかなど、いろいろな状況をすり合わせるということは、日本人が得意とするところではあります。
相良)日本は「1日100万回」というところを目指して、130万回、140万回を1日に打って来ていますから、こういうノウハウを世界中が求めています。
「ASEAN感染症対策センター」への支援
相良)ASEANと連携する意味がもう1つあります。「ASEAN感染症対策センター」というものを日本が支援・設立して、ASEAN各国の公衆衛生担当者向けの研修を始めています。コロナもそうですが、東南アジアというのは、SARSやMERS等、多くの感染症の被害を受けて来ています。より備えを強めて対応するために、日本がASEAN感染症対策センターを支援しているという動きにも注目できると思います。
次の感染症にも備えられるようにする
飯田)ASEANとの関係性や、中国を見据えてとなると、抑止という言葉にも表れる通り、安全保障面など、どちらかと言うと軍事面を考えがちです。しかし、そういうソフトパワー支援もたくさんやっているのですね。
相良)東南アジア向けの対コロナ支援は歓迎されていますし、ベトナムなどからも、中国のワクチンだけではなく「日本のワクチンが欲しい」という声も前からあり、400万回分ほど出しています。「感染症は国を超える」ということを今回、まざまざと見せつけられましたので、ASEAN感染症対策センターで次の感染症にもうまく備えられるようにすることが必要です。
飯田)ASEAN感染症対策センターで。
相良)あとは、ワクチンや治療薬を早く使えるようにするためにも、国際共同治験、臨床試験も大事です。日本にとって、アジアのパートナーとして東南アジアはとても重要であり、まさに戦略的パートナーなのだと思います。
感染症対策、健康危機管理の上でも重要なパートナー
飯田)今後の創薬に関してや、日本産業のことを考えても、ここと連携するのは大事なのですね。
相良)今回、日本はワクチン接種のスタートが遅れたということがありましたけれども、実はファイザーとの基本合意は、日本はアメリカやイギリスと同じくらいで、早かったのです。ただ、臨床試験が遅れた。安全性の確認が日本でできなかったので、差がついてしまったのですけれども、同じアジアの人で実際に打っても安全だということがわかれば、みんなで使えるのです。これから国産ワクチンや治療薬を出して行くという動きがあるわけですから、そこで一緒につくって行く。それをマーケットとして、どう東南アジアに広げて行くか。感染症対策、健康危機管理という意味でも非常に重要なパートナーです。
日本としても台湾の国連機関への参加を支援する
飯田)コロナ対策については、台湾もかなり先行して来たという話がありますが、その辺りの治験がなかなかWHO等々の国連機関で共有できない、オブザーバー参加も認められない部分がある。そのため、ブリンケン国務長官が26日に、「台湾の国連機関への参加を支援して欲しい」という声明を発表しています。中国に対してプレッシャーをかける意味もあると思いますけれども。
相良)「一つの中国原則」がありますから、中国としては絶対に飲めないと思います。WHOなどの専門機関や世界に対し、台湾が専門性を持っていて、貢献したいと思っているわけですから。オブザーバーでもいいので、台湾にいかに国連機関の活動へ入っていただくかというのが、今後ますます重要になると思います。
飯田)この辺り、日本としてできることはありますか?
相良)CPTPPへの申請についても、日本は明確にポジションを出して、台湾の申請を支持するということも言っています。ここはアメリカと足並みを揃えつつ、できることはいろいろあると思います。
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