「怒り」はときに社会を動かすが、その副作用も大きい ~佐々木俊尚
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月19日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。メディアプラットフォーム「note」に寄稿した、怒りが引き起こす「憎悪の連鎖」と「思考停止」について解説した。
怒りはときに社会を動かすのだが
ジャーナリストの佐々木俊尚氏がメディアプラットフォーム「note」に、『「怒り」はときに社会を動かす。しかしその副作用もきわめて大きい』という興味深い文章を寄稿している。ここでは、延々と続く「怒りと憎悪の連鎖」について訊く。
飯田)「怒り」という話ですが、てっとり早くここに行くという人が多いだけに。
ウイグル弾圧の発端は「9.11」であった
佐々木)確かに、怒りが社会を動かすケースはありますが、怒りがないと社会が動かないわけでもありません。「すべての怒りが社会を動かしたわけではない」ということは、意識しなければいけないと思います。逆に副作用が大きすぎるという問題もあります。前にも紹介しましたが、ジェフリー・ケイン氏の『AI監獄ウイグル』という書籍があります。新潮社から翻訳版が刊行されていますが。
飯田)そうですね。
佐々木)中国のウイグル弾圧について、いかに恐ろしいテクノロジーを使っているかという本です。そのなかでも指摘されているのだけれど、もともとウイグル弾圧の発端は「9.11」であったと。
飯田)同時多発テロであった。
佐々木)ウイグルの活動家たちが2001年の同時多発テロをきっかけに、アフガニスタンで軍事訓練を受けるようになった。アメリカ側がウイグル人反体制派の方々を、キューバにある「グアンタナモ収容所」に連れて行き、中国人に尋問させた。グアンタナモは国外にあるので、連邦法の制約を受けないから好き勝手できると。
飯田)国外なので。
佐々木)そして中国側は、「中国でもこうやってアメリカのように、何の根拠もなく連れて来て拷問していいのだ」ということを学んでしまい、ウイグルに弾圧を加えるようになった。そういう連鎖が起きていたのだという話が書かれています。
時代が変わっても怒りだけが連鎖している ~怒りをどうコントロールしてよりよい社会にするか
佐々木)9.11は、もともとはアルカイダの同時多発テロなのですけれど、アルカイダの発祥は、80年代のソ連のアフガン侵攻のときに、ソ連が共産圏を広げては危ないということで、アメリカのCIAがアフガンの反ソ連活動家に軍事訓練させてお金を出したという、そこから始まっているわけです。つまり現在のウイグル弾圧は、80年代のソ連侵攻から、延々と続く怒りと憎悪の連鎖の結果でもあるのです。
飯田)怒りと憎悪の。
佐々木)登場人物も代わり、加害者と被害者の関係も変わって来ているのだけれど、延々と怒りだけが連鎖しているという構図もあるのです。
飯田)加害者と被害者は変わっているけれど。
佐々木)怒りは止まらなくなってしまう。ツイッターでも、怒った人がその怒りを止められなくなって、それが連鎖して炎上に至るようなケースがたくさんあります。
飯田)SNSではよくあります。
佐々木)その怒りを我々がどうコントロールしながら、社会をよりよくして行くのか。その方法を問われている気がするのです。それができないと、怒りだけが増幅してしまうのではないかと思います。
「自分が正しい」と思った瞬間に、その怒りの正当性が証明されたと勘違いしてしまい、突き進んでしまう
飯田)怒りと、その発端となる「自分のなかの正義感」が暴走して行くということですかね。
佐々木)そうなのですよね。「地獄への道は善意で敷き詰められている」とよく言いますけれど、自分が正しいと思った瞬間に、その怒りの正当性が証明されたと勘違いしてしまって、突き進んでしまう。
「この怒りは本当に正しいのか」と問い直す作業が人間はできない
佐々木)だから常に「この怒りは本当に正しいのか」ということを問い直す作業をしなければならないのだけれど、人間はそれがなかなかできないですよね。怒ることは気持ちがいいですから。
飯田)怒りが解消されたときの気持ちよさや、拳を振り下ろす気持ちよさがあります。人間にとっての永遠のテーマかも知れません。
佐々木)それがコントロールできないから、いろいろな戦争が起きているのです。
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