ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月28日放送)に外交評論家・内閣官房参与の宮家邦彦が出演。ウクライナ情勢を受けて実施されたというアメリカのブリンケン国務長官と中国の王毅外相の電話会談について解説した。
中国とロシアの関係 ~敵の敵は敵ではないだけのこと
ウクライナの国境付近で軍事的な緊張が続いていることを受け、アメリカのブリンケン国務長官は1月26日、中国の王毅外相と電話で会談した。ブリンケン長官が外交的な解決の重要性を訴えたのに対して、王外相はロシアに配慮する姿勢を示した。
飯田)ロシアが安全保障についてさまざまな提案をして、それに回答した。そのあとに、中国の外相と電話会談をしたという流れですが。
宮家)中国がロシアに「配慮した」という、「味方をした」という報道なのですが、中露は本当に味方同士なのでしょうか。「敵の敵は『味方』」ではなく、中露の場合、「敵の敵は『敵ではない』」ということだけだと思います。
飯田)敵ではない。
宮家)中国からすれば、アメリカの矛先が中国に向いているわけだから、ウクライナの問題でアメリカが忙しくなったことに対し、ロシアには「(アメリカを)忙しくしてくれてありがとう」と思うかも知れません。ウクライナと台湾を一緒にして考える人もいるのだけれど、両者は本質的に違うと思います。
ウクライナはロシアにとって生命線
宮家)中国がロシアにとって脅威ではないとは思わないけれど、プーチンさんの頭のなかでは、90年代にソ連が崩壊し、西側にやられるだけやられて、NATOが東方へ拡大し、我々の勢力圏をみんな獲っていってしまったではないかと。さらにウクライナまで獲るのかということです。
飯田)そうなると、国境を接してしまうではないかと。
宮家)ベラルーシ、ウクライナ、ジョージア辺りは、ロシアにとっての生命線なのです。プーチンさんは当分はNATO方面、ウクライナ方面を見て行くのだろうと思います。だからアメリカに対し譲歩しようがないのです。
飯田)降りようがない。
宮家)ただ、プーチンさんが本当は何を考えているのかは、わからない。いろいろな意見があって、私も正直に言うと彼の頭のなかまではわかりません。
飯田)何を考えているかはわからない。
宮家)しかし、プーチンさんは意外と勝負する男です。不愉快だけれど、軍事力の使い方は極めて上手だし、国際感覚もある。交渉はえげつないけれど上手です。ですから、いまのアメリカを見て、「バイデンはあまりたいしたことがないな」と思っているかもしれない。これから米中で覇権争いをするのであれば、ヨーロッパに必ず隙ができるだろうと。そこでアメリカの足元を見て、とにかくウクライナだけは絶対にNATO化を許さないし、少なくともNATOに関しては少しでも……。
飯田)戻すと。
一枚岩ではないヨーロッパ ~ロシアを刺激したくないドイツ
宮家)NATOの大陸ヨーロッパ側と、アメリカの間の関係をよくさせたくない、離間させたい。それによってロシアに対する圧力を減らしたい、ということだと思います。ヨーロッパだって一枚岩ではないのです。ドイツを見ていると不安定ですよね。
飯田)政権交代もありましたしね。
宮家)政権交代もあるのですが、今回、ドイツがウクライナにやったことは何か知っていますか? ヘルメットを5000個送っただけです。
飯田)ヘルメットを5000個送っただけ。
宮家)今のウクライナで「5000個もヘルメットを送っていただいて、ありがとうございます」と言う人はいないですよ。他の国はもっと最新の兵器をくれているのに、ドイツは何をやっているのだと。エストニアがドイツ製の大砲を持っているので、それをウクライナに送ろうとしたところ、ドイツが待ったをかけているそうです。要するにロシアを刺激したくないわけですよ。
飯田)ドイツは。
宮家)大陸ヨーロッパのNATO諸国間にも温度差があって、特にドイツが煮え切らない態度を取っている。アメリカとイギリスは海洋国家で、シーパワーだからロシアには強く出ているのですが、ドイツなど大陸で陸上国境を接している諸国とロシアの関係は、そんなに簡単なものではありません。どちらがキツネでどちらがタヌキかはわかりませんが、化かし合いをやっています。見ごたえはありますが、1つ間違えると大失敗するということです。
ロシアの要求には応じていないアメリカ
飯田)アメリカのバイデン大統領は、去年(2021年)の12月に「兵員を動かさない」という発言もありましたが、その辺もプーチンさんが動く1つの要因にはなっていますか?
宮家)バイデンさんは「アメリカは軍事介入はしない」と言ってしまった。もちろん、しないのだとは思います。ただ、「そこまで言ってしまうのはどうか」という議論があるくらい、米露間では非常に微妙な交渉をいまやっているのです。状況としては、アメリカが文書でロシアに対して回答したわけです。
飯田)そうですね。
宮家)ロシアが求めているのは、NATOをこれ以上拡大するなということです。できれば、いまいるところからも出て行って欲しいと。それに対してアメリカは、いっさい答えていないと報道されています。実際の中身がどうなのかは、アメリカが秘密にしてくれと言っているので秘密にされていますが、いろいろな報道を読むと、ロシアの要求にはまったく応じていない。
飯田)応じていない。
宮家)ラブロフさんは「あまり楽観的にはなれない」と言っていますが、あれも脅しで、最後はプーチンさんの判断次第だと思います。
飯田)「プーチン大統領に判断してもらう」とラブロフさんは言っています。
宮家)所詮、ロシアの外相とはそういうものです。
ウクライナはロシアの一部だと考えているプーチン大統領
飯田)その文書の回答について、先週辺りから報道が出ています。そのなかで、「NATOとして大規模演習をロシアの近くではやらない」というようなことが盛り込まれるのではないかと言われていますが。
宮家)「透明性の拡大」などという言葉は、ロシアにとって嬉しくも何ともありません。ロシアが知りたいのは、NATOにウクライナが入るのか入らないのか、アメリカがウクライナを諦めるのかどうか、ということです。「諦めろ」と言っているのですから。
飯田)しかし諦めるとなると、武力による現状変更に近いものになりますよね。
宮家)そこは「ウクライナは独立国家だろう」と、「あなたは宗主国でも何でもないでしょう」ということです。
飯田)19世紀的なパワーゲームのようになってしまう。
宮家)プーチンさんの頭のなかはそうなのです。確かに、ウクライナも中国における台湾に似ている部分があります。要するに、ウクライナはロシアの一部だということです。
飯田)もともとソ連時代は。
宮家)ソ連時代の前からです。文化的にも人種的にも、極めて近い兄弟なのだと。「だから独立国家ではないのだ」と言わんばかりのことを言っているのです。そもそもプーチンさんは、冷戦でソ連は負けていないのだと。共産主義はなくしたけれど、むしろ、それを我々は手伝ったのだと。それなのに西側はなぜ土足でこちらに入って来るのだと言っているのです。
飯田)約束が違うではないかと。
宮家)そうです。1990年に、これ以上拡大しないと約束したではないかと。東ドイツが最後だと言ったではないかということです。そんなことは誰も約束していないのですが。とにかく、問題を爆発させないように注意していればアメリカの勝利だし、ロシアの抑止に失敗したら、アメリカにとっては外交的にも大きな失敗になると思います。
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